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crescent  作者: Luna
第1章
4/18

2-1「退魔師」

「よし、これで…浄化!」


 少女が月鹿の手にある聖典と全く同じものを手にそう言うと、聖典から真っ白な光が溢れ出し、辺り一帯を包み込んだ。数秒後に光が消え、月鹿(るか)が目を開けた時には辺りに散らばっていた化け物達の死骸は綺麗さっぱりと消えていた。


「はぁ…ほんっとに、死ぬかと思った…」


 化け物達が全員居なくなったことを確認できた少女は、先ほどとは違う光に包まれたかと思うと、次の瞬間には、身につけている衣服がよくある普通のものに変わっていた。そして疲れてはいるものの、安心した様子でその場に座り込んだ。月鹿も壁にもたれかかって少し休もうとしたところで、自分がいつの間にか元の狭い路地に戻ってきていたということに気がついた。

 

「あれ?なんか少ない…?」


 少女は辺りに散らばっている紅い石を見回しながら、気のせいかな…などと呟いている。



「やっぱり少ない…」

 小休憩を終え、散らばっていた石を回収しその数を数えた少女は、眉をひそめる。


「ねぇ、ノロイを倒した時にさ、魔石、出なかった?」

「魔石?」

「そう、こんなやつ」


 言いながら少女は足元に集めた紅い石を1つ取り、手のひらの上に置いて月鹿に見せる。


 ノロイとは、さっきまで戦っていたあの化け物達のことだろうか。そうだとすると、月鹿が倒した者たちは倒した直後に漏れなく塵となって消えていっていたので、そのような石が出てきた覚えなど全くない。


「いえ、見てません」

「え、何も無かった?」

「はい」


「…ほんとに何も?」

「何も無いです」

「浄化は?」

「浄化?」

「あれ、知らない?」


「…はい」

「嘘ついて隠してる訳じゃなくて???」

「嘘なんてついていないし、隠してもいないです」


 少女は月鹿に詰め寄っていた体を戻し、そんな筈がないなどとぶつぶつと呟いている。


「…あの」

「何?」

「魔石や浄化もですけど、ノロイ?と退魔師?についても、全然知らなくて…もし良かったら、少し教えて頂けませんか?」



 沈黙が流れる。


「…ほんとに知らないんだね?」

「はい」

「ちなみに聞くけど、変身したのもさっきが初めて?」

「初めてです」

「………はぁ。分かったよ。ちょっと着いてきて。場所を移そう」


 少女は額に手を置いて深くため息をつき、薄暗い道を歩き始めた。

 


 

 10数分歩いて辿り着いた場所は、乃木区の外れにある廃墟だった。


 今から10年程前、この場所にショッピングモールを立てる計画がなされた。廃れた住宅街の中にあるには珍しい大きさのものだったため、当時の近隣住民からはとても注目されていた。月鹿はまだ幼かったとはいえ、つばめの園の先生方や歳の大きな子供達が、ショッピングモールができたら買いたいものや、どんな店があるのかなどと言うことをやたら頻繁に、目を輝かせながら語っていたのを覚えている。しかし、完成間近になった頃、現場での事故や責任者の死亡など、不幸な事が次々と起こるようになり、工事を続けることすら難しくなってしまったとか。そして計画は白紙。取り壊そうとするも更なる事故やら何やらで難しくなってしまったらしく、仕方なく市民の立ち入りを禁止し、敷地ごと封鎖。その後も、このことを面白がって侵入した者が行方不明になったり、捜索願を出された警察が確認しようとすると、屋根が落ちてきて半数以上が全治1年以上の大怪我を負うという大事故が起こったなどの不吉な出来事が後を絶たなかった。 

 

 そんなこんなで、この場所が呪われたショッピングモールなどと呼ばれるようになるのには大して時間を要する事もなく、ネットなどを通じてあっという間に広まっていってしまった。今や、「立ち入ってはいけない心霊スポット集」などのオカルトじみたリストには必ず名前が載っているほどの有名ぶりである。今でも、肝試しをしようと不法侵入して行方不明になったとされる人が時々現れる。そんないわくつきの場所に、少女は迷わず入っていく。

 


 廃墟の中は月鹿が想像していたよりもずっと綺麗だった。普通の商業施設と比べて特別綺麗というわけでもないが、人の立ち入らない廃墟にしては内装が整いすぎており、埃も少ない。


