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王立諜報局・第二局分析官  作者: どみさん


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第41話 記録を作る側

 徴税官の登録簿を、もう一度机の中央へ置いた。前の晩に名を当てた行は、まだ同じ位置で開いている。クロイスはその行の先を読まなかった。徴税官という職そのものの規程を、棚から引いた。登録簿の隣に、職務の規程を並べる。名を読む前に、その職がどの棚を開けるのかを確かめるための手順。


 規程の条文は乾いていた。徴税官は、所管の領地に限らず、全領地の徴収記録に正規の職務として手が届く。各領の徴収高の照合、過不足の補正、凶作年の補填の差配——どれも、徴税官の判が一つあれば、地方の棚を開いて差し替えられる。地方領主は自分の領地の徴収しか触れない。徴税官は、その上を横に通っていた。


 クロイスは条文の一行を、指の腹で押さえた。


 器を先に作り、金を後から入れ、登録者の欄を空けて伏せる。あの型を、地方領主一人ずつが自分で考えついたとは、もう思っていない。設計図を渡した手があった。その手が、全領地の徴収に正規で届く立場なら、同じ型を、領地ごとに、徴税の枠の内側へ配って回ることができる。地方領主は「自分の領地で抜いた」と思っている。だが抜きの段取りは、上から正規の職務として地方の棚へ入っていた。


 クロイスは規程を脇へ寄せ、これまでに作った図を全部、机に広げた。


 レーフェ、フレンセン、北東の二領地。四つの抜きの図は、一つずつ読んだとき、どれも末端だった。地方領主一人の罪、一つの領地の水増し、一筋の金の流れ。机の上で四枚の図が別々に閉じていた。


 その四枚を、徴税官の職掌の地図の上へ重ねていく。


 徴税官が補正に入った領地、補填を差配した領地——規程に付いた所管の一覧を、図の下に敷く。敷いた途端、抜きの落ちた領地の点が、その一覧の上にちょうど乗った。レーフェも、フレンセンも、北東の二つも、徴税の補正が正規に通った領地だった。抜きの配られた先が、徴税の正規ルートの上に、一つずつ並んでいる。


 余白に、線が一本入った。


 別々に閉じていた四枚は、職掌の地図の上で一本の経路になった。徴税官が正規の職務で巡る順に、抜きが置かれていた。補正が通った年の順に点をたどると、抜きの並びと、徴税の正規ルートの並びが、机の上で同じ向きに走る。どの領地も同じ型、同じ順、登録者の欄が同じ位置で白い。地方の摘発で二つ落とした束は、この経路の端の二点でしかなかった。残りの点は、まだ落ちずに地図の上に乗っている。


 クロイスは机の端に手をついた。


 クロイスは、末端を全部読んでいた。レーフェも、フレンセンも、北東も、一つずつ写しと控えで端まで読んだ。一つずつのときは、ただの地方の抜きだった。だが全部を一つの設計の手で束ねて、職掌の地図に重ねたとき、机には別の紙面が残った。徴税の正規ルートを骨にして、各領地へ同じ抜きを置いた一つの仕組み。全領地に張られた金の網は、所管一覧の上に置いた四つの点と、その間を走る線として机にあった。


 新しく解いたものは、何もなかった。図はもう描いてある。職掌の規程も、棚にずっとあった。所管の一覧も既にそこにある。三つを同じ机に並べて重ねただけだ。ただ、末端を端から端まで読んだ者でなければ、四枚を一本に繋ぐ点を、机の上に持っていない。


 その全体図が見えるのは、いま、この机だけだった。


 書庫の扉が、外套の重みごと開いた。局長ハーグレイヴが、燭台の灯りを揺らして入ってくる。机の上に広げた図を一瞥し、すぐには近づかず、扉の脇で足を止めた。


 「起案は読んだ」と局長が言った。「委任元に、名が入ったそうだな」


 「徴税官バルナバスです」


 局長の視線が、机の図を端から端へ一度なぞった。それから、扉の方へ半歩戻る。距離を取る者の足だった。


 「地方の領主とは、棚が違う」と局長は言った。「徴税官は中央の職制だ。全領地の徴収に判を通す立場の人間に手をかけるなら、地方を一つ落とすのとは重みが違う。政治の側が黙っていない。第二局の机だけで済む話じゃない。お前が紙でどれだけ詰めても、紙の外で止められる」


 「承知しています」


 「承知している、で済む格じゃない」局長は燭台を持ち直した。「で、紙の側はどうなんだ。落とせる見込みはあるのか」


 クロイスは、机の図に視線を戻した。落とせる、とすぐには言えなかった。


 「地方領主は、記録に抜きを残しました」と、しばらくしてから言った。「水増しの行、伏せた登録者の欄、別口への差額。矛盾が記録に残っていたから、紙で突けた。落とせたのは、向こうが痕跡を記録に残す側だったからです」


 「徴税官は違うのか」


 「徴税官は、記録を作る側です」


 局長は何も言わず、燭台の灯りを揺らした。机の図の上で、灯りの輪郭が一度伸びて、また縮んだ。


 「自分の不正を、徴税官が職務として処理した正規の記録に入れられる立場です」とクロイスは続けた。「補正も補填も、徴税官の判が一つあれば正規の手続きになる。だからバルナバスの抜きは、不正の記録としてではなく、職務の記録として棚に入っている。名は末端の判番号にしか出てきません。本体の方は——職掌の正規の欄に、職務として書かれている」


 局長の視線が、扉の脇から机の図へ落ちた。図の中心、末端の線が集まる一点には、番号だけが残っている。


 「突くべき矛盾が、無いということか」


 「地方領主のときに使った手は、本体には通じません」


 書庫の灯りが、図の上で一度沈んだ。机の上には、四枚を重ねた所管一覧が広がっている。端の二点は、もう落ちて閉じた。だが線の中心にある手は、痕跡を記録に残す側ではなかった。落とした末端には、名が判番号でしか出ない。本体の座る正規の欄は、職務の記録として白く埋まっている。読む側の机から、作る側の欄は、まだどこも開かない。


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