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白き竜への鎮魂歌(レクイエム)  作者: 栢瀬千秋
始まりの街・アベントゥーラン
15/18

第15話:次なる依頼

 ――黄金の鹿亭


「しっかし……えげつない交渉をしたのう」


 食事を終え、ツインベッドの一つに腰を掛けつつプエラリフィアがそう呟く。

 無論彼女も本気でそう言っているわけではなく、どこか揶揄うような雰囲気を醸し出しながらレオニスにそう告げている。

 対するレオニスは平然とした表情だ。


「なに、あの程度で文句を言うような相手じゃないさ。それに、俺たちを試していたのは元々向こうだろう? 少しくらいは意趣返しをさせてもらいたいじゃないか」

「あれは意趣返しなどと呼べるレベルかのう……」


 レオニスはあの後、ギルドの解体エリアにてランドドラゴンを取り出し披露することとなった。

 口の堅い職員により即刻血液の一部が取り出され、特別なマジックアイテムによって保存され、即座に商会長に渡されたのである。

 商会長は頭を地面に付けんばかりに下げ、お礼を言うと共に報酬についての話をしようとした。

 だが、レオニスはそれを止め、『そちらで考えていただきたい』とだけ言い残して立ち去ったのだ。


「フィアは分かっているだろうが、商会長にとってはかなり悩みどころだと思うぞ」

「じゃろうな……どうするつもりであろうか」

「可能性としては……大元に話を持っていく、じゃないか?」


 商会長に、【ドラゴステアの秘薬】の材料収集を依頼していた大元のクライアント。

 レオニスは一応予想を付けており、恐らくそちらから報酬については話が回ってくると考えている。


「とはいえ……それだけだったなら、評価としては残念なことになるな」

「む?」


 前置きをしつつそう告げるレオニス。

 不思議に思いながら聞き返すプエラリフィアに対し、レオニスはニヤリと笑いつつこう告げる。


「俺は【ドラゴンの血液】を渡したことについての報酬については聞いたが、今回の件で商会の不手際への挽回策を与えた、という点については話していないからな。気付けば良し、気付かなければ……だな」

「……お主、実は悪党ではないのかのう」


 微妙に呆れた表情のプエラリフィアだったが、彼女とてレオニスの言わんとしていることは分かっている。

 ただ、そのくらいは知らせておいてもいいのではないか、という思いは少なからずある。


「こちらがそれだけの交渉を出来る、ということを見せておけば、向こうも下手な事を考えられないだろう? 力があるからこそ、自衛は必要だからな」

「ま、それもそうじゃな」


 そう言いながら、二人は眠りに就くのであった。


 ◆ ◆ ◆


 翌日、レオニスとプエラリフィアはミュゲ商会に呼ばれて、その応接室にいた。


「まず……昨日は助かった。おかげで【魔力暴走】は完治したようじゃ」

「そうですか、それは良かった」


 他の薬の素材は揃っていたが故、【ドラゴステアの秘薬】は作成され、【魔力暴走】を患っていた女性は治ったようだ。

 レオニスとしても別に協力しないつもりはなかったため、この知らせについては良かったと思っていた。

 と、そこで姿勢を正した商会長が膝を叩く。


「さて……」


 そう言って近くにいた男に目配せすると、男は一つのカードと、シルクの袋が載った銀の盆を持ってきた。


「まず、これは今回の件で、迷惑を掛けたお詫びじゃ。カードはこのミュゲ商会の恩人であることを示すもので、どのミュゲ商会の支店でも優遇や様々な特典を得られるようにするものじゃ。もちろん宿などでも使えるし、割引も利く」


