不快な過去
(ヤンマ・フミコ視点)
霧に包まれた荒野。息が詰まるような濃い霧のせいで何も見えない。足元には果てしなく続く湿った草があるだけで、空さえ見えない。
自分の体を見下ろすと、泥だらけのボロボロの黒い服を着ていることに気づく。まるで野生動物に襲われたかのように、ズタズタに引き裂かれている。
他にすることもなく、俺は歩き始める。
だが、何も見つからない。何も変わらない。ただ果てしない草の海が目の前に広がっているだけだ。
突然、すぐ真後ろに気配を感じる。振り向かなくても、それが誰なのか絶対的な確信を持って感じ取れる――生涯ずっと知っていた真実だ。
ゆっくりと振り返り、一人の子供と視線を合わせる。それは、まだ小さな女の子だった頃の俺自身だ。
彼女は青い飾りのついた繊細な白いドレスを着ており、片腕をリラックスさせて横に下ろし、短刀をだらりと握っている。彼女は優しく、希望に満ちた笑顔で俺を見上げる。
「強くなりたい」と子供がささやく。「至高の剣士に…なれるくらい強く」
俺はハッと目を開ける。またあの夢か…
窓の外で、雨が激しく打ちつける音が聞こえる。今朝は太陽が顔を出しそうにない。
そろそろ仕事の準備をしなければ。俺は質素な宿屋に住んでいるため、部屋はそれほど広くない。
顔を洗った後、清潔な白いシャツと丈夫な黒いズボンを身につける。この天気なので、厚手のワインレッドのマントを手に取り、フードを頭からかぶる。
きしむ木の階段を下り、出口近くのロビーに出る。この宿の主人である年配の男性と若い女性は、すでに大きなフロントデスクの後ろに配置につき、早起きの客を迎える準備をしている。
そういえば、まだ家賃を払っていなかったな。
「おはよう」カウンターを通り過ぎながら、俺は男と少女に挨拶する。
「おはようございます」彼らは声を揃えて答える。
確かなことは言えないが、あの少女は彼の娘だろう。家賃の安さを考えると、比較的小さな家族経営に違いない。
この雨は厄介だが、どうしようもない。俺が砂糖でできていたら、もっと心配していただろうが。
空はどんよりとした、あざのような灰色だ。一日中土砂降りになるに違いない。
チッ。雨の中での仕事はいつも本当に面倒だ。
城へ向かう途中、地元のパン屋に立ち寄り、パンの切れ端とグラス一杯の牛乳を急いで胃に流し込んでから、再び悪天候の中へと足を踏み出す。
石畳の通りは完全に無人で、店もようやくドアを開け始めたばかりだ。この辺りの朝はたいてい静かだが、雨の日の首都は完全にゴーストタウンのように感じる。
ずぶ濡れの短い道のりを経て、城の敷地に到着する。俺は立派な正門は使わず、通用口から滑り込む。ルートは機能的に同じだが、こちらの方がはるかに目立たない。
とはいえ、通りがこれほど過疎っているなら、どちらにせよ誰にも気づかれなかっただろうが…
軍の訓練場に入ると、近くに住む数人の熱心な騎士を除いて、実質的に空っぽだった。
彼らは俺に短い敬礼をし、すぐにそれぞれの任務に戻る。
一人は泥の中で射手用のボロボロになった藁の案山子を交換しており、もう一人は日よけの下に座って、刃を丁寧に研ぎ、鎧の板を磨いている。
俺は将校用の武器庫のテントに入る。俺個人の鎧は、俺が置いたスタンドの場所で正確に待っている。
まず、胴体全体を覆うように鎖帷子のシャツに袖を通し、それから重い鋼の装甲板を一つずつ熟練の手つきで固定していく。
次第に、より多くの兵士たちが訓練場に集まり始め、シフトの準備をしながらうめき声を上げている。雨は霧雨に弱まってきたようだが、空は依然として重苦しく暗い。
「気をつけ!」俺は吠える。
その命令が唇から離れた瞬間、すべての兵士が完璧で厳格な陣形に整列する。
「標準のストレッチを遂行しろ!その後、通常の毎日の巡回任務に移行する」俺は命令する。「各分隊は、あらかじめ定められた門で夜警と交代しろ!分かったか!?」俺は雨音を切り裂くように声を張り上げる。
