第41話「王の気配」
門の奥。
暗闇の中で、巨大な二つの眼が開いていた。
蓮は天照を構えたまま動けない。
「……何だ、あれ」
湊の顔から血の気が引く。
「分からない……でも、あの妖気……」
黒川も門の奥を見つめていた。
「今までの妖怪とは、桁が違う」
隼人は刀を握りしめる。
「玄冥……なのか?」
その言葉に、獄牙が反応した。
「違う」
「え?」
「玄冥様は、こんな場所にはいない」
獄牙は門を睨む。
「ここにあるのは、王へ繋がる道の一部だ」
蓮が聞き返す。
「じゃあ、あの目は何なんだ?」
獄牙は答えなかった。
その瞬間――
門の奥から、低い声が響いた。
『……人間……』
空気が震える。
湊が思わず後退した。
「声……?」
『……天照を持つ者……』
蓮の身体が強張る。
「俺のことを知ってるのか?」
『……その力……』
巨大な眼が蓮を見つめる。
『……懐かしい……』
天照が強く光る。
蓮は刀を握り直す。
「お前は誰だ!」
返事はなかった。
代わりに――
門が大きく揺れ始めた。
ゴゴゴゴゴ……!
黒川が叫ぶ。
「全員、離れろ!」
次の瞬間。
門から凄まじい妖気が吹き出した。
蓮たちは吹き飛ばされる。
「うわっ!」
蓮は地面を転がり、何とか立ち上がる。
獄牙も距離を取っていた。
その表情には、初めて明確な警戒が浮かんでいる。
「……まだ完全には開かないか」
蓮が獄牙を見る。
「お前でも、あれを恐れてるのか?」
「恐れている?」
獄牙は蓮を睨む。
「違う」
「なら何だよ」
「待っているだけだ」
獄牙は門へ視線を戻す。
「この先には、王へ至るための道がある」
「玄冥のところへ行くつもりか?」
「ああ」
獄牙の妖気が膨れ上がる。
「だが、今のお前たちに来てもらっては困る」
蓮が構える。
「だったら、止めてみろ!」
獄牙が踏み込む。
ガキィン!
蓮が天照で受け止める。
「ぐっ!」
隼人も加勢する。
「蓮!」
二人で獄牙を挟み込む。
しかし獄牙は二人の攻撃をかわし、地面へ爪を突き立てた。
「今日は戦うつもりはない」
「何だと?」
獄牙は距離を取る。
「門が開いた。それだけで十分だ」
「待て!」
蓮が追おうとする。
しかし、獄牙は黒い妖気に包まれて消えていった。
静寂が戻る。
湊が門を見る。
「……行っちゃった」
黒川が首を振る。
「今は追わない方がいい」
蓮も門を見る。
「でも、あいつは玄冥のところへ行く」
隼人が呟く。
「俺たちも行くしかない」
蓮は頷いた。
その時。
門の奥から、再び声が響いた。
『……蓮……』
「!」
蓮が振り返る。
だが、そこには何もない。
門も、先ほどまでの光を失っている。
湊が蓮を見る。
「今……名前を呼ばれた?」
蓮は答えられなかった。
自分の名前を知っている存在。
天照に反応した謎の声。
そして、玄冥へ繋がる門。
蓮は天照を強く握った。
「……俺は、もっと知らなきゃいけない」
四人は門を見つめ続けた。
その頃――
遠く離れた場所。
玄冥は静かに目を開いた。
「……天照」
その声に、周囲の妖怪たちが顔を上げる。
百鬼の王は、ゆっくりと立ち上がった。
「ついに……現れたか」
第41話 完




