第68話 目録
書式の綴りは、要る紙の名を三つ、決めていた。渡す側の判と、受ける側の判。そして、目録だ。移す束の中身を、一枚ずつ数えて書き付ける紙。正規の移管は、目録なしには、動けない。呼んだのが向こうでも、数えるのは、束をいま持っている側だった。
クロイスは、数え始めた。
葉の数を数え、判番号を写し、欄の要点と日付を書き付ける。下から積んだ控えの一枚目から、順に番号を振っていく。地方の棚から抜かれた分の写しに始まり、門を越えた許しの写しを過ぎ、名が入って出ていった欄の写しまで。一枚数えるたび、目録の行が一行増える。追ってきた線の長さが、行の数になっていく。灯りを近づけて読む夜が、二晩あった。二晩目の終わりに、行の数は、束の厚みに追いついた。
角の欠けた一葉の番には、手が一拍、止まった。死んだ手の癖から起こした写し一枚、と要点の欄に書く。番号を振る。行が一行、増える。それだけにした。
行の並びには、番号の増えた順も残る。どの判が、どの判の後に動いたか。束を読めない者が目録だけを見ても、そこまでは読めない。だが、束を読んだ者が見れば、目録は、束の形を紙一枚の上に写している。
最後の行は、紙ではなかった。綴りの上の縁に、白いままの線が一本ある。出所への問いだ。目録の末尾に、そのまま書いた。上の縁に、白いままの線、一本、と。問いも、数えれば、行になる。原本がどの高さへ運ばれても、この行は、数えた側の控えに残る。
八月の末の朝は、空気が少し軽くなっていた。夏が、緩み始めている。数え終えた目録は、二部になった。原本に添える一部と、渡す側に残る控えが一部。
◇
期日の日、上位の使いが、段を降りてきた。
無言だった。名乗りもない。差し出されたのは、受ける側の判だけだ。局長が机の脇に立ち会って、渡す側の判を押した。
「数えたか?」局長が、低く聞いた。
「全部」
読み合わせが、始まる。クロイスが目録の行を読み、使いが束の葉を繰る。葉の数、214。判番号と、欄の要点と、日付。行と葉が、一つずつ合っていく。読み違いは一つも出ない。角の欠けた一葉も、読み上げられ、繰られ、合った。最後に、白い線の行。使いは、束の上の縁を一度だけ見て、何も言わず、判を取った。
受領の判が、目録に落ちる。原本に添える一部に、それから、控えの一部に、同じ判が落ちた。
束が、机の上から、持ち上げられた。
使いは、来たときと同じ無言で、段を上っていった。追ってきた線の全部が、届かない高さへ、運ばれていく。机の上には、目録の控えが一部、残った。綴りの厚みのあった場所が、空いている。
局長は、控えに落ちた受領の判を、一度だけ確かめた。それから、何も言わずに、控えをクロイスの側へ戻して、段を上っていった。渡し終えた机に、急かしの来る理由は、もうない。
「数は、合ったのか?」ライサが言った。机のこちら側の席から、空いた場所を見ている。
「合った」
それだけの、会話だった。
◇
翌朝、クロイスは、目録の控えから写しを一部起こした。照合に要る写しの一式を揃え、業務の紙として、回付する。宛は、王家の受理の席。受理された摘発の綴りに係る、続きの紙だ。続きの紙が通る宛は、もう、敷いてある。新しく作った経路ではない。書いた宛の先へ、決まった順に、回っていくだけだった。
返りを待つ日が、幾日か続いた。朝の棚を確かめ、空なのを見て、机に戻る。九月に入って、朝の空気は、日ごとに軽くなった。窓の外の蝉は、もう、思い出したようにしか鳴かない。紙は、決まった速さでしか動かない。それは、こちらの紙も、同じだ。
返りは、戻ってきた。
目録の写しの上に、受理の席の判が、押されている。朱は、新しい。摘発の受理の一枚に押されていたのと、同じ判だ。脇に、一行、添えてあった。
この綴りに係る続きの紙は、以後も、この席で受ける。
文庫で女は、その席を引き受けると言った。返書には、「以後も」と「続きの紙」とある。装丁のない帳面の行も、この宛を通る。
クロイスは、机の上に、二つを並べた。受理の判の押された目録の写し。渡す側に残った、目録の控え。原本は、届かない高さへ行った。取り返す紙は、ない。
どの葉に、どの判番号があり、どの欄に何が書かれていたかは、数えてある。移管の判に添えた目録は、受理の席を通った。原本のどこかを消せば、目録との差が出る。
白い線は、目録の末尾の行になって、受理の席の記録の上にある。白いままだ。だが、この白さは、もう、誰にも消せない白だった。
クロイスは、控えの、角の欠けた一葉の行に、目を戻した。書いた要点は、一行きりだ。目録の中で、いちばん短い行だった。その行の下の余白だけが、まだ、何も載せないまま、机の上で空いていた。




