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王立諜報局・第二局分析官  作者: どみさん


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第26話 三か所

 六月の初め、書庫。六月一日に捕らえた受け渡し役は、第二局の証言室にいた。


 聴取の記録が、机に届いた。男が吐いたのは、次に金を渡す相手の名、一つだけだった。その先は知らない、と書いてある。受け取って、次へ回す。それだけが自分の役目だと。


 クロイスは、その次の一人を手配した。数日して、結果が戻る。同じだった。その者も、自分が金を渡す相手しか知らない。また一段。また、次の一人の名だけだった。


 段を一つずつ潰しても、頂点は誰の口にも上らない。一人を聴いて、次の一人。それを聴いて、また次の一人。獲るたびに一段ずつ上がるが、最後の一段は、いつも先にあった。このまま登っても、頂点には永遠に手が届かない。


 しかも、一段登るたびに、日が要る。手配して、押さえて、聴いて、次の名を得る。その間に、上の段は、欠けた受け渡し役を、新しい誰かで立て直す。追う速さより、組み直す速さの方が、いつも速い。


 クロイスは、聴取の手配を止めた。


 下から数えても、頂点には番号が振られていない。登り方が、間違っている。数える向きを、変える。


 ◇


 クロイスは、商業ギルド本部に、登録者なしの預り口座の一覧の閲覧を申請した。以前と、同じ手だ。許しが出ると、ギルドの事務官の立ち会いのもと、第二局地下書庫で一覧を開く。クロイスは、現地へは行かない。紙の方を、こちらへ呼ぶ。


 一覧を見て、確かめる。


 登録者なしの預り口座は、王都に十か所もない。以前、ライサが書庫で口にした数字だ。そのうち、本店規模で動かせる口座は、さらに少ない。いくつもの領地から、毎期、定額を受け続けられる規模の口座は、三か所だけだった。


 クロイスは、これまでに出た地方領主の抜きを、口座ごとに並べ直した。男爵レーフェは、毎期、金貨2000を抜いていた。子爵フレンセンは、1500を抜いていた。聴取で名が出た、北と東の二つの領地も、同じ型で抜かれている。四つの領地。だが、入り先の口座は、四つではなかった。


 四つの領地から出た金は、三か所の枠の中に収まった。地方の、離れた領地の金が、十か所には散らばらない。三か所に、寄っていた。


 三か所の口座は、それぞれ別の名前で、別の窓口で動いていた。表向きは、互いに関わりがない。だが、入ってくる金の型は、どれも同じだ。額が固定で、入る日が固定で、登録者の欄が空。別々に見える三つの口座は、同じ手順で作られた形をしていた。


 クロイスは、紙の向きを回した。


 下から見れば、これは段の連なりだ。領地があり、家令がいて、出金者がいて、受け渡し役がいる。一段ずつ、上へ続く。だが、口座の側から見ると、形が違って見えた。地方のいくつもの金が、三本の線になって、三つの口座へ流れ込んでいる。


 段を登っても、頂点には届かない。だが、金は三か所に集まっていた。


 三か所の登録者なし口座を、本店規模で作れる手は、多くない。小口の口座を一つ作るだけなら、表の窓口で足りる。だが、登録者の名を空にしたまま、本店規模で動かせる口座を、三つ。それを作れるのは、商業ギルド本部の内側の、決裁の権を持つ、限られた者だけだ。預り口座の開設を、最後に判で通す立場。指で数えられる人数だ。設計者は、段の上にはいない。口座を作れる場所にいる。開設欄の最後に触れる指は、そこに限られる。


 ここまでは、紙の上にある。三か所への収束、本店規模、作り手はギルドの内側。三つとも、並べた欄に残っている。


 その手が、誰なのか。商業ギルド本部の内側で、誰が三つの口座を作ったのか。それは、この一覧には出ない。口座を作った記録は、ギルド内部の、別の帳面にあった。


 ◇


 クロイスは、一枚の図にまとめた。


 地方の領地が、三本の線で、三つの口座に集まる。その三つの口座の上に、開設欄を一つ置いた。まだ、判の名は入っていない。


 三本の線は、別々の方角から来ている。だが、三つの口座の開設欄だけを抜き出せば、見る場所は一つになる。下からは見えない欄が、上から見た図の端に出る。


 攻め口が、変わった。一段ずつ登るのではない。三つの口座を作れる場所、商業ギルド本部の内側を、開設記録から開ける。


 次に取り寄せるのは、口座の一覧ではない。三つの口座が、いつ、誰の判で開かれたか。その記録だ。判を押せる名の数は、もう知れている。


 机の端に、椀と茶があった。クロイスはこの数日、書庫から出ていない。ヴィオラは、何も言わず、冷めた椀を下げて、温かいものに替えていく。クロイスは、茶を飲んだ。卵粥の匙は、横に置いたままだ。だが、椀がいつのまにか替わっていることには、目の端で気づいていた。


 机の上の図は、もう、下から上への梯子ではなかった。


 地方の金は、三本の線で、三つの口座に集まる。その形は、登るものではない。見下ろすものだ。


 頂点は、梯子のいちばん上ではなく、三つの口座を作れる場所にずれている。


 横に置いた一点の名欄だけが、空いたまま残った。


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