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王立諜報局・第二局分析官  作者: どみさん


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第53話 次の席

 増えた一枚から、三日。正規の経路で、また一枚が机に戻ってきた。


 中央の受付からの回付だった。封を解く照会が、封の出所の席で止まり、そこから、もう一つ上の席へ、回付をやり直している。その起案の控えが、写されて、こちらへ回ってきていた。封は、まだ解けていない。棚番号も、変わっていない。だが、回付をやり直すために、また一つ、判が押されていた。番号が一つ、欄に増えている。


 クロイスは、その控えを、机の上の二枚の横に並べた。これで、三枚になった。一枚目は、封を出した席の判だ。二枚目は、封を解こうと動いた席の判。そして今日の一枚が、回付をやり直した席の判だった。番号は、三つとも違う。別々の席のように見える。


 だが、並べる順を、変えてみた。向こうが動いた順だ。差し止めを崩そうとして、手を変えるたびに、一つずつ増えた番号。三枚の控えの、回付の連なりを、順にたどる。どの一枚にも、動いた席の判の前に、もう一つ、判が押されていた。封を出すにも、解くにも、回付をやり直すにも、その席は、先に一つ上の席へ判を上げ、そこの許しを取ってから、動いている。上げた先の番号は、三枚とも、同じだった。


 向こうは、手を変えるたびに、その席を通っている。封を解くにも、回付をやり直すにも、まず一つ上の席へ判を上げなければ、動けない。上げれば、その番号が、控えに残る。三枚の控えに、同じ一つ上の席の番号が、三度、残っていた。


 控えの端には、封の朱が、三つ。乾き方が、少しずつ違う。一番古い一枚から、今日の一枚まで、日付は、途切れずに続いていた。一手が差し戻されると、その翌日には、もう次の手が立っている。急いで、というより、止まった場所から、順に、上へ判を上げ直しているような動き方だ。どの手も、同じ一つ上の席で、一度、止まっていた。


 クロイスは、地図を見た。線は、中央財務の手前で、止まっている。伸ばせなかった線だ。右下の角の濃さのない写しが、後から指した先。そこまで引いて、止まった。だが、三枚の判番号を動いた順に並べると、番号は、その止まった線の先へ、一段だけ上がっている。封を出した席、解こうと動いた席、回付をやり直した席。三つの下の席が、どれも、同じ一つ上の席を指していた。線の先が、その一つ上の席まで、番号で継がれている。


 継いだのは、クロイスの線ではない。向こうが、手を変えるたびに、自分で判を上げ、自分で番号を残した。それを、動いた順に並べただけだ。


 ただし、その一つ上の席の、さらに上は、白いままだった。線の先端は、中央財務の、一つ手前で止まっている。その席に、誰が判を回させたか。本体の欄には、まだ、何も入っていない。向こうが手を止めれば、番号は、そこで増えるのをやめる。線も、そこで止まる。


 書庫の扉が、外套の裾ごと開いた。ライサが入ってくる。椅子には、手をかけない。机の端まで来て、並んだ三枚の前で止まる。


 「増えたのか」


 「三枚になった」クロイスは、回付の三段目を、指で示した。「向こうは、手を変えるたびに、まず一つ上の席へ、判を上げている。上げなければ、封も解けない。回付もやり直せない。上げれば、番号が控えに残る。三枚とも、同じ席を通っていた」


 ライサは、三枚の番号を、上から下へ、一度ずつ追う。それから、動いた順の並びに、指を置いた。


 「一人も、出していない」と、ライサが言った。「中央の係に、指一本、かけていない。なのに、向こうが、自分で三つ、席を書いた」


 「動かなければ、封は崩せない。動けば、判が残る」


 「これは、あんたが書いたんじゃない」ライサの指が、三枚目の番号の上で止まった。「向こうが、勝手に書いた。手を変えるたびに、自分の通った席を、一つずつ」


 そこで、一度、切れた。ライサは、椅子に手をかけないまま、三枚目の番号の上に指を残している。あんたの指示書で隊員が死ぬ、と言った声は、机の上には出ていない。隊員の名も、死亡退職の欄もない。あるのは、向こうが自分で押した三つの番号だけだ。


 「前は、綴りが一つ、棚に残っただけだった」ライサは、並びから、指を離さない。「一人も出さずに、あいつの角が指したものを、棚に残した。あれは、結果だ。だが、これは、違う。残ったんじゃない。向こうが、書いた。手を変えるたびに、自分で、席を」


 「封を、一枚、載せただけだ」クロイスは、地図から目を上げなかった。「動いたのは、向こうだ」


 「次に向こうが動けば」と、ライサが訊いた。「また一枚、次の席が書かれるのか」


 「書かれる。向こうが動けば、だ」クロイスは、白い欄を指で示した。「だが、この上は、白いままだ。その席に判を回させた本体は、まだ、何も残していない。向こうが手を止めれば、そこで止まる」


 ライサの視線は、白い欄で止まり、三枚の並びへ戻った。何も、書き足さない。取り消しもしない。机の端から離れて、地図と三枚の前を一度ずつ通り、書庫を出ていった。扉が、静かに閉まった。


 机の上には、動かない地図と、三枚の判番号。線は、中央財務の手前で止まったままだ。だが、その止まった先では、三枚の番号が動いた順に一段ずつ上がっていた。封を出した席から、解こうと動いた席を経て、回付をやり直した席へ、番号は同じ高さに寄っていく。三つの下の席が、同じ一つ上の席を指し、その席で、番号は止まっている。


 クロイスは、三枚を、動いた順のまま、机に置いた。段のように、席が一つずつ上がっている。上げたのは、向こうの手だ。手を変えるたびに、一段ずつ、自分の通った席を、書き足していた。


 線の先端は、その一つ上の席で、止まっていた。その先の欄は、白い。向こうが次に動けば、番号は、もう一段、上がるかもしれない。だが、白い欄は、向こうが動いても、埋まらない。そこに判を回させた席は、まだ、一度も、動いていなかった。


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