表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】四国転生〜459通のお祈りメールから、旅館若旦那の偽恋人になりました〜  作者: 木風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/36

第十二話 何を投稿しても伸びないので、色気に頼ろうとしたら止められました

「どうしたらいいんでしょうか……」


一か月分のSNS投稿一覧を見ながら、私はテーブルに突っ伏した。


道後の朝。

旅館のロビー。

柑橘スイーツ。

松山の路面電車。


自分なりに頑張った。

写真も選んだ。

文章も考えた。

もともとのスキルを活かして、写真におしゃれな文字を入れて投稿してみたりもした。


でも、伸びない。


「インプレッションはどうだったんですか?」

「えっと……」


スマホの画面を開き、私は昨日までの投稿一覧を亮平さんに見せた。


おしゃれ投稿。

『道後の朝、湯けむりと光』

いいね 12


真面目投稿。

『松山市は四国版住みたい街ランキングで……』

いいね 9


柑橘投稿。

『愛媛の柑橘、品種の違いを比べてみました』

いいね 14


変化球。

『瀬戸内の生きもの、カブトガニに会いに行きました』

いいね 6


「おしゃれな写真を上げてもダメ。真面目なランキング紹介もダメ。柑橘で押してもダメ。カブトガニまで出したのにダメ……」

「カブトガニは少し変化球すぎだったのでは」

「やっぱり、食べるくらいしないとだったんですかね?」

「カブトガニは天然記念物けんねぇ」


亮平さんといよぴよさんの冷静な突っ込みが、春の気温を氷点下まで下げる。


「じゃあ、やっぱり私に足りないのは……色気?」

「違います」

「もう少し露出を増やして」

「ダメです」

「嘘ですよー。需要ないのわかってますから」

「需要はありますが、ダメです」

「またまた~。亮平さんでも冗談言うんですね」


顔を上げると、亮平さんは何事もなかったように湯呑みに口をつけていた。

まったく慌てていない。

むしろ、私の方が今さら自分の発言にじわじわ恥ずかしくなってくる。


この一か月、亮平さんには恋人役が始まってから今日まで、こうやって取材に付き合ってもらっている。

旅館のチェックアウトが済んだ十一時から、午後のチェックインが始まる前の十五時まで。

忙しい合間を縫って、地元のお店を紹介してくれて、移動まで手伝ってくれているのに。

何にも成果が出せずに申し訳なくなる。


申し訳なさが、みかんジェラートの冷たさより先に胸にくる。


手元には、明日投稿予定の写真がある。

淡いオレンジ色のみかんジェラート。

カップの縁に添えられた小さなミント。

木のスプーン。

店先の白い壁。


こんなに美味しいのに。

もっとたくさんの人に、この美味しさが伝えられたらいいのに。


「そろそろ、チェックインの時間になるので、戻りましょうか」


そう言いながら、今日も亮平さんが手を差し伸べてくれる。

これも毎回のことなのに、慣れる気がしない。


恋人のフリだから。

外で一緒にいる時は、自然に見えるように。

そう説明されているし、自分でもわかっている。


でも、差し出された手を見るたび、いつも指先が迷う。

触れていい理由があることに、まだ慣れない。


この一か月、私はこの人の恋人のフリをうまくやれているのだろうか。

始めたばかりの頃は、すれ違いざまに睨んでくる女の子もいたけれど、最近はなくなってきた。

心なしか、出会った頃に見た、亮平さんの思いつめたような顔も減った気がする。


SNSで成果が出せていない分、ここだけでも役に立てているならいい。

そう思わないと、取材用のジェラートを四つもシェアしてくれた亮平さんに顔向けできない。


「夜は地鶏炭火焼のお店ですよね」

「ぴょっ!?」


肩の上で、いよぴよさんの悲鳴が聞こえるのを無視する。

何を想像しているのかはわかるけれど、このお店ばかりは譲れない。


「地鶏もですけど、地酒にも力を入れているお店ですごい楽しみで……!」

「あぁ、駅の近くのですっけ」

「はい。なのでバスで行ってきます」

「付き合いますよ」

「でも、亮平さん車だとお酒飲めなくないです?」

「タクシーを使えば大丈夫です」


タクシーを使ってまで付き合ってくれるなんて、そんなに亮平さんは焼き鳥が好きなのかな。

もしくは、相当美味しいお店なのかもしれない。

地元の人がそこまでして行くなら、期待値はかなり高い。


「でも、お仕事の後ですよね?無理しないでください」

「無理はしていません」

「本当に?」

「夜に一人で行かせる方が、落ち着かんけん」


亮平さんはすぐに咳払いをして、いつもの落ち着いた顔に戻る。


「……いえ。取材先の確認も兼ねていますし」

「あぁ、なるほど」


落ち着かないのは、こっちの方だ。

今の言い方は、仕事なのか恋人のフリとしての気遣いなのか。

それとも、亮平さんが誰にでもする優しさなのか。

考えたところで、答えは出ない。


「では、予約の時間にお店で」

「はい。お仕事がんばってください」

「美咲さんも」


本当に優しい人。

車のドアは毎回開けてくれるし、運転も上手。

イケメンで長身で老舗旅館の若旦那。

地元愛が強くて、仕事に真面目で、変な投稿案にもちゃんと付き合ってくれる。


なんで恋人がいないのか不思議なくらい。


「!ひょっとして、酒癖を心配されているのかなぁ」


ぽつりと呟くと、肩の上でいよぴよさんが深いため息をついた。


「……美咲ちゃんは、東京の娘さんなのに、鈍感やねぇ」

「どういう意味よ」

「だから浮気されるけん」

「地鶏炭火焼き屋さんって、持ち込みできるっけ?」

「できんけんねぇ……」


いよぴよさんが、もちっとした身体を小さく震わせる。

たぶん、自分が持ち込まれる未来を想像したのだろう。


私はスマホの画面をもう一度見る。

明日投稿予定のみかんジェラート。

『いいね』がいくつ付くかもわからない。

伸びるかどうかも、まだ全然見えない。


でも、夜には地鶏炭火焼の取材がある。

亮平さんも来る。

地酒もある。


「……まあ、もう少し頑張るか」


小さく呟いて、私は投稿案のメモを開いた。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。



こちらの作品もよろしくお願いします
▶ 鬼狩りの番
〜置き去りにされた娘は、半人半鬼に血を捧げる〜
和風ファンタジー/鬼/大正浪漫/半人半鬼/番/契約結婚/溺愛/虐げられ
本作品の文章・タイトル・設定等の無断転載、無断複製、生成AIへの入力および学習利用を禁じます。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