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【完結】四国転生〜459通のお祈りメールから、旅館若旦那の偽恋人になりました〜  作者: 木風


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第三十四話 愛媛に戻って、おんまくの夜が始まります

小豆島から戻って数週間。

愛媛での生活にすっかり慣れていた。


しまなみ海道の投稿は、数日に分けて上げるたびに反応が伸びた。

小豆島のオリーブオイルで作ったアヒージョの写真にも、「愛媛の元カノ、ついに家庭料理まで始めた」とコメントがついた。


もう、知らない土地に来た無職の女ではない。


『愛媛担当SNS広報官』

『もぐもぐ広報』

『愛媛の元カノ』


不本意な呼び名も混ざっている。

というか、最後のひとつは今でもできれば返上したい。


それでも、ここで私を見つけてくれる人がいる。

私が撮った写真を見て、愛媛に行きたいと言ってくれる人がいる。

私が食べて、笑って、悩みながら書いた言葉が、少しずつ誰かに届いている。


そう思えるようになった。


今日は、夜から今治の大きな花火大会の日。


思い切って買ってみた、新しい浴衣。

淡い水色に、白い花が散った柄。

大人っぽくしようか、可愛くしようか、何日も悩んで、結局いちばん海と夏に似合いそうなものを選んだ。


ネットで調べて、何度も着付けを練習した。

帯の結び方を動画で見ながら、何度もほどいて、やり直して。

汗だくになりながら、鏡の前でようやく形になった時には、自分を褒めたくなる。


「遠足前の小学生みたいなんよ」

「うるさい。浴衣は戦闘服なの」

「恋の戦場なんねぇ」

「違う。花火大会の取材です」


そう言いながら、私は最後に髪飾りを挿す。


亮平さんとの待ち合わせ場所に着くと、予想通り女の人たちに囲まれている。


浴衣姿の女性が二人。

スマホを手にした観光客らしい人が一人。

亮平さんはいつも通り丁寧に対応しているけれど、表情はどこか薄い。

だいぶ減ったけれど、人が多い所は特に、気を抜くとすぐに亮平さんは囲まれてしまう。


「亮平さん!」


なるべく大きめに声をかける。

目が合うと、さっきまでのつまらなさそうな表情が、ふわりと和らいだ。

私を見つけた目元が、はっきりとやわらかくなる。

この瞬間が、本当に好きだと思ってしまう。


「なにしとるんよ」

「美咲さん、大丈夫ですか?」


動悸と眩暈で、気づけば、私は近くの壁にもたれかかっていた。

何度も会っているのに、本当にどうしようもない。


「すみません……亮平さんまで浴衣だとは思わず、心の準備ができてなくて……」


紺地の浴衣に、落ち着いた灰色の帯。

何回か旅館で見た和装とも違う。

仕事のためのきちんとした装いではなく、夏の夜に花火を見に来た男の人の浴衣姿。


それなのに、所作だけは相変わらずきれいで。

袖口からのぞく手首も、少し緩めた襟元も、全部が目のやり場に困ってしまう。


「美咲さんの浴衣、とてもお似合いです」

「……えっ」

「待ち合わせ場所で見つけた時、少し見惚れました」

「また、そんなことを……でも、着付け頑張ってよかったです」


そう言うのが精一杯だった。


「美咲さん、人が多いので逸れないように」

「はい」


差し出された手を取る。

手を繋ぐのは、さすがに前より慣れてきた。

それでも、指が絡むと心臓は簡単に跳ねる。


人混みの流れに合わせて歩き出す。


太鼓の音。

屋台の呼び込み。

どこかで流れている音楽。

港の方へ近づくにつれて、そこに焼き物の匂いや甘い匂いが混ざっていく。


「お知らせがあるんです」

「はい」

「その前に、焼き鳥だけ……」

「美咲さん」

「だって今治ですよ!?おんまくですよ!?焼き鳥の匂いがするんですよ!?」


焼き鳥。

かき氷。

じゃこ天。

レモンスカッシュ。

ベビーカステラ。


商店街の方にも出店が並んでいる。

甘い匂いと、しょっぱい匂い。

火の匂いと、砂糖の匂い。

夏祭りの空気が、全部まとめて胃袋を誘惑してくる。


「美咲さんは、なんの屋台が一番好きですか?」

「えー?なんでしょう……そういえば、実家の神奈川の方では、じゃがバターのジャガイモが揚げてあるんです」

「そうなんですね」

「神奈川でしか見たことなくて……カロリーが怖いですけど、美味しかったなぁ」

「……向こうに戻りたいんですか?」


亮平さんの声が、わずかに低くなった。


東京には何でも揃っている。

車がなくても、スーパーにもコンビニにも行けちゃう。

少し電車に乗れば、大きなビルも、テーマパークも、流行りのお店もある。


でも。


「東京には、なんでもあるけれど、愛媛にしかないものもたくさんあります」

「はい」

「ここの方が、食べ物も美味しく感じます。人もあたたかいです」


東京では、あんなに人がたくさんいるのに、いつも一人のような気がしていた。

仕事をして、家に帰って、寝る。

それを繰り返すだけの毎日。


ご飯は、自炊をしていた時期もあるけれど、疲れ切った日はコンビニかファミレス。

食べることを、こんなに楽しみにしたことがあっただろうか。

地元のものを食べて、作った人のことを考えて、誰かに伝えたいと思ったことがあっただろうか。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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