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crescent  作者: Luna
第1章
11/19

5-2「エマ=ロビンソン」

「ぅ…」


「お、やっと目が覚めた!」

「あはっ、クソ女のくせに寝坊とは、生意気だねー?」


(ここは…?それに、何でこの人達が……!?て、何これ、手足を縛られてる…!?)


 必死に体を動かすが、エマの手足を縛るロープは固く閉められており、びくともしない。それどころか口にも布が巻かれており、大声を出そうとしても「んー!」と小さく唸ることしかできない。

 どうやら後頭部を固い何かで殴られて気絶させられた後、体育館倉庫の裏まで運ばれたらしい。エマの目の前では、普段からエマを虐めている女子生徒5人がニヤニヤとほくそ笑んでいる。エマが顔を上げた時に、彼女達の奥で気まづそうな顔を浮かべたおかっぱの少女と目が合ったが、エマの視線に気がついた彼女はサッと横に目を逸らした。彼女の足元には形の少し歪んだ国語辞典が置かれていた。

 


「…何その顔。キモ」

「あんたさー、自分の立場分かってる?ちょっとセンセーが味方してくれたからって、調子に乗ってるんじゃないよ?」


 そう言ったグループの中のひとりがエマの顔に足を押しつける。


「ねー、顔は不味くない?さっきので、うちら絶対あのクソジジイに目ぇつけられてるんだし」


 他のメンバーがそう言ったので、足を乗せていた少女は不満そうな顔で足を下ろす。


「要するにさ、バレなきゃ良いんだよね?」

「ーーー!!!」


 不敵な笑みを浮かべた彼女は、エマのお腹を思いっきり蹴った。ドスッと鈍い音がして、エマは額に汗を浮かべながら体を動かす。あまりの痛みに蹲ろうとするも、頭の上で両手を縛る縄が後ろの柱に括り付けられており、少し前屈みになるしかできない。


「きっしょ!」

「こんくらいでへばってんじゃねーよ!」


 周りにいた他の女生徒達も近づいてきて、エマのことを蹴りつけだした。

 

「いいこと思いついちゃった」

 

 少しして、エマを蹴りつける彼女達の様子を後ろで見ていた平野がニヤニヤと笑いながら口を開いた。


「…いいこと?」


 エマの前にいるひとりが聞き返す。


「そう。ただ蹴るだけじゃつまんないじゃない?だから…」


 そう言って平野は、彼女の後ろに立っていたおかっぱの少女を見る。


「…ぇ?」

「あんたがやりなよ。うちらは見てるからさー」

「あの、でも」

「ほら、早くしな。それとも何?エマちゃんを蹴るなんて出来ない!とでも言うの???」


 なにそれ、キモーい!と生徒達は口々に笑い合う。


「そんな訳ないよね?浦木ちゃんはこいつのことキライだよねー?」


 平野はおかっぱの少女ー浦木に向かって明るく話しかける。平野の口元は笑顔を保っているが、その目は一切笑っていない。


(…やめて)

「私は、えっと、その…」

(聞きたくない)

「ほら、言えよ。早く」

 

(お願いだから、何も言わないで)

 

「………はい、キライです」


 浦木は少しだけ迷うような素振りを見せた後、8の字の眉を保ったまま、しかしハッキリと、そう言った。

 

(ーーーーーーーーーーーーーーーーー)


 その瞬間、エマは視界が真っ黒に染まるのを感じた。目の前の彼女達がまたエマを蹴りつけながら何か言っているが、エマの頭には届かない。嫌い、きらい、キライ。その言葉がエマの中で繰り返し再生される。


 (…あたしは、本当にバカだな。変われた気になって、バカみたいにはしゃいで。なのにたった一言言われただけで、何もかもに絶望しそうになる。昨日までと、何も変わってないのに。大体、そのくらい分かってたじゃん。なのに、なんで今更、そう言われたくらいで…。いい加減、現実を見ないと…なのに)


 目を瞑ると、彼女と友達だった時のことを思い出す。あの頃にはもう戻れない。浦木さんはエマのことを嫌っているのだから。そう考えるだけで、胸が張り裂けそうになる。結構、エマは何も変われない。居場所なんか何処にもない。ましてや、友達なんて…

 

『よろしく。エマ』

 

「ーーーーーー。」


 数日前に初めて会ったばかりで、まともに話したのなんて、昨夜の数十分間だけ。友達と呼ぶには、あまりにもお互いの事を知らなさすぎる。なのに、何でだろう。彼女の事を考えると、昨日交換したトークの画面に書かれた彼女の名前を思い出しただけで、先程まで感じていた絶望感が嘘のように塗り替えられていく。記憶の中の彼女の背中は頼もしくて。一体自分はこんな所で何をしているというのか。つい数時間前に心に誓ったことを忘たのか?こんな所でへばっているようじゃ、助けてくれた彼女に見せる顔なんて何処にもないじゃないか。これは試練だ。彼女に頼られる退魔師になりたいのなら、くよくよなんてしていられない。

 

「ねぇ、何か反応くらいしたら?」

「キライって言われたのがよっぽどショックだったってこと?それくらいで?だとしたらキモ」

「ねぇ、聞いてんの?…無視するなよ、おい」


 ガンッ


 生徒達のひとりの蹴りがエマのお腹を命中する。


「ねぇ無視とか酷くない?」


 ガッ


「やっばコイツおかしくなっちゃったw」


 バッ


(もう少し…)


「なんか反応くらいしたら?我慢してたってやめてなんてあげないよ?」


 バッ


(………できた!)