「好きなとこ座って」


 少女に付いて行って辿り着いた先はフードコートだった。月鹿は言われた通りに手前にある席のひとつに腰を下ろす。


「どうぞ」

 少女は月鹿の前に紅い液体の入った紙コップを置く。


「ありがとうございます」



 少女は自分のコップに入っている、月鹿と同じ…月鹿の前にあるものよりもほんの少しだけ明るく見える紅色の液体をひとくち飲み、話し始める。


「一応もっかい確認するけど、あんたは退魔師のこともノロイのことも全く知らないんだよね?」


 はい、と月鹿は頷く。


「ふーん。それじゃあさ、儀式はどうやったの?一応、儀式前にテンシ様から大まかな説明は受ける筈なんだけど………あれ、やってない?」

「……えっと、襲われた時に頭でも打ったのか記憶が曖昧で…でも何かしていたような気は………すみませんが、色々と教えてくれませんか?」

「………そっか。打ったところ、大丈夫なの?」


 月鹿は頷く。


「それは良かった。それじゃあ本題に…て、そういえば、自己紹介がまだだったね。わたしの名前は佐藤真歩(さとうまほ)。15歳、高校1年生。あんたは?」


「星守月鹿です。13歳で中学2年生です。よろしくお願いします」

 そう言って月鹿は頭を下げる。


「なるほど、てことはわたしが先輩だ」

「そうですね、真歩先輩」


「じゃあまずは退魔師…いや、その前に神デウス様とその使いであるテンシ様、つまり退魔師が崇める神様とその臣下について説明する」

 真歩は胸を張って低めの声で話し始める。


「神デウス様とテンシ様、ですか」

「うむ、そうである。誤解が無いように言っておくけど、ここでいう『テンシ様』は一般的に『天使』って呼ばれているヤツらとはちょっと違うから。そのー、なんて言うか…まあとりあえず、キリスト教とかイスラム教とか、そういう世界に広まってる宗教に出てくる『天使』とは似て非なるものだと思ってくれればいいよ」


 王様のような口調が思ったよりも大変だったのか、真歩の話し方はあっという間に元に戻った。具体的に言うと、「誤解がないように」のあたりから急激に元の声と姿勢に戻っていった。


「そんで退魔師ってのはね、デウス様から、テンシ様伝いに世界を汚染するノロイと呼ばれる化け物ーさっきあたしらが戦ったやつね、それを倒す使命を課された人達のことをいうの」


「世界を浄化するために退魔師はテンシ様による儀式を受け、力を使えるようになって戦う。さっきやったからわかると思うけど、ノロイの倒し方は、奴らを自力では動けなくなるまで弱らせたあと、浄化する。それだけと言えばそれだけね。んで浄化は、聖典持って浄化って唱えれば光が溢れてノロイが浄化される。これもさっきあたしがやってたことだね。光によってノロイが浄化され、核だけになったら晴れて退治完了」


 なるほど、と月鹿は相対をうつ。


「そして、テンシ様は世界を守るため日々命をかけて戦う退魔師の為に、その人が半年間、つまり6ヶ月で倒したノロイの数や強さによって好きな魔法を教えてくれる。凄いんだよ?テンシ様が与えてくださった魔法のおかげで、重い病を患ってた家族を元気にする薬を作れるようになったとか、いつでも水を出せるから水筒を持ち歩いたりペットボトルを買う必要がなくなったとか、そういう人命に関することや日々の生活に役立つことから、空を飛べる様になった、魔法で沢山のものを操れる様になった、などなど、現実とは思えないような事ができるようになったとか…。魔法があれば、できないことなんてないんだから!」


「…だからまあ、正直、わたしが見てきた感じでは殆どの退魔師がデウス様に感謝し、崇拝しつつも一番の目的は正義とかじゃなく魔法の為で…かくいうわたしもその一人なわけだけど。あ、でも敬意はちゃんと持ってるよ?そりゃあ、デウス様やテンシ様がいなかったら何もできてないわけだしね」


 そう言いながら、真歩は恥ずかしそうに微笑む。


「ということは、先輩はいつもあの化け物…ノロイと戦っているんですか?」

「うんまあ、そうだね。理由は褒められたもんじゃないけど、一応、世界の為に戦ってるも、嘘じゃ…ないし?」

 半分くらいは…3分の1くらい…いや4分の1くらいは、…思ってないこともないこともないこともないし?勿論、デウス様への忠誠心はあるけどね!などと真歩は呟いている。


「…それで!次はノロイについて、説明しますっ!ノロイってのはね、簡単に言うと生き物の感情ー主に負の感情だね、それと世界に漂う悪い魔力が合わさることで生まれてしまう化け物のこと。…そう言われてはいるけど、植物のノロイもいるから、本当に負の感情から生み出されているのかは怪しいかな。テンシ様がそう言っているんだからそうなんだろうけど、信じるかどうかはその人次第。実際に疑問に思って、調べようと頑張っている人もいるしね。…研究はあまり上手く行ってないみたいだけど」

