第8話「知っている少年」
放課後。
蓮は廊下を歩きながら、さっきの少年のことを考えていた。
昨日、公園にいたことを知っていた。
それだけじゃない。
あの少年が持っていた札。
神社で見たものと、同じ印だった。
「……気になる」
蓮は校舎を出ると、校門の近くで足を止めた。
そこに、あの少年がいた。
「やっぱり来た」
「お前……」
「待ってた」
少年は落ち着いた様子だった。
「名前、聞いてなかったな」
「俺は黒川蓮司」
「黒川……」
「お前は天城蓮。合ってる?」
「なんで俺のことを?」
「昨日のことを知ってるから」
蓮の表情が変わる。
「やっぱり、あれを見てたのか?」
「全部じゃない。でも、妖怪がいたことは知ってる」
蓮は周囲を見る。
誰もこちらを気にしていない。
「……妖怪って、本当にいるんだな」
「昨日、自分で見ただろ?」
「それは……」
言葉に詰まる。
黒川はポケットから一枚の札を取り出した。
「これ、見覚えある?」
蓮は札を見る。
そこに刻まれている印。
「……神社にあった札と同じだ」
「やっぱりな」
黒川は札をしまった。
「俺は昔から、こういうものを調べてる」
「一人で?」
「まあな」
「なんで?」
黒川は少し黙った。
「……昔、妖怪に会ったことがあるから」
蓮は驚いた。
「妖怪に?」
「ああ」
黒川は空を見上げる。
「その時、何もできなかった」
その声には、悔しさが混じっていた。
「だから調べてる。妖怪がどこから来るのか。何のために現れるのか」
蓮は黙って聞いていた。
「それで、お前を見つけた」
「俺を?」
「昨日、公園で妖怪と戦ってただろ」
「……見てたのか」
「遠くからな」
黒川は蓮の腰を見る。
「天照は?」
蓮の表情が固まった。
「……!」
「持ってきてないのか」
「家に置いてる」
「それが正解だ」
「どういうこと?」
「妖怪に狙われてるなら、学校に持ってくる必要はない」
蓮は少し安心した。
しかし黒川は続ける。
「でも、家に置いていても安全とは限らない」
「……え?」
黒川の表情が変わった。
「昨日倒した妖怪。あいつ一匹だけじゃない」
「分かってる」
「いや」
黒川は蓮を見る。
「近くに、もう一体いる」
その瞬間。
二人の後ろにある校舎の窓が――
カタッ。
小さく揺れた。
蓮が振り返る。
「……今の、何?」
黒川は札を握った。
「来るぞ」
「何が?」
黒川が校舎を睨む。
「妖怪だ」
校舎の中から、何かを引きずる音が聞こえる。
ズ……。
ズズ……。
蓮の顔から血の気が引いていく。
「まさか……学校に?」
黒川は静かに答えた。
「その可能性が高い」
二人は校舎を見つめる。
まだ、生徒たちは何も知らない。
そして蓮は気づいていなかった。
その妖怪が狙っているのは――
自分だけではないことを。
第8話 完




