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crescent  作者: Luna
第1章
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2-2「退魔使」

 ある程度話し終えた真歩は、椅子に座ってコップに入っている液体をひとくち飲む。


「長話になっちゃってごめん。てかそれ、飲んでいいからね」

「あ、すみません」

 月鹿はコップの中の液体を口に入れる。吐き気がするほど甘いその液体を、月鹿は一気に飲み干す。その様子を笑顔で見ていた真歩は、また話し始めた。


「最後に、報酬について説明するよ。さっき、半年間で倒したノロイの強さと数によって魔法が貰えるって言ったじゃない?」

「はい」


「退魔師はノロイの核となる魔石をテンシに渡す事で、好きな魔法を使うことができるようになるんだよ。あ、これあんたの分ね」

 そう言って真歩は、手に持っていたポーチから大量の紅い石をバラバラと出す。大量と言っても、あの場に転がっていた約半分と思われる量だ。それでも余裕で100個はありそうに見える数の魔石が、机の上で転がっていた。


「魔法?でも私、さっきノロイと戦った時…」


 月鹿の頭にはノロイの攻撃を防いだあの銀色の鎖の姿が鮮明に思い出される。


「それはあんたの固有魔法」

「固有魔法?」

「そう。退魔師は基本的にテンシから与えられた魔法しか使えないんだけど、例外として始めから使える魔法がひとつだけあって、それが固有魔法。功績とか関係なしに、その魔法だけは退魔師になった時点で使えるようになるの。あんたの場合、ノロイの攻撃を防いでいたあの鎖がそうなんだと思う。人によって、固有魔法自体がメインで扱う武器になる場合と、他に変身した時に出すことができる武器がある場合に分かれるけど、あんたは見た感じ後者かな。確か鎖以外にもなんか持ってたよね?ナイフみたいなの」

「あ、はい」


「1回変身して武器を出して、わたしに見せてみてくれない?武器を出す時はさっき出した時の感覚を思い出してみるといいよ。多分武器の姿を想像したらいけるかな」


 月鹿は聖典を持って退魔師の姿に変身し、先程の戦闘で使った短剣の姿を思い浮かべる。すると、開いた右手の上に一本の黒い短剣が現れた。


「どうぞ」


 短剣を真歩に手渡すと、真歩は軽く振ってみたりしながらその短剣を眺めている。


「ねえ、この短剣、そこから体を動かさずに操れたりする?」

「やってみます。………できません」

 月鹿は何度か短剣に対して動けと念じてみたが、短剣はぴくりともしなかった。それを見た真歩は、予想は正しかったと納得した表情で頷いた。


「うん。やっぱりこれは武器だね。自由に動かせないなら、固有魔法ではないと思う。次に鎖を出してみて。わたしの考えが正しかったら、こっちが固有魔法のはずだよ」


 月鹿は出した鎖から少し離れて、試しに垂直に鎖が立っている姿を想像してみる。すると鎖はうねうねと動いて、天井に向かってピンと立ち上がった。


「ビンゴ。これがあんたの固有魔法だよ。にしても鎖を操る魔法とは…なんかカッコいいね」

「ありがとうございます」


 目の前で動く鎖を見た月鹿は、自分が魔法を使っているという実感が湧いてきた。しかし、自分でも意外なのだが、ワクワクする気持ちは一向に湧いてこない。魔法を見るのも使うのも、今日が初めてだと言うのに。それなのに、浮かんでくる感情は…


(……………)


「報酬として貰える魔法は、固有魔法と比べると魔力の消費がちょっと多いんだけど、その分好きな魔法が選べるし、魔法を貰えば貰うほど、できることも増えていくから、ぜひ頑張って欲しいかな。普通退魔師になってすぐは、慣れてないのもあって、魔法を貰えるほどの魔石は稼げないんだけど…あんたの場合、多分さっきので既にノルマの分は十分あると思うし、魔法の分も半分くらいは溜まってるから、頑張れば次の授与式で魔法を1つ貰えるかもしれないね。魔法が貰える授与式があるのは6月と12月の月末だから、流石に2つは難しいと思うけど…正直そんなに焦って貰う必要もあまり無いし、頑張りすぎるのはオススメしないよ」