 そう言いながら、真歩はどこか遠くを見つめている。


「…まあそこはどっちでも良くて。わたしが説明したいのは、ノロイには大きくふたつの種類に分けられるということ」

 真歩は月鹿を見ながら、指を2本立てる。


「ひとつ目は、生き物に取り憑いたあと、その生き物の体の五感や脳に直接異変を作り出して体から壊そうとしてくるノロイ。ふたつ目は、感情のある動物に取り憑いて精神を破壊しようとしてくるノロイ…ごく稀にこっちが植物に憑いてることがあるから意味不明なんだけど、これも一旦置いといて…。ちなみに、さっきあんたを襲ったヤツは前者だね。基本的に前者を異変系、後者を精神系って呼んでいて、それぞれ取り憑き方は違うけど、取り憑いた生物の魔力や魂を奪おうとしてくるという点では共通してる」


「このふたつの違いは見たら絶対分かると思うけど、倒した時の魔石の色なんかもよく見ると違っていて、ざっくり言うと、異変系の方が精神系よりも明るい色をしているかな。今後精神系の魔石を見る機会もあると思うから、その時になれば分かると思うけど、あっちはもう少し暗い赤色なんだよね。あと、精神系にはたまに、取り付いた生き物を操って他の生物を襲わせていくノロイとかが居たりして、厄介度の振り幅は異変系と比べるとかなり大きめかな。まあでも今言ったのはかなりレアなケースだけどね。さっきはそういう厄介なのが居なかったのが不幸中の幸いって感じだけど、ノロイに取り憑かれていたあんたは、正直言うと結構ヤバい状況だったんだよ?あの時正気に戻ることができていなかったら、わたしが助けたとしても、体のどこかが壊れて再起不能、みたいになってた可能性が高かったんだから」


「…ありがとうございます」


 真歩の話を聞いた月鹿は、真っ青な顔で礼を言う。


「うん。でもまあ、さっきは助けに入れたとしても、あんたが手伝ってくれなかったら2人揃ってこの世からおさらばしてた可能性が高かったし、それに関してはお互い様ってことで。続けるね。ノロイの強さは、そのノロイが内包する魔力量と感情の強さによって決まる。魔力量が多くなれば多くなるほど、負の感情が強くなれば強くなるほど、強いノロイが生まれるってわけ。それに伴って纏っている瘴気も強くなっていくから、ノロイと戦う時は自分を絶対に見失わないことが何よりも大事。仮に相手が魔力も感情の力も弱い雑魚だったとしても、取り込む隙を見せてしまったら最後。奴らは一般人とか退魔師とか関係なく取り憑いてくるし、そうなると最悪の場合、本当に洒落にならないことになってしまうかもしれないから気をつけて」


 真歩は真剣な表情で話す。先程までの月鹿は、月鹿が思っていたよりもずっと危険な状態にあったらしい。月鹿は顔を青くしたまま下を向く。


「…脅すようなことを言ってごめんね。でもこれが現実。これからのあんたは大丈夫だと思うけど、それでも舐めてかかったら痛い目見ることになるかもしれないから、一応ね…」


「あ、それと。今から言うのは安心してもいいって意味ではないんだけど、さっきわたしたちが戦った奴らは一体一体が最強レベルって程ではなかったけど、それでも大多数がかなり強いほうだった。全体的に核も大きかったし、全部が精神への負担は少ない異変系だったとは言え、瘴気だけで参りそうになるくらいにはやばかった。正直に言うと、退魔師になってそれなりに長いわたしでさえも、正気を保つのが結構しんどかったし。ただ安心?できるかは分からないけど、あんなにノロイが群れてるところなんて初めて見たし、これまではそんな話聞いた事も無かったから、滅多にある事じゃないよ。ひとりじゃなかったからとはいえ、あれを乗り越えられたあんたなら、多分この先もやって行けると思う。この件は一応、わたしの方からテンシ様に伝えておこうとは思っているけど、普段からあんなにヤバい状況で戦わないといけない訳ではないってことだけは分かっておいてくれてもいいかな。そのあたりは、退魔師として経験を重ねていったら自然と分かることだとは思うけどね」

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