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【完結】四国転生〜459通のお祈りメールから、旅館若旦那の偽恋人になりました〜  作者: 木風


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第十四話 酔った勢いで、元婚約者の話までこぼれてしまいました

焼き鳥は次々に焼けていく。


もも。

皮。

せせり。

つくね。

肝。

手羽。


皮はかりかりで、噛むたびに脂がじゅわっと出る。

せせりは歯ごたえがあって、噛むほど旨みが出る。

つくねはふわっとしていて、卵黄を絡めると一気に濃厚になる。

肝は少し苦みがあって、大人の味だ。

手羽は熱くて食べにくいのに、夢中でかじってしまう。


気づけば、箸もグラスも止まらなくなっていた。


「……美咲さん、少し飲みすぎでは」

「だ~いじょうぶです~」


自分の声が、少しふわふわしている。

語尾が自分の手から離れて、勝手に伸びていく。


「大丈夫な方の返事ではありませんね」

「だいじょうぶですってば。私、意外とお酒強いんです」

「そう言う方ほど危ないです」

「亮平さん、心配性ですねぇ」


そう言って笑ったつもりだったのに、頬が勝手に緩む。


目の前の炭火が、ぼやけて見える。

火の赤も、グラスの光も、亮平さんの輪郭も、いつもよりやわらかい。


美味しいお肉に、飲みやすいお酒。

すぐ隣に、安心できる人。


お酒が進む。

進む進む。進みまくる。

取材メモには、「鶏の脂に辛口が合う」「柚子サワーは香りが主役」「キウイは意外性」と打ったところまでは覚えている。

その次に何を書こうとしたのかは、もう少し怪しい。


気がつけば、自分が何杯飲んだのかもよくわからなくなっていた。


「で~……寿退職したのに、浮気されちゃったんですよ~~」


気づいたら、私はそんなことを口走っていた。

亮平さんの箸が、ぴたりと止まる。

炭火の音だけが、やけに近く聞こえた。


「もう、人生で一番しんどいクリスマスでした……うぅ……」

「美咲さん」

「だって十二月ですよ?本当なら結婚式だったんですよ?なのに私は、失業手当をもらいながら求人票見てたんです。ケーキじゃなくて求人票。最悪じゃないですか?」

「……そうですね」

「転職も、ぜんっぜんうまくいかなくて。お祈りメール、四百五十九通!」


私は指を四本立てようとして、なぜか三本になっていた。


「あれ?これ三?」

「三です」

「四百五十九です!」

「はい」

「そしたら、まさかの今の愛媛での仕事の内定が来たんです。四百五十九で、四五九(しこく)。これ、絶対かけてますよね!?人の人生で語呂合わせするなんて、ひどくないですか!?」


肩の上で、いよぴよさんが胸を張る。


「運命なんよ」

「運命じゃなくてダジャレでしょ!」

「美咲さん」


亮平さんが静かに声をかける。

私はその声に引っ張られるように、顔を上げた。


「はい?」

「お水を飲みましょう」

「水よりサワーがいいです」

「水です」

「亮平さん、急に厳しい~」

「厳しくします」

「恋人のフリなのに?」

「フリでも、目の前で潰れそうな人は止めます」

「潰れませんよぉ」

「説得力がありません」


グラスを手渡される。

中身は水。


仕方なくひと口飲む。

その冷たさに意識が戻る。

でも、戻った意識はまたすぐに、口を軽くする方向へ働いた。


「愛媛に来て一か月なのに、体重が二キロも増えちゃったんです~~」

「それは……」

「食べ物が美味しすぎるのが悪いんです。鯛めしも、じゃこ天も、焼き鳥も、スイーツも、旅館の朝食も、全部美味しいんです。美味しいのに、元婚約者には結婚式までに少し絞った方がいいって言われてて」