「いい加減にー」


 ゴンッ


「痛ぁ!?」


「………は?」

「な!?お前、なんで……どうやって、その縄を切った!?」

「刃物なんて持ってなかったよな!?」

「ポケットの中は見たはずだ!」


 少女の蹴りを避けて立ったエマを見て、彼女達は口々に話す。

 

 そしてエマは思いっきり息を吸って、叫ぶ。


「助けてー!」



 エマは切れたロープを持って、大声で叫びながら校舎に向かって走る。


「な、お前…!?」

 

「なんだなんだ?」

「なんかあったのか?」


 エマの声を聞いた生徒達が集まってくる。


「おいあれ、平野達と浦木じゃね?」

「うわあいつら、懲りないね。浦木さんまた虐められてるじゃん」

「あれでも今の声、浦木のだったか?」

「ロビンソンさんだよ」

「え?ロビンソンってあれだよな。虐められてた浦木と仲の良かった」

「浦木が裏切って平野側についたんだよ」

「え?虐められてる時は散々ロビンソンに助けて貰ってたにも関わらず?」

「俺は隣のクラスだから詳しくは知らないけど、そうらしい。なんでもロビンソンが浦木に告って、それを浦木が振って仲が悪くなったとか」

「えでもあいつら女同士じゃん」

「それに関してはロビンソンもやばいと思う。それでも恩人をいじめるような奴と比べるとまだマシだとは思うけど」

 

「な…」

「ねぇこれ、ちょっとやばいんじゃない?」


 注目され始めた平野達は顔を見合わせて、そそくさとその場から逃げようとする。


「何の騒ぎだ、これは?」

 騒ぎを聞きつけて先生達も近づいてくる。平野達は急いでその場から逃げようとしたが、何人かは先生に捕まえられていた。


「違うんです!わたしは、辞めようって言ったんですけど…!」

「平野や大塚とかがロビンソンのこと蹴って、あたし達止めようとしたんですけどやめてくれなくて…」

「ちょっと!離して!」


 捕まった女子生徒達は自分は悪くないと口々に叫んでいるが、捕まえられた手を振り解く事ができずそのままずるずると引きづられて行った。

 


 エマは後日、登校した際に知ることになるのだが、5限目の後、エマのいじめを知った体育教師は職員室に戻るや否や教頭にいじめの件を伝え、何とかしなくてはならないと、そう熱弁をして説得しようとしていたらしい。これまでずっといじめを見て見ぬふりしていた教頭がいじめを辞めさせるように動いているのを見て、生徒達はおろか、教師陣も大変驚いていた。一体、体育教師はどうやって教頭を説得したのか。体育教師の言葉が教頭の心に響いただの、賄賂を渡しただの、脅しただのと生徒達は好き勝手に色々な説を唱えたが、生徒の中に真実を知る者はおらず、先生方も口を割ることは無かった。

 

 先生に保護されたエマはすぐに保健室に連れて行かれ、少し休んだ後にそのまま帰宅した。保護者に連絡して迎えに来てもらった方がいいと言われたが、迎えはおろか、連絡も絶対にしないで下さいとエマが必死に頼み込んだため、休んだ後は普通に歩いて帰宅する事になった。何人かの先生は連絡だけはしなくてはいけないと電話をしようとしたが、エマがあまりにも必死に止めるものだから、校門を出るところまで先生がひとりついて行くだけで、後はエマがひとりで帰ることとなった。

 

 

 日が暮れて、昼間の喧騒が嘘のように、校内は静寂に包まれていた。人の居ないはずの校庭に、影がひとつ、映し出される。

 

「これは…」

『ーーーーーーー』

「あぁ、でも」

『ーーーーーーー』

『ーーーーーー』

『ーーーーーー』

『ーーーーーー』

『ーーー』

『ーーー』

『ーーーー』

『ーーーー』

『ーーーーー』


 男は話そうとするが、クネクネと動く"何か達"によって言葉を遮られた。


「お前らな…」


 男は少しの間その場で考えたあと、口を開く。


「帰るぞ」

『ーーーーーーーーーーー』

『ーーーーーー』

『ーーーーーーーーーーー』

『ーーーーー』 


「無理だ。諦めろ」

『ーーーーーー!』

『ーー!』

『ーーー!』

『ーーーーーーー!』

『ーーーーー!』

「ジジイ!?あ、おい、ちょっ、柱に巻き付くのはやめろ!」


『『『『『『『『『ーーーーーーーーーーーー』』』』』』』』』

「痛い痛い痛い痛い!!!禿げる!禿げるって!」

『『『『『『『『『ーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!』』』』』』』』』


「煩い!!!言っとくけど!俺が禿げるって事はお前らが母体から離れるって事だからな!?離れた後のお前たちの命の保証なんてないからな!?お前らがどうなろうと、俺はまじで知らないからな!?」

 

校庭に、男の叫び声が響く。

 

 

 

静かな夜の学校は、今夜はもう戻ってこない。

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