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【完結】四国転生〜459通のお祈りメールから、旅館若旦那の偽恋人になりました〜  作者: 木風


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第三十三話 小豆島の朝、オリーブオイルとアヒージョの約束

昨夜の気まずさと、ほとんど眠れなかったせいで、頭の奥が少しぼんやりしたままホテルを出た。

けれど、小豆島の朝の空気は、思っていたよりずっと明るかった。


海から吹く風はやわらかくて、空は高い。

昨日の二次会で張りつめていたものが、少しずつほどけていくようだった。

でも、昨日の夜のことが、消えたわけではない。


淳一の声。

莉子さんの怒った顔。

会場の凍りついた空気。

亮平さんが、私を婚約者だと言った声。


思い出すと、胸の奥はまだ少し重い。

でも、朝の光の中で見る小豆島は、そんな重さを外へ流してくれる気がした。


「寄り道していきましょうか」


亮平さんがそう言って連れてきてくれたのは、オリーブの木が並ぶ場所だった。

銀色がかった葉が、風に揺れるたびにきらきら光る。

青い空と海を背景に、細い枝がさらさらと音を立てていた。


「……すてきっ!」


昨日の夜、あんなにぐちゃぐちゃした感情でいっぱいだったのに。

こうして朝の光の中に立つと、息がしやすい。


「小豆島といえば、やはりオリーブですから」

「お土産、買っていきたいです」

「いいですね」


売店に入ると、オリーブオイルや塩漬けのオリーブ、オリーブを使ったお菓子が並んでいた。

棚に並ぶ瓶は、どれも小さくてきれい。

光を受けたオリーブオイルは、淡い金色に透けている。

昨日の夜の重さとはまったく違う色。


私は迷った末に、小さな瓶のオリーブオイルを二本と、オリーブの塩漬けを一つ手に取る。


「これでアヒージョ作るの楽しみです〜!」


自分でも声が少し弾んでいるのがわかった。

昨夜のことは消えない。

でも、今日の私はちゃんとお腹が空くし、次に作る料理のことを考えられる。

それが、少し嬉しかった。


「いいですね。美味しいフランスパンのお店、紹介しますよ」

「助かります!!」


即答すると、亮平さんが小さく笑った。


「美咲さんは、食べ物の予定が入ると元気になりますね」

「食べ物は未来への希望なので」

「名言ですね」

「投稿に使えますかね」

「使えると思います」


肩の上で、いよぴよさんが得意げに羽を揺らす。


「胃袋広報官、完全復活なんよ」

「その肩書き、採用してないから」

「でも合っとるんよ」

「オリーブオイル漬けにするぞ」

「おしゃれな罰なんよ!?」


そんなやり取りをしていると、昨夜の重さが遠のいていく。


亮平さんは、何も急かさなかった。

昨日のことを無理に話題にすることもなく、ただ隣で、私が選ぶお土産を静かに見守ってくれている。


それがありがたい。

優しい言葉で慰められるよりも、今はその静けさの方が楽だった。

私がまた食べ物の話をして、いよぴよさんに文句を言って、少し笑えるようになるまで、亮平さんはただ待ってくれている。


会計を済ませ、紙袋を抱えて外に出る。

オリーブの葉が、また風に揺れた。

銀色の葉が光るたび、昨日の夜とは違う朝が、ちゃんとここにあるのだと思えた。


「昨日は……ありがとうございました」


ふいに言うと、亮平さんがこちらを見る。


「僕は、何も」

「いました。隣にいてくれました」


私は、紙袋の持ち手をぎゅっと握った。


本当は、もっとたくさん言いたいことがある。

背中を支えてくれてありがとう。

あの場から連れ出してくれてありがとう。

私の言葉を、格好よかったと言ってくれてありがとう。


でも、全部言うと泣きそうで。

亮平さんは一瞬だけ黙り、それから穏やかに目を細める。


「それなら、よかったです」


その声は、昨日の夜と同じくらいやさしい。

けれど朝の光の中で聞くと、温度が違って聞こえた。


帰りのフェリーに乗る頃には、空は少し白く霞んでいた。

車ごと船に乗るのも二回目になると、昨日ほど怖くはない。

行きと同じように、係員さんの誘導に従って車が停まり、私たちはデッキへ出た。


海の上を、白い航跡が伸びていく。

小豆島が少しずつ遠ざかる。


昨日、この島で、私は過去と向き合った。

完全に平気になったわけじゃない。

思い出せば、まだ胸の奥は少し痛い。


でも、もう淳一の言葉に引きずられる必要はない。

あの人が私をどう扱ったとしても、今の私までその言葉に合わせて小さくなる必要はない。


私は愛媛に来て仕事をしている。

食べて、撮って、書いて、誰かに届けようとしている。

失敗もするし、空回りもする。

でも、それでもちゃんと前に進んでいる。


そして、隣には亮平さんがいる。


「帰ったら、アヒージョ作ります」

「はい」

「……食べに来ますか?」

「いいんですか?」

「はい。ワンピースのお礼……じゃ、安すぎますかね?」

「十分です」


亮平さんが少しだけ笑う。


「では、フランスパンを持って伺います」

「本当に来る気ですね」

「誘っていただきましたので」

「そうでした」


自分から誘ったくせに、いざ本当に来ると言われると、急に胸がそわそわする。

けれど、そのそわそわは嫌なものではなかった。


昨日の夜には考えられなかった、次の食卓の予定。


苦い記憶だけを持ち帰るのではなくてよかった。

小豆島から、ちゃんと美味しいものと、次の約束を持って帰れる。

潮風の中、私は小さく息を吸った。


「……帰りましょうか。愛媛に」

「はい。帰りましょう」


亮平さんが静かに頷いた。

その言葉が、なぜかとても自然に胸に落ちた。


愛媛に帰る。


三か月前の私なら、きっとそんな言い方はしなかった。

東京に戻るでも、宿へ戻るでもなく、愛媛に帰る。


その響きが照れくさくて、でも不思議なくらいしっくりきて。

私は遠ざかっていく小豆島と海を見つめながら、次の約束に思いを馳せた。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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