「あ、あと、魔力は無くなっても時間が経てば回復するし、色んな魔法を使いたいとは思うんだけど、何かあった時のためにも常に少しは余裕を持って魔力を残しておくことをオススメするよ。聖典には魔力適正も書いてあると思うけど…あ、後で見てくれたらいいよ。これはあんまり気にしなくて大丈夫。魔法を使う適正ってことで、適正無かったらまず退魔師に選ばれないし、退魔師に選ばれたってことは努力すればある程度の魔法は使えるようになるってことだから」


 聖典を取り出そうとした月鹿を止めて、真歩は話を続ける。


「話を戻すけど、魔力適正も魔力量も人によって違ってて、あんたは…まあ見た感じ退魔師の中の平均くらいの魔力量はあるみたいだから、それなりに魔法を一気に沢山使わない限り魔力切れの心配はそこまでしなくても、あまり無理をしなかったら大丈夫ぐらいに思っていてくれるといいかも。それに魔力量は魔法を使っていくうちに成長していくし。強すぎる敵とはさっきみたいな状況にならない限り、逃げられるのなら逃げた方がいいというのが、先輩としてアドバイスかな」


 そこまで言って、真歩はまた、紅い液体を1口飲む。月鹿は手を動かさずに、質問する。


「真歩先輩は、どんな魔法が使えるんですか?」

 既に魔法を1つ貰えるということが確定していると聞いた月鹿は、参考までに真歩が使える魔法について尋ねた。


「わたし?わたしは…そうだね。今だと…ウィンドー風を操る魔法とか、ライトアイズーどんな明るさでも目が見える魔法とか…他にも色々持ってるけど、流石に全部教えるのは難しいかな。あんたも、自分が持ってる魔法とかあんまり周りに言いふらさない方がいいよ」


「はい。…言いふらさない方がいいとか言ってくださった後でこんな事を聞くのもあれなんですけど、初めて貰った魔法が何だったかだけ、聞いてもいいですか?全然、嫌なら答えてもらわなくて大丈夫です…失礼なことを聞いてるのは分かっているので…すみません」

「あぁ、いいよいいよ。初めてだし、どういうのがいいかとか分かないもんね。わたしが初めに貰った魔法は『フライ』…空を飛ぶことができる魔法だったんだけど、正直これはあんまりお勧めしないかな」


「そうなんですか?」

「うん。後になって、風を操れる魔法の『ウィンド』を上手く使えば空も飛べるってことに気づいてしまってさ、正直この魔法を使える意味が無くなっちゃったんだよね。それからフライは使ってないし…。だからと言って魔法を返すとかいう制度もないからね。…やろうと思えばできなくもないらしいけど、当時持ってたポイントというか、その魔法を貰うのに必要だった核は次に魔法を貰う時には関係してこないし、手続きが面倒くさいだけでメリットがないからね。…無理矢理使おうと考えた事もあるけど、違う魔法を並行して使うとさ、同じ名前の魔法を2重に発動した時と比べて魔力の消費が激しくて。飛ぶことしかできないフライを使いながら戦うってのは超面倒くさいし危ないしで…ほんとさ、初めに教えて欲しかったよね、そういうこと」


 勿体ないことしたなぁ、と真歩はため息をこぼす。


「…とまあそんなわけで、選ぶ魔法は授与式までにちゃんと考えて決めたほうがいいよ。物によっては、今言ったような完全な上位互換が他の魔法にある場合もあるからね」


「…と、今話しておくことはこのくらいかな。他に何か聞いておきたいこととかある?」


 そう言った真歩に、月鹿は先程から薄々疑問に思っていたことを問いかける。


「あの、ノルマとは一体何ですか?」


「…あれ、ノルマのこと言ってなかった?」

「はい」


「うっそぉ!?ごめん、1番大事なこと忘れてた!…こほん。退魔師がいつ、どのくらいの数、強さのノロイと戦うかとかは基本自由なんだけど、戦うのをサボって遊びにばっかり魔法を使うような人が出ない為にも、魔法が貰える式、授与式って言うんだけど、前の授与式終了後から次に授与式が行われる間に何体以上のノロイを倒さなければいけないよ、ていうノルマが制定されているの」