言ってから、自分で笑ってしまう。


「絞る前に、婚約が消えたから、もういいんですけどね~」


亮平さんの表情が変わった。

いつもの穏やかな顔ではない。

静かだけれど、どこか冷たい。

怒っているのだと気づくまで、少し時間がかかった。


「その方は」

「はい?」

「あなたが食べる姿を、ちゃんと見ていなかったんですね」

「……え?」

「美咲さんは、美味しいものを本当に美味しそうに召し上がる。作った人間が見れば、きっと嬉しくなる食べ方です」


声は穏やかなのに、言葉の奥に怒りがある。

その怒りが、私に向けられたものではないことだけはわかった。


「それを笑うのは、見る目がなかったんよ」


最後だけ、少し言葉が崩れた。


亮平さんはすぐに口を閉じたけれど、もう遅い。

心臓が、きゅっとした。


お酒のせい。

きっとそう。

そうじゃないと、今の言葉だけで泣きそうになる理由がわからない。


「亮平さんは、甘やかしますねぇ」

「甘やかしているつもりはありません」

「甘やかされてますぅ」

「では、そうかもしれません」


私は笑った。

笑ったら、うっすらと涙がにじむ。

ふわふわとした気分と、お酒の勢いで、もう自分が何を言っているのかよくわからない。


ただ、目の前の焼き鳥は美味しくて。

お酒は飲みやすくて。

亮平さんの声はやさしくて。


愛媛に来てから、私は何度も困っている。


食べ物が美味しすぎて困る。

景色がきれいすぎて困る。

この人が、私の弱いところを当たり前みたいに肯定してくるから困る。


「……でも、太ったら広報としてまずいですよねぇ」

「なぜですか」

「だって、少しでも可愛くないと……」

「可愛いですよ」

「……へ?」


亮平さんは、手元のグラスを置いた。


「少なくとも、需要はあります」

「それ、前も言いましたねぇ」

「言っていません」

「言いましたぁ」

「聞き間違いです」

「いよぴよさん、言いましたよねぇ?」

「言うとったけんねぇ」

「ほらぁ」


私はけらけら笑った。

笑うたびに、頬が熱くなる。

お酒のせいなのか、亮平さんのせいなのか、もう判断がつかない。


判断できないなら、お酒のせいにしておくのが平和だ。

少なくとも、今の私はそう決めた。


笑いながらまた箸を伸ばすと、亮平さんがすぐに皿を少し遠ざけた。


「今日はもう終わりです」

「ええー。最後に皮だけ」

「終わりです」

「亮平さんのけち~」

「けちで結構です」

「若旦那なのに」

「若旦那なので」

「……愛媛、こわいです」

「何がですか」

「食べ物も、お酒も、亮平さんも、全部こわいです……東京に帰れなくなっちゃいます」


亮平さんも黙った。

グラスの中の氷が、からん、と小さく鳴る。

その音が妙にはっきり聞こえたのに、意味を考える前に眠気がどっと押し寄せてくる。


「帰さんよ」


炭火の音が遠くなる。

亮平さんは、今何て言ったんだろう。

店内のざわめきも、グラスの音も、全部がやわらかく溶けていく。


「美咲さん?」

「んー……」

「眠いですか」

「眠くないです~」

「目を閉じています」

「閉じてません……」

「閉じています」

「亮平さん、細かい……」


テーブルに頬をつけたら、冷たくて気持ちよかった。

起きていなきゃいけないのはわかっているのに、身体が言うことを聞かない。

肩の上で、いよぴよさんが慌てたように羽をばたつかせる。


「寝るんよ!?ここで寝るんよ!?」

「寝てないですぅ……」

「寝とるけんねぇ!」


その声も、だんだん遠くなる。

最後に覚えているのは、亮平さんが店員さんに静かに水を頼む声と、私の肩からいよぴよさんが転がり落ちないように、そっと手を添える気配。


それから、誰かを落ち着かせるような、小さな「しー」という吐息。

たぶん、いよぴよさんに向けたものだ。

でもその音は、私に向けられたものみたいに耳元に残った。


騒がなくていい。

今は眠っていい。

そんなふうに言われた気がして、私はそのまま、炭火の匂いと日本酒の甘さの中に沈んでいった。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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