第5話「天照を持つ者」
翌朝。
蓮は目を覚ますと、昨日の出来事を思い出した。
「……あの妖怪」
腕を見る。
昨日、妖怪に襲われた場所は赤くなっている。
「夢じゃなかったんだよな……」
机の横には、布に包んだ天照が置いてある。
昨日までは、ただの不思議な刀だと思っていた。
だが、今は違う。
妖怪がこの刀を知っていた。
そして、自分を狙ってきた。
「……学校、どうしよう」
蓮はしばらく考えた。
結局、いつも通り学校へ行くことにした。
家族には何も話さない。
母親に余計な心配をかけたくなかった。
学校に着く。
「おはよう、蓮」
「おはよう」
友達と話しながら教室へ入る。
昨日のことが嘘だったかのように、いつも通りの時間が流れていく。
授業。
休み時間。
昼休み。
笑い声。
何も変わらない。
それなのに、蓮だけは落ち着かなかった。
窓の外を見る。
昨日、妖怪が現れた場所。
「……何もいない」
そう思った瞬間。
校舎の裏から、猫の鳴き声が聞こえた。
「ニャー……」
蓮が窓を見る。
その鳴き声に混じって、低い唸り声が聞こえた。
「……今の」
蓮は席を立とうとする。
しかし、授業中だった。
「天城、どうした?」
教師に声をかけられる。
「すみません……何でもないです」
蓮は席に座った。
放課後。
蓮はすぐに帰宅した。
自分の部屋へ入り、天照を取り出す。
「……これを持ってれば、また襲われるかもしれない」
それでも、昨日のように何もできないのは嫌だった。
蓮は天照を布で包み、鞄に入れようとする。
その時――
キィン。
刀が微かに光った。
「……?」
蓮は手を止める。
天照から、昨日とは違う感覚が伝わってくる。
まるで、何かを知らせているようだった。
「……外?」
蓮は窓の外を見る。
何もない。
だが、胸の奥がまたざわついている。
昨日、神社へ向かった時と同じ感覚。
「……行ってみるか」
蓮は天照を持ち、家を出た。
向かったのは、学校の裏手にある小さな公園。
誰もいない。
「何もないじゃん……」
蓮が辺りを見回す。
その時。
公園の奥にある茂みが揺れた。
「……!」
昨日の妖怪かと思い、蓮は身構える。
しかし、出てきたのは一匹の猫だった。
「猫……?」
猫は蓮を見ると、すぐに逃げていった。
「なんだよ……」
安心した蓮が息を吐いた、その瞬間。
背後から声がした。
「そこにいたか」
蓮が振り返る。
昨日とは違う妖怪。
体は小さい。
だが、昨日の妖怪よりも鋭い目をしている。
「また妖怪……」
妖怪は蓮の持つ天照を見る。
「やはり、その刀か」
蓮は天照を握る。
「……今度は逃げない」
自分でも驚くほど、声は震えていなかった。
妖怪が笑う。
「その刀を扱えると思っているのか?」
「分からない」
蓮は構える。
「でも……昨日みたいに何もできないのは嫌だ」
妖怪が地面を蹴る。
一瞬で距離が縮まる。
「来い!」
蓮は天照を振り上げた。
キィィン!
刀身が光る。
妖怪の爪と天照がぶつかった。
「ぐっ!」
蓮の身体が後ろへ押される。
「重い……!」
妖怪がさらに力を込める。
蓮は歯を食いしばった。
その瞬間。
天照の光が、強くなる。
「……!」
蓮の身体が反応する。
刀を横へ振り抜いた。
「うおおっ!」
光をまとった天照が、妖怪を弾き飛ばした。
妖怪は地面を転がる。
「な……何だ、その力……!」
蓮自身も驚いていた。
「俺が……やったのか?」
妖怪は立ち上がる。
しかし、蓮の天照を見ると、距離を取った。
「今日は退く」
「待て!」
妖怪は闇の中へ消えていった。
蓮は天照を見つめる。
「……俺にも、戦えるのか?」
だが、その答えはまだ分からない。
天照は静かに光を失っていった。
第5話 完