「…ノルマ」

 月鹿の呟きに、真歩は頷く。


「そう。ノルマ。基本は半年間でノロイを180体以上。その後180匹倒すごとに魔法を1つゲットしていくって仕組み。1日に1体倒していけばとりあえずノルマは大体達成されると思うから、ノルマ達成だけならそんなに大変じゃないかな。たまーにギリギリまでサボってて、最後の方になってノロイが見つからない!とか嘆いている人がいるから、そうならないようにコツコツ倒していくといいよ。戦うのが苦手な子とかに配慮してなのか、ノルマ達成の条件にはノロイの種類や強さが問われないのが優しいところだね」


 うんうん、と真歩は微笑みながら頷いている。


「そのノルマが達成出来なかった場合、どうなるんですか?」


「それは…」


「…ノルマが達成出来なかった場合、その人はもう二度と退魔師として変身できなくなるんだ。退魔師になってから1ヶ月以内に授与式が行われる場合は、免除されて授与式までに倒した数も含めて更に次の授与式の時にカウントしてくれるみたいだけど、それ以外の場合は…本当に特別な事情がある場合は知らないけど、基本的には変身できなくなる。勿論魔法も使えなくなるよ。今までに与えられて使えていたものも、全部」


「つまり、退魔師を辞めさせられる、て事ですね」


「…」

「…真歩先輩?」


「…あ、そう。そうなんだ…だから、あんたも気をつけてね?戦わない退魔師は辞めさせられるから。今回だけじゃなくて、これからもちゃんとノルマを達成すること。これ大事!…て、うわ、もう4時じゃん!ごめん、長話になっちゃった。今日はもう帰ろうか。わたしもだけど、あんたも学校があるだろうし。あ、ここに置いてる魔石は全部あんたの分だから、聖典の表紙にある石…そうそこ、その上に置いたら勝手に吸収…されたね、それでOK」


 月鹿は真歩の指示通り、聖典の濁った赤色の宝石の上に数個ずつ魔石を置いていく。何度目かの吸収の後、宝石の濁りが消え、澄んだ赤色へと変化した。


「お、色が明るくなったね、おめでとう、これでノルマ達成だよ。ちなみに、ノルマ達成で濁りがなくなり明るい赤色、魔法一個分以上になると桃、黄、橙、白の順に色が変わっていき、半年間で最多で4ポイントまで貰え、貯まったポイントを使って交換できる魔法と交換していくと言う仕組み。あとひとつ、先輩からアドバイスさせて貰うと、たまにチームを組んで戦う人がいるけど、核を全員で分ける分その分自分の分け前も減るから…それが嫌で大半の人がソロで戦ってるし、あんたもそうした方がいいよ。あと、ソロで戦ってる人ってのは、あたしもソロの時がよくあるから分かるんだけど、基本的に核を分けたりとかが面倒だって考えてる人が多いからという考えを持ってるから。だからよっぽどの事がない限り、横槍はいれない方が身のためだよ。…と、話すべきことは大体言ったかな。じゃあそういう事で。これからよろしくね」

 真歩はまくし立てるようにそう言って、手を差し出す。


「よろしくお願いします」


 朝日が上り始め、窓から光が差し込んでくる。人のいないフードコートの中、ふたりは強く、握手をする。

 

 

 真歩と別れつばめの園に帰ってきた月鹿は、強く握られたせいか未だにじんじんと痺れる右手をさすりながら、自室の中で聖典を開く。聖典にはいつの間に調べられていたのか、名前や住所などの個人情報が書かれている。他にも魔力適正や、魔力量、今はまだ空白だけど取得した魔法などが書かれるページもあるようだ。月鹿は魔力量の欄にB、適正の欄にCと書いてあるのを見つけた。魔力量は真歩の説明から退魔師の平均がBくらいなのだろうと察しがついたものの、適正の方は基準が分からないため、自分のCというのがはたして良い方なのかそれとも悪い方なのか、判別の仕様がなかった。

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