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【完結】四国転生〜459通のお祈りメールから、旅館若旦那の偽恋人になりました〜  作者: 木風


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第二十八話 車ごとフェリーに乗って、小豆島へ向かいます

「待ってください!!待ってください!!?本当にこれ大丈夫なんですか!?」


亮平さんの車に乗ったまま、ゆっくりとフェリーに乗り込む。

係員さんの誘導に従って、車は船内の駐車スペースへ進んでいく。


床の継ぎ目を越えるたびに、タイヤの下から低い音がする。

ごとん、と車体がわずかに揺れるたび、私は無意識にシートベルトを握りしめた。


「大丈夫ですよ。小豆島で動くなら、この方が便利ですから」

「そういう問題じゃなくて!車で船に乗る経験が初めてなんですけど!?」

「落ち着いてください。もう停まります」


亮平さんの言葉通り、車はゆっくりと指定された場所に停まった。


車に乗ったまま船に入る。

ただそれだけのことなのに、足元ごと日常から切り離されたみたいで、妙に落ち着かない。


「と、停まりました?降りても大丈夫なんですか……?」

「大丈夫です。デッキに行きましょうか」

「はい……わわっ……」


助手席から降りた瞬間、久しぶりに履いたピンヒールと、船特有のかすかな揺れで、足元が想像以上に不安定になる。


床はしっかりしている。

しっかりしているはずなのに、身体だけがほんの少し遅れて揺れるような、不思議な感覚。


「揺れるので気をつけて」


亮平さんがすぐに手を差し伸べてくれる。

よたよたと、小鹿のような足取りになりながら、私はその手を取った。

こんなふうに手を貸してもらうことも、もう数えきれないほどあったはずなのに。


今日は、いつもと違う。


仕事用のスーツとも違う。

旅館の羽織もない。


白いシャツに、控えめなシルバーグレーのネクタイ。

胸元には、派手すぎない白のポケットチーフ。

ジャケットは濃紺で、身体に合ったきれいなラインをしている。


旅館の若旦那としてのきちんとした空気はそのままなのに、今日は華やかで。

髪もいつもより軽く上げていて、近寄りがたいくらい整って見える。


「……直視できない」


漏れた声に、亮平さんが首を傾げた。


「何がですか?」

「いえ、今日の亮平さん、戦闘力が高いなと」

「ははっ。戦闘力ですか」

「元カノさんの結婚式にそのビジュアルで行くの、攻撃力高くないですか?」


こんなの、元カノさんだけじゃない。

他の招待客の女性だって、絶対に見る。

私ですら、できるならずっと見ていたい。

今だって、見すぎないようにするので精一杯だ。


亮平さんは一度だけ目を瞬かせ、それから小さく笑った。


「美咲さんほどじゃないですよ?」

「っ……なっ!?」

「似合っています。そのワンピース」


囁くように落ちた言葉に、ぱっと顔を上げる。


結局、ワンピースは亮平さんのお言葉に甘えてしまった。

くすんだピンクに、夏らしくレースをあしらった涼しげなデザイン。

いくつか候補を出した中から、亮平さんが選んでくれたものだ。


自分で買った服なら、褒められてもここまで動揺しなかったかもしれない。

けれど今日は違う。

この人が選んだ服を着て、この人の隣に立つ。


それだけで落ち着かなくなる。


「でも、そうですね……もし次があったら、ペアリングでも用意しましょうか」

「ペアリング!?」


声が裏返る。

そんなのって。

フリの域を、いったいどれだけ超えてしまうのか。


「冗談です」

「ですよね……」

「でも、美咲さんにも虫除けが必要かなとは思っています」

「……それも冗談ですか?」

「これは本気です」


冗談なのか、本気なのか、全然わからない。

本当に心臓に悪い。


かっこいい亮平さんにどきどきしているのか。

それとも、選んでもらったワンピースを褒められたからなのか。

ペアリングという言葉に反応しているのか。

もう、自分でもよくわからなくなっている。


六月の末。

気温も高い。

船内の空気も、熱がこもっている。


きっと暑いせいだ。

顔の熱を逃がすように手で扇ぎながら、私は亮平さんに続いてデッキへ向かった。


外へ出ると、海風が思っていたより強い。

髪が頬にかかり、慌てて押さえる。

潮の匂いと、エンジンの低い音。

足元から伝わる、船の振動。


遠くに見える島影。

白く泡を引く船の軌跡。

空と海の境目に、小豆島らしい影が少しずつ近づいてくる。


今日は、亮平さんの元カノの結婚式の二次会。

私は、恋人役として隣に立つ。

何度もしてきたはずの役なのに、今日は少し重い。

ただの虫除けというには、私の方が意識しすぎている。


「緊張していますか」

「……少し」

「無理はしないでください」

「大丈夫です。私、亮平さんの恋人役なので」

「……役、ですね」

「はい。役です」


その言葉が、なぜか自分の胸にも小さく引っかかった。

便利な言葉のはずなのに、今日はその言葉で自分の気持ちを押さえ込んでいるみたいで。


亮平さんは、海の方へ視線を向ける。

横顔は穏やかなのに、いつもより遠く見えた。


「美咲さん」

「はい」

「今日は、もし嫌な思いをしたら、すぐに言ってください」

「それは、亮平さんもです」

「僕も?」

「はい。私、恋人役なので。虫除け役でもありますし」


そう言い切ると、亮平さんがこちらを見る。

少し驚いたような顔をして、それから、ほんのわずかに表情をやわらげた。


「頼もしいですね」

「今日は戦闘力高めで来ていますから」

「では、頼らせていただきます」

「はい。任せてください」


言いながら、本当は少し怖かった。

元カノさんがどんな人なのかも、どんな顔で亮平さんを見るのかも、私は何も知らない。


それでも、隣に立つと決めた。


フリでも、役でも。

今日だけは、亮平さんが一人で嫌な思いをしないように。


海風に揺れたワンピースの裾が、指先に触れた。

くすんだピンクのレースが、陽射しの中で淡く光っている。


亮平さんが選んでくれた服。

亮平さんの隣に立つための服。

その事実が、私の背中を押してくれた。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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