「はい、隊長!」小隊が声を揃えて叫ぶ。
「もし異常な事態が発生した場合は、直ちに副官に直接報告しろ」俺はきっぱりと付け加える。「解散!」
「はい、隊長!」騎士たちは復唱し、陣形を崩してストレッチを始める。
さあ、一日のうちで一番好きな時間の始まりだ。自分の専用テントに引きこもり、魔法のように厄介事が俺を見つけてくれるのを座って待つ時間だ。隊長としての生活は、特にこの王国のように静かな場所では信じられないほど平和だ。
俺が公式に行動を要求されるのは、極端な最終手段の状況下のみだ。つまり、レゴリオでは本当に危険なことなど絶対に起こらないので、実質的には何もないということだ。
指揮用テントに入り、机の後ろにある頑丈な木製の椅子に腰を下ろす。そこにはすでに、恐ろしい量の書類の山が俺を待っている。
間違いなく、これがこの仕事の最悪な部分だ。考えてみれば酷く皮肉なことだ。軍の階層を登れば登るほど、実際に直面する物理的な危険は減っていくのだから。
机を散らかしている書類は、主に新しい軍の志願者からの正式な志願書だ。
常備軍への入隊を許可される前に、彼らは過酷な身体検査と総合的な筆記試験に合格しなければならない。
これらの文書には、彼らの最終スコア、戦闘プロフィール、そして心理評価が含まれている。
採用試験は年に一度しか行われず、合格率が著しく低いことで有名だ。通常、俺が官僚的な事務処理を処理している間、実際に身体テストを管理しているのは副官たちだ。
頭が麻痺するような書類の束を片付けた後、俺はようやく昼休みをとる。
いつものように、訓練場の近くの安い酒場へ向かい、冷えたエールの瓶を買い、カウンターでゆっくりとそれを飲んでから、重い足取りでテントに戻る。
数時間後、ウィリアムが毎日の訓練のためにやって来る。
雨はようやく止んだが、空はまだ厚い雲に覆われており、空気は重く、不快なほど湿気を含んでいる。
ウィリアムの現在のスキルレベルを考慮し、俺たちのスパーリングは厳格に木製の訓練用剣を使って行われる。
俺たちの決闘の大部分はまだ俺が勝っているが、彼は毎日目に見えて上達している。彼の攻撃的な打撃についていくのが、本当に難しくなってきている。
もしかしたら、俺は本当にただ年をとっているだけなのかもしれない…新しい世代が、俺たちのような遺物を埃の中に置き去りにするのは絶対確実だ。
スパーリングのセッションが終わると、ウィリアムはベンチに倒れ込んで息を整える。その間、俺は鎧のバックルを外し始め、装備を慎重にスタンドに戻す。
「あなたの昔の友達はすごく強かったって言ってたよね?」ウィリアムが軽く息を切らしながら尋ねる。
「俺の記憶が確かなら、そうだな」と俺は答える。「どうしてそんなことを聞くんだ?」
「その人が実際にあなたより強いのか知りたくて。もちろん、失礼な意味じゃないよ」ウィリアムはデリケートな話題を避けて通るようなタイプではなかった…
「最後に彼に会ってからずいぶん経つな。実際、何度か手紙を書こうと思ったこともある」俺は鎧のラックに寄りかかりながら考え込む。「でもそうだな、最後に一緒に戦った時、彼は間違いなく俺より強そうだったよ」俺は深いため息をつく。「俺たちは同じ冒険者ギルドで活動していたんだ」
「待って、ギルドにいたの!?」彼はショックで目を見開いて尋ねる。
「当然だろ。俺が完全に一人でモンスターと戦いながら世界を放浪していたと本気で思ってたのか?」俺は笑う。「実を言うと、俺の友人はそのギルドに長くは留まらなかったんだ。一週間くらいで辞めてしまったんだが、俺たちはしばらく連絡を取り合っていた…」俺は彼の向かいのベンチに座りながら言う。
「見た目よりずっと経験豊富なんだね」とウィリアムが感想を述べる。
経験豊富と呼ばれて喜ぶべきか、それとも間接的に年寄り扱いされて激怒すべきか、本当に分からないな…
「それっていつ頃の話なの?」と彼は尋ねる。
