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【完結】四国転生〜459通のお祈りメールから、旅館若旦那の偽恋人になりました〜  作者: 木風


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第十六話 若旦那は怒らないし、彼女役は継続らしいです

「亮平さん!!すみません!!!」


車から降りてきた亮平さんに、挨拶をするのも忘れて頭を下げる。


朝からずっと考えていた謝罪の言葉は、口に出した途端、全部ぐちゃぐちゃになった。

通知の数も、コメント欄も、報告書も。

全部頭の中でぐるぐる回っている。


「昨晩、きっとご迷惑をかけたのに……!帰宅後、あの、寝ぼけていて動画を投稿しちゃって……」

「美咲さん、謝らないでください」


思いがけず、静かな声が返ってくる。

顔を上げる前に、亮平さんの方が先に頭を下げた。


「僕の方こそ、昨日はすみません。マンションまでお送りしたあと、鞄の中から鍵を探して部屋に入らせてもらいました。僕は玄関までです。着替えやメイク落としは、ご自身でされていました」

「あ、はい……」


なぜか、私が謝っているのに、亮平さんからも昨晩のことを謝られている。


いや、でも大事な情報だった。

とても大事な情報。


私は全力で頷いた。

首がもげるくらい頷いた。


「あの、動画の件ですが、投稿自体は無断でしたので、削除しろというのなら、今すぐ消しますので……!」


二人の間に間が空く。


きっと、亮平さんを困らせている。

消さないといけないとわかっている。

わかっているのに、広報としては消したくない気持ちもある。


再生数。

コメント。

フォロー通知。

予約の問い合わせが増えたかもしれないという期待。


全部を見てしまったあとで、きれいな顔で「消します」と言い切れない。

亮平さんに判断を委ねているようで、結局は「消したくない」と言っているようなものだ。


私の言い方は、ずるい。


「動画のことは気にしていませんよ」

「そう、なんですか……?」


思いがけない言葉に、顔を上げた。

亮平さんは、怒っていなかった。

少なくとも、私にはそう見える。


「美咲さんが本当に美味しそうに召し上がるから、料理の魅力が伝わる。僕は、あの動画が好きです」

「そんな……」

「あの店の方からも、朝一番で連絡がありました。今朝から予約の電話が鳴りっぱなしだそうです」

「鳴りっぱなし!?」

「うちの旅館も、ゴールデンウィーク明けの予約まで、すべて埋まりました」

「すべて!?」


声が裏返った。

あの、私が焼き鳥を食べてへらへらしている動画で?

本当に?


おしゃれに作った投稿でも、真面目な観光情報でもなく。

私が酔って、焼き鳥に負けている動画で。


「ですので、むしろこちらがお礼を言いたいくらいです」

「い、いえ、お礼なんて……!」


やっぱり亮平さんに怒っている様子はない。

肩の力が抜けそうになる。


けれど、ひょっとしたらコメント欄までは見ていないのかもしれない。

あの妙な盛り上がりを見たら、さすがに気分を悪くするかもしれない。


「あの、コメントも色々書かれていて……」

「あぁ、確かに『元カノ』は少し不愉快ではありましたが」

「そこですか……?」


聞き返してしまった。

亮平さんは、さも当然のように私を見る。


「だって、美咲さんは僕の彼女やけん」

「へっ?」


低く落ちた声に、胸の奥が変な音を立てた。

亮平さんはそこで、はっとしたようにまばたきをする。

それから、いつもの落ち着いた顔に戻って、ゆっくりと言い直した。


「……彼女役、ですから」

「あ、はい……彼女役、してます」

「ええ。彼女役ですね」


ほんの一瞬だけ、亮平さんの視線が私から外れた。

その横顔に、いつもの余裕が欠けて見えたのは、気のせいだろうか。


「なので、彼女の元カレを名乗られるのは、不愉快です」


それって。

それって、ヤキモチというやつでは?

いや、でも、恋人のフリの範疇を飛び越えすぎているような。

素人なのに、そんな役作りまでするなんて。


亮平さん、恐ろしい人!?

あまりの演技力に、白目を剥きそうになる。


「美咲さん?」

「あ、いえ。若旦那の対応力、すごいなと思って」

「対応力」

「はい。役作りが細かいというか」

「……そう受け取るんですね」


最後の一言は、少し小さかった。

聞き返す前に、亮平さんは軽く咳払いをする。


「あの、では恋人のフリは、継続なんでしょうか?」

「もちろんです。今後も動画を投稿していただくのも構いませんよ」

「本当にいいんですか?」

「はい。ただし、無理に酔う必要はありません」

「それはもちろんです!」

「あと、投稿前に確認はしましょう」

「はい……本当にすみません」


何てよい人なの!!!!???

こんな、迷惑ばかりかけているのに!!


しかも、投稿継続まで許してくれるなんて。

心が広い。

広すぎる。

愛媛の空くらい広い。


「では、次の取材先の打ち合わせをしましょうか」

「はい!」

「しまなみ海道、楽しみですね」

「楽しみですー!!」


言った瞬間、胸の重さがふっと軽くなる。


しまなみ海道。

海と橋と島。

写真で見ていたあの景色を、実際に見に行ける。

しかも、亮平さんの運転で。


仕事。

これは仕事。

打ち合わせ。

取材。


そう自分に言い聞かせていると、肩の上でいよぴよさんがぼそりと言った。


「……若旦那、もっと頑張らんと伝わらんのよ」

「何か言った?」

「何も言っとらんけんねぇ」

「元凶のくせに、他人事みたいな顔しないで」

「ワシは広報神として仕事しただけなんよ。結果は出たんよ」

「腹立つ……!」


いよぴよさんを睨みつけながら、私は胸の奥に残った変な熱を、見なかったことにした。

でも、完全には消えない。


『美咲さんは僕の彼女やけん』


さっきの声だけが、どうしても耳の奥に残っている。


彼女役。

フリ。

役作り。

何度も頭の中で言い直して、ようやく私は助手席のドアへ向かった。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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