第4話「追われる少年」
「はぁ……はぁ……!」
蓮は必死に走っていた。
背後から、木々を踏み倒すような音が近づいてくる。
「待てぇ……!」
「なんなんだよ、あいつ!」
蓮は振り返らない。
昨日までは、妖怪なんて存在すら知らなかった。
それなのに今、自分は妖怪に追われている。
「くそっ!」
角を曲がる。
だが――
「……え?」
目の前に、さっきの妖怪が立っていた。
「なっ……!」
蓮は慌てて足を止める。
「逃げられないぞ、人間」
妖怪がゆっくり近づいてくる。
「お前……俺を狙ってるのか?」
「刀の匂いがする」
「刀?」
「天照だ」
蓮は息を呑む。
妖怪は牙を見せて笑った。
「天照を持つ者を見つけたら、知らせろと言われている」
「誰に?」
妖怪は答えない。
ただ、蓮へ飛びかかる。
「うわっ!」
蓮は横へ転がって避ける。
妖怪の爪が電柱をえぐった。
「こんなの……まともに食らったら死ぬ!」
蓮は立ち上がり、再び走る。
その時、ポケットのスマホが落ちた。
「しまった!」
拾おうとした瞬間、妖怪の爪が迫る。
蓮はとっさに腕で顔をかばった。
「ぐっ!」
身体が吹き飛び、地面を転がる。
「痛っ……!」
腕を見る。
制服が破れている。
幸い、大きな傷ではない。
しかし、立ち上がろうとしても足に力が入らない。
妖怪が近づいてくる。
「終わりだ」
蓮は地面に座ったまま、妖怪を見上げる。
怖い。
身体が震える。
それでも、昨日の玄冥の言葉を思い出した。
「……俺は……」
蓮は拳を握る。
「まだ、何も分かってないんだよ」
妖怪が腕を振り上げる。
「だったら――」
蓮は必死に立ち上がった。
「こんなところで終われるか!」
その瞬間。
遠くから、かすかな音が聞こえた。
鈴の音。
チリン……。
妖怪が動きを止める。
「……何だ?」
蓮も振り返る。
道路の向こうに、人影が立っていた。
顔はよく見えない。
だが、その人物は妖怪を見ている。
「……誰だ?」
蓮が呟く。
人影は何も言わない。
妖怪が警戒する。
「人間……?」
その瞬間、人影が一歩前へ出た。
妖怪は蓮から視線を外し、その人物を睨む。
「お前……何者だ」
人影は答えない。
ただ、静かに手を上げた。
すると――
妖怪の足元に、小さな光が走った。
「ぐっ!」
妖怪が飛び退く。
蓮は驚いて、その人物を見る。
だが、次の瞬間には――
人影は姿を消していた。
「……消えた?」
妖怪も周囲を見回す。
「ちっ……!」
そして妖怪は蓮を睨む。
「今日は見逃してやる」
「え?」
「だが、天照を持つ者は必ず見つける」
妖怪は闇の中へ走り去っていった。
蓮はその場に立ち尽くす。
「……何だったんだ、今の」
助けてくれた人物。
妖怪が口にした「天照」。
そして、玄冥の言葉。
蓮の中で、いくつもの疑問が膨らんでいく。
家に帰れば、天照がある。
だが――
もう今まで通りの日常には戻れない。
第4話 完




