第7話「日常の裏側」
朝。
蓮は制服の袖を通しながら、昨日のことを思い出していた。
妖怪を倒した。
天照の力を使った。
それでも、実感が湧かない。
「お兄ちゃん、早くしないと遅刻するよ」
「分かってるって」
リビングへ行くと、美咲がパンを食べながらスマホを見ていた。
「最近、帰るの遅くない?」
「……そうかな」
「この前も遅かったじゃん」
「ちょっと寄り道してただけ」
「ふーん」
美咲は蓮をじっと見る。
「なんか隠してない?」
「何も隠してないって」
蓮は笑って誤魔化した。
母親も蓮を見る。
「本当に気をつけなさいよ」
「うん」
蓮は家を出た。
妖怪のことは、まだ誰にも話せない。
家族を巻き込みたくなかった。
学校へ向かう途中、蓮は昨日の妖怪の言葉を思い出す。
『お前を狙っているのは、俺だけじゃない』
「……これから、どうなるんだろうな」
学校に着く。
「おはよう、蓮!」
「おはよう」
友達と話しながら教室へ入る。
授業もいつも通り。
昨日までと何も変わらない。
それが少しだけ安心できた。
昼休み。
蓮は友達と弁当を食べていた。
「そういや、昨日この辺で変な音聞かなかった?」
「変な音?」
「夜、犬がすげぇ吠えてたんだよ」
「へぇ……」
蓮の手が止まる。
「何かあったのかな」
「さあ?」
友達は気にせず話を続ける。
蓮だけが考え込んでいた。
妖怪の仕業かもしれない。
だが、確かめることもできない。
その時。
教室の後ろから声がした。
「妖怪じゃない?」
蓮は振り返る。
一人の男子生徒が立っていた。
見覚えのない顔だった。
「……妖怪?」
蓮の表情が変わる。
少年は何でもないように笑う。
「最近、この辺で変なことが起きてるだろ?」
「……そうなの?」
「知らない?」
「知らないけど」
蓮は警戒する。
少年は蓮をじっと見る。
「そう」
それだけ言うと、自分の席へ戻っていった。
「……何なんだ、あいつ」
放課後。
蓮が教室を出ようとすると、その少年が廊下に立っていた。
「天城蓮」
「……俺の名前、知ってるの?」
「同じ学校なんだから知ってるよ」
少年は笑う。
「それよりさ」
一歩近づく。
「昨日、公園にいたよな?」
蓮の表情が固まる。
「……何のこと?」
少年は答えない。
ただ、蓮の目を見て笑った。
「じゃあ、また明日」
少年はそのまま歩いていった。
蓮は動けなかった。
「……あいつ、何を知ってる?」
そして少年の手には――
小さな古びた札が一枚握られていた。
第7話 完




