第9話「学校に潜む影」
放課後の校舎。
蓮と黒川は、廊下の奥を見つめていた。
ズ……。
ズズ……。
何かを引きずる音が、少しずつ近づいてくる。
「……本当にいるのか?」
「間違いない」
黒川は札を握った。
「でも、まだ生徒が残ってる」
蓮が周囲を見る。
部活動をしている生徒。
教室で話している生徒。
教師の姿もある。
「このままじゃ……」
「騒ぐな」
黒川が蓮の腕を掴む。
「妖怪に気づかれたら、もっと危険になる」
「じゃあ、どうするんだよ」
黒川は少し考えた。
「俺が確認する」
「一人で?」
「お前はここにいろ」
「でも……」
黒川は廊下の先へ歩き始めた。
その瞬間。
ガタンッ!
近くの教室の扉が開いた。
「……!」
二人が振り向く。
教室には誰もいない。
ただ、窓が開いている。
風もないのにカーテンだけが揺れていた。
「……どこにいる?」
黒川が札を構える。
すると、天井から黒い液体のようなものが垂れてきた。
ポタッ。
蓮が顔を上げる。
「黒川……」
「見るな!」
黒川が叫ぶ。
だが遅かった。
天井から何かが落ちてくる。
ドンッ!
二人の前に現れたのは、人間のような姿をした妖怪だった。
顔の半分が黒く覆われ、長い腕が床まで伸びている。
「……見つけた」
蓮が後ずさる。
「こいつ……」
妖怪は蓮を見つめる。
「天照の匂いがする」
「やっぱり、俺を狙ってるのか」
「そうだ」
妖怪が腕を伸ばす。
黒川が札を投げる。
「来い!」
札が光り、妖怪の腕を弾き飛ばした。
「ぐっ……!」
黒川はすぐに別の札を取り出す。
「今のうちに逃げろ!」
「でも!」
「天照がなくても、時間は稼げる!」
黒川が妖怪へ向かって走る。
妖怪の腕が振り下ろされる。
黒川は横へ飛び退く。
ドンッ!
床が砕けた。
「くそっ……!」
黒川は必死に札を投げ続ける。
しかし、妖怪にはほとんど効いていない。
「この程度か」
妖怪が黒川を掴もうとする。
「黒川!」
蓮は走り出した。
「来るな!」
「放せ!」
蓮が黒川の腕を引っ張る。
二人は何とか逃げる。
しかし、妖怪は追ってくる。
その時――
「誰かいるの?」
廊下の向こうから、女子生徒の声がした。
蓮の顔が青ざめる。
「まずい!」
妖怪が女子生徒の方を見る。
「逃げろ!」
蓮が叫ぶ。
女子生徒は驚いて立ち止まる。
妖怪が腕を伸ばす。
「させるか!」
蓮が飛び出した。
黒川が叫ぶ。
「蓮!」
蓮は妖怪と女子生徒の間に立つ。
「こいつは……俺を狙ってるんだろ!」
妖怪が笑う。
「その通りだ」
「だったら――」
蓮は拳を握る。
「他の奴には手を出すな!」
だが、天照は家にある。
今の蓮には武器がない。
妖怪の腕が迫る。
「終わりだ」
その瞬間。
廊下の窓から夕日が差し込んだ。
蓮の胸元が――
淡く光った。
「……何だ?」
妖怪が動きを止める。
「その光……」
黒川も驚いている。
「まさか……」
蓮自身にも分からない。
だが、光は徐々に強くなっていく。
そして――
どこか遠くから、天照の音が響いた。
キィィン……。
蓮は息を呑んだ。
「……天照?」
家に置いてきたはずの刀が、今――
蓮を呼んでいた。
第9話 完




