第52話 動いた判
差し戻しの控えから、三日。正規の経路で、また一枚が机に戻ってきた。
中央の受付からの回付だった。保管課の綴りに載った差し止めの封、それを解いてくれという照会が、封の出所の席へ回される途中で、控えだけがこちらへ写されて回ってきている。照会の欄には、封を解く根拠として、一つの判が押されていた。移送を通す係の判ではない。封を出した席と同じ高さの、別の席の判だ。番号が一つ、欄に残っている。
クロイスは、その控えを、地図の脇に並べた。三日前の差し戻しの控えの、すぐ横だ。棚番号は、変わっていない。地図の線が指した保管先、右下の角の濃さのない写しが後から指した、あの棚。そこの綴りを、向こうは今度は、封ごと解こうとしていた。移そうとして差し戻され、今度は封を解く照会を立てた。手が、順に変わっている。だが、綴りは、まだ棚から出ていない。照会は、封の出所の席へ回された。そこを通らなければ、封は解けない。
照会の紙には、回付の印が三つ、縦に連なっていた。保管課から中央の受付へ、受付から封の出所の席へ。日付は、差し戻しの控えの翌日から始まっている。移送が差し戻された、その次の日には、もう封を解く照会が立っていた。向こうは、一手が止まると、間を置かずに次の手へ移っている。急いで、というより、手筋を一つずつ順に潰しているような動き方だ。だが、どの手も、封の出所の席で一度止まる。止まった場所には、そのつど、動かした判の番号が残った。
解く根拠に押された判。その番号を、クロイスは既に一度、机の上で読んでいた。差し止めが差し戻しで戻ってきたとき、封を解くには同じ高さの判をもう一つ動かすしかない、と読んだ。動けば、その判番号が控えに残る、と。今日、控えに残った。どこの席が綴りを消したがったか、その席の番号が、一つ増えている。
地図は、昨日と同じ位置にあった。線は、中央財務の手前で止まったままだ。バルナバスには、まだ指一本、届いていない。増えたのは、封を解こうと動いた席の番号一つ。本体の欄は、白いままだった。動いたのは、向こうの照会と、そこに残った判だけだ。
書庫の扉が、外套の裾ごと開いた。局長ハーグレイヴが入ってくる。燭台の火が、外気に一度傾いだ。局長は机の端まで来て、二枚の控えを見た。
「向こうが動いたか?」
「封を解く照会が立った」クロイスは、増えた番号の欄を指で示した。「移送を通す係の判では、封に届かない。だから、封を出した席と同じ高さの、別の判が要る。それが一つ、押された」
「立ち入りは、止めたままでな」局長は、控えの判番号から目を上げなかった。「向こうは、こちらの中央立ち入りを差し止めた盾を下ろさずに、封の側を崩しに来た。政治で押さえたまま、手続きで解く」
「解くには、動くしかない」クロイスは、地図の脇の一枚を、動かさなかった。「封は、出した席と別の席では、そのままでは解けない。解こうとすれば、照会を立て、判を押す。押せば、その番号が控えに残る。今日、一つ残った。どこの席が、この綴りを消したがったかが」
「その照会に、答えるのか?」
「答えない」クロイスは、地図から目を上げなかった。「封を出したのは、こちらではない。照会は、封の出所の席へ回っている。答えるのも、その席だ。こちらの机は、増えた番号を控えるだけでいい」
局長は、しばらく黙っていた。それから、外套の内で腕を組んだ。
「消したい者ほど、動けば、名を置いていくか?」
「今までは、消された後の紙を読んでいた」クロイスは、右下の角の濃さのない写しを、指の先で示した。消された痕だ。あの照合掛の手が十年つけた角が、写せなかった場所を、後から指していた。「消し終えた痕を、後から読む。だが、封を一枚載せてからは、向こうは動かなければ、綴りに手が届かない。動けば、判が残る」
「読む側から、書かせる側へ、か?」局長の声は低いままだった。だが、そこで一度、切れた。「だが、その一枚は、まだ席の番号だ。封を解こうとした席まではたどれても、その席に誰が判を回させたか——本体の欄は、白いままだろう。向こうが照会を引っ込めれば、そこで、増えるのも止まる」
「止まる」クロイスは、認めた。「向こうが動かなければ、番号は増えない。地図も、動かない」
局長は、二枚の控えをもう一度見て、それ以上は加えなかった。外套の裾を返し、扉へ歩く。火が、また一度傾いだ。扉が閉まって、書庫は元の静けさに戻った。
机の上には、動かない地図と、二枚の控え。線は中央財務の手前で止まったままで、向こうの棚の本物にはまだ届かない。撤退は、撤退のままだ。
だが、二枚の控えの並びだけが、少し違って見えた。三日前の一枚は、向こうが移そうとして差し戻された控え。今日の一枚は、向こうが封を解こうとして残した判だ。どちらも、向こうが動いた紙だった。これまで地図の上に置いてきたのは、消された後の角——濃さのない右下が、後から指していた場所だ。読み取る紙だった。今日の一枚は、違う。向こうに、書かせた紙だ。
クロイスは、消された角の写しの横に、増えた判番号の控えを置いた。片方は、消し終えた手が残した不在。もう片方は、消そうと動いた手が残した番号。並べると、同じ棚を、二つの側から指していた。
前の生では、詰めた束が、開かれないまま棚へ戻り、そこで終わった。向こうは、動く必要さえなかった。今度は、棚のものを動かすなと書いた一枚が載っているために、向こうは動かなければならない。動くたびに、番号が一つずつ、机に戻ってくる。
地図は、動かない。だが、その脇で、向こうが動いた紙が、一枚から二枚になっていた。