 いわゆるVIPカードのようなものだろうと、レオニスは認識した。

 ミュゲ商会が本店を置くのはマーシャントブルグだが、他国にも手広く販路を持っている彼らだ。

 大都市圏でのこのカードの威力は、相当のものになるであろう。


「そして、あれだけのものを譲ってもらったからの、500万ディナルじゃ」

「あの血液の量でですか?」


 レオニスが渡したドラゴンの血液の量は、精々が50ml程度だ。

 それなのにあっさりと高額の報酬を渡してくる商会長に、少し驚き混じりの表情を向ける。


「そのくらいの価値は十分ある。それに、商会としては微妙な状況ではあるが、最悪な結果となったわけではないのでな」


 そう言ってニヤリと笑う商会長は、レオニスが考えていたことなど承知なのだろう。

 だがそれを咎めることはなく、逆に礼としてこれだけのものを渡してくるというのは流石というところだ。

 同時に、レオニスもレオニスで、この商会についての評価を上げざるを得ない。

 つまり今回の事において、商会の弱みであったり突くことの出来る部分が失われているということだ。


「それにの、このような判断や対応が出来る冒険者というのは希有じゃ。まず間違いなく【認定冒険者】となるであろうな」

「……なるほど。これでは商会長からの依頼は断りにくいですね」

「ほっほっほっ」


 『恩人である』と言いつつも、十分利用するつもりである商会長。

 こう言ったところは、機に聡い熟練の商人なのだろう。

 改めて相手取ることに厄介さを感じるレオニスであった。




 さて、話が終わり雑談となっていたころ、応接室に商会長の秘書がとある人物の来訪を伝えてきた。


「なんじゃと……? それは本当か?」


 どうやら意外な人物が現れたらしく、商会長は秘書に聞き直している。

 だが秘書の言葉は同じだったようで、しばらく怪訝な表情をしていた商会長は、その顔をレオニスとプエラリフィアに向ける。


「……実はな、大元の依頼主が二人に会いたいとの事なんじゃが……どうする?」


 商会長は微妙な表情をしているが、レオニスとしては折角なので接触しておこうと思い了承する。


「構いませんよ。お会いしましょう」

「分かった」


 そうしてしばらくした頃に、依頼主である人物が現れる。


「いやー、良かった。君たちが今回の……」


 陽気な様子で部屋に入りながらレオニスたちに声を掛けてきた男性は、声を掛けている途中で固まった。


「「……」」


 そしてそれはレオニスたちも同じ。

 なにせその人物というのが……


「……メゼンツェフ大公殿下?」

「……これはまた」


 エゴール・メゼンツェフ大公、その人だったのだ。

 大公もどうやら予想していなかったらしく、微妙な顔をしている。


「なんだ、レオニス君たちだったのかい? あの材料を持っていたって聞いたけど……」

「え、ええ。間違いないですが……大公が大元の依頼主だったので?」

「うん、そうなんだ」


 頷くと大公はレオニスたちに詳細を語り出した。

 というのも、レオニスが助けた公女は次女で、それ以外にもう一人長女である公女がいるらしい。

 レオニスは会っていないが、それもそのはず。【魔力暴走】により寝込んでいて動けなかったのだ。

 長女である彼女は、その魔法使いとしての腕と、そして外交手腕により嫁に出されるのではなく、ギレーナのために力を振るう女傑であった。

 だが、1ヶ月ほど前に【魔力暴走】に罹患し、どうにか抑えるために薬と、自身の魔法によって耐えてきたのだが、最近はどうにもならないほどになっていたのである。


「――おかげで娘は快方に向かっているよ。本当に助かった、ありがとう」


 そう言って頭を下げる大公。


「……お役に立てたのなら何よりです。――商会長、疑ったりして申し訳ありませんでしたね」

「いや、危険視するのも分からんでもない。こちらも詳細を明かせなかったからの、おあいこじゃ」

「そう言っていただけるなら助かります」


 嫌な話ではあるが、ここでこうやって口にする事で以降誰もこの件を蒸し返すことは出来なくなる。

 お互いこんなことで揉めたいとも思わないわけで、この対応に文句をつける者もいないのだが。


 さて、商会長とレオニスの会話を見守る大公は本題に入る。


「さて……レオニス君たちがこの件に関わっているなら、非常に助かるな。少し依頼したいことがあるのでね」


 依頼、という大公に対して目を眇めるレオニス。

 とはいえ、なんとなく方向性が読めてしまうのがレオニスの特技でもある。


「……どの程度の内容か、対価として何が得られるかが分かるのであれば」

「ああ、君ならそう言うだろうね」


 そう苦笑する大公が依頼内容を告げる。


「――今回、娘が病魔に冒されたのは策略によるものだ。そして、ミュゲ商会の商人が襲われ、手に入れていたドラゴンの血液の粉末を奪われたのも同じ。君たちには、その盗賊たちを捕らえて欲しい」


 大公の話によると、長女の魔力暴走は人為的に引き起こされたものらしい。

 謂わば、『毒を盛られた』と言ってもおかしくはない状況。

 とはいえ、レオニスとてそんな事の詳細は知らない。


「なにか証拠をお持ちで?」

「……まあ、詳しくは私の屋敷で話そうか」


 こうして、レオニスとプエラリフィアはまたもや大公邸にお邪魔することになるのであった。


 ◆ ◆ ◆


 ――大公邸から戻って・黄金の鹿亭


「……結構ややこしい話じゃな」


 プエラリフィアが溜息を吐きながらそう言う。

 聞かされた話としては、近隣の土地を治める他国の貴族が、かつて公女に交渉で負けた腹いせに企んだことらしい。

 もちろん、それなりに時間が経過しているとはいえ、証拠自体は少なからず存在している。

 だが、出来れば実行犯たちも確保しておきたいというのが大公の希望なのだろう。


『報酬としては、貴族街の手前、上級住宅街の一軒家と、今後の活動における様々なサポートを大公家から行うということでどうだろう? 【認定冒険者】になったのだから、望めば【クラン】創設も出来る。その辺りも含めて、支援したいと思うが、どうだね?』


 報酬はかなり破格のものだ。

 既にレオニスとプエラリフィアは、金銭面ではかなりの余裕がある。

 未だランク面では高くないが、そう経たないうちにCランクへの昇格も考えられている、と大公から告げられており、【認定冒険者】であることからも今後の活躍が期待されているのは間違いない。

 さらに大公は【クラン】についても触れている。


(クラン創設か……今のところは考えていないがな)