「正式な冒険者ライセンスを取得した直後だよ。知っているか分からないが、公認の魔法学院を卒業すると、自動的にそのライセンスの一つがもらえるんだ」俺は説明する。「ライセンスを手に入れた瞬間、俺は積極的にギルドを探して加入した。だが…結局、俺もすぐに辞めることになった」
「有名な冒険者になれたかもしれないのに!」ウィリアムは明らかに不満そうに叫ぶ。「どうして辞めちゃったの!?」
「パーティーのメンバーの役に立たなかったからさ」俺は硬くなった自分の手を見つめながら、ぶっきらぼうに答える。「俺は彼らにとって、何の役にも立たないお荷物にすぎなくなってしまった…そして正直なところ、たぶん彼らが正しかったんだ」
完全に正直に言うと、俺は今日に至るまでまだ自分をお荷物だと感じている。他の誰かが俺よりも無限にうまく俺の仕事をこなせるんじゃないかと、常に感じている。
心の底では、俺がウィリアムを訓練することに同意した唯一の理由は、ようやく自分が本当に誰かの役に立っていると感じられるからだと思っている…
「役に立たないなんてことないよ!」ウィリアムは激しく反論する。「あなたは…あなたは文字通り近衛騎士団の隊長だよ!お荷物だなんて絶対にありえない!」
「俺がもっと若かった頃、俺も今のお前と全く同じ夢を持っていた」湿った木の床板の隙間をなぞりながら、俺は静かに言う。「至高の剣士になることだけが俺の望みだった…だが、俺には単にその才能がなかった」
ウィリアムは完全に黙り込む。どうやら俺の言葉が、厳しい現実として彼に突き刺さったようだ。
「才能…」彼は小声でつぶやく。
「俺は英雄的なことなんて何もしたことがない。人々が歌に書くようなことなんて、何も成し遂げたことがない」俺は空虚な声で続ける。「俺には残す遺産がない。至高の剣士たちの中に立つに値するような、伝説的な歴史がないんだ」
「至高の剣士になるために、英雄的なことをしなきゃいけないなんて誰が言ったの!?」ウィリアムは反抗に満ちた声で言い返す。「最強であることって、悲劇的で感動的な生い立ちを持つことじゃない!ただ弱きを守り、悪者を倒すことだよ!」
「ああ…」彼の言う通りだ。「俺がお前くらいの歳の時に、誰かがそう言ってくれたら本当に良かったのにな…」
「夢を追いかけるのに遅すぎるなんてことないよ!」彼は宣言する。
彼にとってそう言うのはとても簡単なことだ。彼にはまだこれからの人生が丸ごと残っている。物理的な限界を打ち破る時間がまだある。
「それには反対せざるを得ないな、ガキ」俺は悲しそうに微笑む。「俺みたいなオバサンが、その称号をかけて世界最大の神童たちと競い合えると本気で思ってるのか?」
自分がそこまで年老いていないことは分かっているが、今まさに魔法学院を卒業してくる若き天才たちと比べれば、俺の全盛期はすでに過ぎ去っている。
「それは完全にあなた次第だよ」
醜い真実は、俺が自分の自由意志でギルドを去ったわけではないということだ。俺のチームメイトたちが実質的に俺を追放したのだ。他に行く当てもなく、俺はただ生き残るためだけに軍の試験に応募したここレゴリオに辿り着くまで、目的もなく放浪していた。
俺は合格し、歩兵隊に入隊させられた。俺は決して最強の兵士ではなかったが、実用的であったし、いくつかの重要な任務でどうにか頭角を現すことができた。
そのおかげで、俺は26歳で副官に昇進した。この特定の軍隊で昇進することは、正確にはそこまで困難な仕事ではなかった。正直に言うと?今でもそうだ。
この王国は不気味なほど平和だ。過去50年間、近衛兵の総動員を必要とするような出来事は一度も起きていない。テロ攻撃も、モンスターの暴走もない。完全に停滞した、平和なユートピアだ。そしてその自己満足は、王室の受動的な性質を色濃く反映している。
当時の隊長はすでに引退の口実を探していた。彼が遅刻し始め、シフト中に居眠りをするようになった時、俺は疑念を抱いていた。俺が有能だと証明した瞬間、彼はその重責を俺に押し付ける絶好の機会だと見たのだ。
