第10話「呼応する天照」
校舎の廊下。
蓮の胸元から、淡い光が漏れていた。
「……何だ、これ」
光は次第に強くなる。
目の前の妖怪が、初めて後ずさった。
「その光……まさか」
黒川も驚いた顔をしている。
「蓮、何をしてる?」
「俺にも分からない!」
蓮が胸元を見る。
すると――
キィィン……。
遠くから、金属が響くような音が聞こえた。
「天照……」
蓮には分かった。
あの刀が、自分を呼んでいる。
「家にあるはずなのに……」
黒川がすぐに答える。
「天照は普通の刀じゃない」
「どういうこと?」
「持ち主と離れていても、一定の距離なら反応することがある」
「じゃあ……」
「お前が呼べば、戻ってくるかもしれない」
蓮は驚いた。
「そんなことできるのか?」
「やったことがないなら、分からない」
妖怪が二人へ向かってくる。
「話は終わったか?」
長い腕が振り下ろされる。
「危ない!」
蓮は女子生徒を抱えて横へ飛んだ。
ドンッ!
床が大きくへこむ。
「このままじゃ、みんなが危ない」
蓮は立ち上がった。
天照が必要だ。
でも家には母親がいる。
「……どうする」
黒川が蓮を見る。
「決めろ」
蓮は拳を握る。
「俺は……」
その時、女子生徒が震えながら蓮を見る。
「……助けて」
その一言で、蓮の迷いが消えた。
「来い……天照!」
叫んだ瞬間。
キィィィン!
遠くから強烈な光が走った。
「なっ……!」
校舎の窓が一斉に揺れる。
妖怪が警戒する。
「何だ……!」
光は校舎の外を走り、空へ舞い上がる。
そして――
蓮の手元へ向かって一直線に飛んできた。
「うそだろ……!」
蓮が手を伸ばす。
光が手の中で形を変える。
布に包まれた天照が、蓮の手に収まった。
「……来た」
蓮は天照を握る。
刀身が強く輝いた。
妖怪が唸る。
「その刀……!」
蓮はゆっくり構える。
「もう、逃げない」
妖怪が飛びかかる。
「ならば死ね!」
蓮も踏み込んだ。
ガキィン!
天照と妖怪の爪がぶつかる。
今までとは違う。
蓮の身体が軽い。
妖怪の動きが、はっきり見える。
「これなら……!」
妖怪の腕をかわし、横へ回り込む。
天照を振り抜く。
キィィン!
光の斬撃が妖怪を吹き飛ばした。
「ぐあああっ!」
妖怪は壁に叩きつけられる。
蓮は追撃しようとする。
だが――
「待て!」
黒川が止めた。
「それ以上は危険だ!」
蓮は足を止める。
妖怪はよろめきながら立ち上がる。
「……今日は、退く」
黒い煙が身体を包む。
「だが、覚えておけ」
妖怪は蓮を睨む。
「天照を持つ者は、必ず狙われる」
そのまま妖怪は煙となって消えた。
静かになった校舎。
蓮は天照を見つめる。
「……終わった?」
黒川は首を横に振った。
「始まったばかりだ」
「え?」
「今の妖怪は、天照を知っていた」
黒川は真剣な顔で続ける。
「つまり、天照を狙っている妖怪たちは、すでに動き始めている」
蓮は黙った。
その言葉の意味を、少しずつ理解していく。
普通の高校生だった自分の日常は、もう戻らないのかもしれない。
それでも蓮は天照を握りしめた。
「……だったら、強くなるしかない」
黒川は蓮を見る。
「その言葉、覚えておけ」
そして二人は、静まり返った校舎を後にした。
第10話 完