 クランとは【ギルド】に似たものだ。

 しかしギルドが大勢の冒険者を抱え、仕事を斡旋しているのに対し、クランは個人、あるいは特定のメンバーで動く。

 しかも扱いはギルド同格、つまり公的機関と並ぶ扱いなのだ。

 そのため依頼は直接、あるいは冒険者ギルドのギルドマスターからの相談委託によって行われる。

 そしてそれを創設するには、【認定冒険者】であること、Cランク以上であることという指定も存在している。

 つまりは、国と冒険者ギルド双方からの信頼が無い限り、創設が出来ないというわけだ。

 さらにそのことを大公が触れているので、大公からすればクラン創設を暗黙の内に認めると言っているのと同じ。


「――報酬はとんでもなくいいが……面倒な話だ」

「そうじゃな」

「まあ、貴族ならあり得る話なんだが……」


 そう言いながら溜息を吐くレオニス。

 プエラリフィアはレオニスの言葉を引き継いで口を開いた。


「例の粉末を奪った盗賊たちを捕らえておきたい、じゃが……そこまで盗賊が動かんものかのう?」


 プエラリフィアの疑問も尤もだ。

 盗賊というのは基本的に、自分たちが討伐される危険があれば即座に場所を移す。

 そのため、賞金首であればあるほど隠れるのが上手であり、そういった危険に対して敏感だ。


「普通の盗賊なら動くだろうが、こういう手合いはほとぼりが冷めるまで動かないものだ。特に本当の盗賊でないならばなおのことだろうな」

「なるほどのう」


 ミュゲ商会から荷物を奪った盗賊たちは、恐らくその貴族の私兵だろう。

 商会長曰く、盗賊にしては規律がしっかりしており、連携もかなり取れていたらしい。


「……とはいえ、何の準備も無しでは拙いからな。少し鑑定・探索系魔術の開発をしておこう」

「了解じゃ」


 レオニスは自らの魔道書【緋竜大星図】を取り出し、新たなページを開く。

 今回レオニスが組もうとしているのは、パッシブ型の探索魔術である。

 基本的に探索系の魔法や魔術はどれも、自らが魔力を発して、その結果跳ね返ってくる魔力によって相手の場所であったり数であったり、あるいは相手の強さを把握出来るものだ。

 さらに高度な魔術としては、【オープンコネクト】からの【データサーチ】による閲覧魔術だが、これは詳細が分かる代わりに相手との魔術的な接続が必要であり、また相手の魔力抵抗によっては弾かれる可能性もあるので、使いどころが難しい。


(対してパッシブ型のものを作れば、相手から発せられている魔力を捉えて探索できるからこちらの余剰な魔力使用を抑えられるしな)


 もちろん相手が魔力を発していなければ探知できないとはいえ、また情報が限られるとは言え、こちらの魔力を掴まれてしまうことは避けられる。


「そうなれば……いや、エーテルを利用して……それとも……?」


 ブツブツ呟きながら側にある紙に仕様やフローを書き上げているレオニス。

 だが、ふと何かを思いついたのか突然マナを身体の近くに纏わせ、霧散させないようにし始める。


「ほう、マナを霧散させずに体外で循環させるか。凄まじい精度じゃのう……」


 まるで自らの周囲にドームを作るような形でレオニスのマナが広がる。

 レオニスは【白】なので、エーテルとマナの特性が同じだ。

 しかもマナの出力も、普通の人々が発する程度のレベルに抑えている。


「……なるほどのう。この循環域に触れれば、お主に分かるわけじゃな?」

「ああ。最低でも半径500メートルくらいまでは探索できるようにしておこうと思う」

「……それはかなりコントロールが大変そうじゃな」


 確かにコントロールはかなり難しいだろう。

 だからこそレオニスは術式を組みながら、効率の良い動作をさせるために考慮していく。


「……循環によってマナを保持するよりも、損失率に合わせてエーテルを取り込む形が楽か? だがそうなると……いや、俺の特性を考えれば、あくまで情報の選別と抽出に割り振れば……」


 レオニスは術式を組みながら動作させ、再度調整することを繰り返す。

 さらに機能を追加する際には、必要な機能については他の術式からの参照を行う形で作り上げていく。

 生物は必ず魔力を少ないながらも持つので、周囲に放出されるそれを元に情報を得る式。

 術式使用者の視覚情報に対してレイヤーを重ねる形で、得られた情報を表示する機能。

 睡眠状態においても、キルゾーン付近は探索出来るようにする機能。


「お、終わった……」

「…………終わったか」


 気付いた頃には既に空が白み始めており、かなりの時間を式の開発と記述費やしていたことが分かる。

 一応その様子を見守っていたプエラリフィアだが、相当眠かったらしい。半分表情が死んでいる。


「……朝食を食べてから寝るか、それとも無視して寝るか……。悩みどころだな」

「……このまま朝食を食べぬと、空腹で死んでしまいそうじゃ。せめて水くらいは飲もうぞ」


 そんな話をしながら、二人は朝食を摂った後は泥のように眠ったらしい。

 結局活動開始したのは、その日の昼過ぎからだったとか。


 なお、この術式は【プローブ】という名前になったらしい。

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