正式に隊長に昇進した時、俺はまだ28歳だった――このような高位の役職としては信じられないほど若い年齢だ。非常に経験不足で、人生の明確な方向性も欠いていた俺は、恐怖を飲み込んでその責任を引き受けた。実際のところ、その仕事が複雑だったことは一度もなかったが。
今、33歳でここに座っていると、本気で辞任を考えてしまう。剣を振るうこと以外で、自分の人生で何かをしたい。
俺の存在全体が、終わりのない、疲れ果てる肉体的および精神的な闘争だった。もし普通の職業に就けば、ついに平和を見つけられるかもしれない。俺は結構いい料理人になれると思う。結婚だってできるかもしれない――積極的に夫が欲しいわけではないが、その経験は面白そうに聞こえる。フリフリの白いウェディングドレスに身を押し込んでいる自分を想像するだけで笑いそうになる…
「いや。そんな大きな夢を見るには、俺はもう歳をとりすぎた。もし時間を巻き戻せるなら、間違いなく違うやり方をしていただろうな」俺は彼に心からの笑顔を見せながら言う。「だが、ありがとう、ウィリアム。お前のおかげで、自分ではたどり着けなかった視点から物事を見ることができたよ」
ウィリアムは眉をひそめ、ひどく混乱した様子だ。彼は明らかに俺の笑顔の裏にある苦い皮肉を理解していないが、それは俺だけが背負うべき重さだ…
家路につく少年に手を振って別れを告げ、俺自身も街への帰路につき始める。
当然のように、俺の足は宿屋の近くの賑やかな酒場へとまっすぐ向かっている。
到着する頃には、空はすっかり夜に屈し、激しい土砂降りが再開していた。
俺はバーの真正面にある高い木製のスツールに腰を下ろす。一人のバーテンダーが布切れで汚れたジョッキを乱暴にこすり洗いしており、もう一人はうるさくて要求の多い客に給仕するために必死に駆け回っている。彼らの後ろには、想像できるあらゆる種類の酒が積まれた巨大な木製の棚がある。
混雑した部屋の向こう側では、陽気な吟遊詩人がリュートを弾き、アップビートな酒場の舟唄を歌い、ひどく酔っ払った何人かの地元民が、おそらく自分たちではダンスだと思っているステップでよろめき歩いている。
「いつものですか、隊長?」バーテンダーがエプロンで手を拭きながら近づいてきて尋ねる。
「今夜は何か…もっときついのはあるか?」こめかみを揉みながら俺は尋ねる。
ウィリアムとのあの深い会話は、俺の感情を信じられないほど消耗させた。
「うーん…」男はだらしない顎をこすりながら考える。「お客様にぴったりなものがあると思いますよ…」彼は振り返り、一番上の棚を探し始める。
彼はクリスタルのように澄んだ液体で満たされた滑らかなボトルを掴み、小さなグラスにたっぷりと注ぐ。次に、新鮮なレモンをスライスし、その苦い果汁をアルコールに直接絞り入れる。彼は氷を三つ放り込み、グラスの縁にレモンウェッジを飾り、木製のカウンターの上を滑らせて俺の方へ押しやる。
「これの正確な名前はなんだ?」俺は疑わしげにその飲み物を見つめながら尋ねる。
「これは『リトル・ドラゴン』と呼んでいます」彼は誇らしげな笑みを浮かべて答える。「きつく酸味のある刺激と、危険なほど甘い後味の完璧なバランスで有名なんですよ」
彼が大げさに言っているかどうか、試してみるか…
グラスを唇に運ぶと、レモンの鋭い柑橘系の香りが鼻を突く。俺は思い切り喉に流し込む。味は信じられないほど爽やかだ――衝撃的なほど甘いが、暴力的なほど強い。酒が喉を真っ直ぐに下る燃えるような道を作り、即座に胸を熱で満たす。砂糖が酸っぱいレモンと凍てつく氷を完璧に切り裂き、絶対に完璧で致死的なバランスを作り出している。
「どうやら嘘じゃなかったみたいだな…」俺は口を拭いながらつぶやく。
俺はもう一杯注文する。そして三杯目。そして四杯目…
ん?
なんで目の前が真っ暗になっていくんだ?
俺、本当に気絶したのか?




