第06話 『血の契約』
物思いに耽っているうちに説明会が終わったようだ。みんな帰る準備をしていた。
「おい! リク! 一体何があったんだよ!」
「ん? ああ、後で話す」
「気になるだろーが!」
ジオが心配してくれているようだ。流石に説教されてきたとは思っていないらしい。
「とりあえず、みんなが終わるまでホールで待っていよう」
「ワルテには行かねえのか?」
「みんなで校長室に来いと言われた」
「なんだそれ!? 俺らもかよ」
「ああ」
昇降口に行く途中にあるホールでみんなを待つことにした。ここなら、誰か通れば一目でわかる。
フカフカのソファに深く座る。
「みんな集まるまで言うなって言われてるからさ、詳しくは言えないんだけど…… たぶんびっくりすると思う。いや、100%驚くよ」
「なんだあ? お前の様子がおかしいからただ事じゃないんだろうが……」
「乞うご期待! ってとこだな」
「なんじゃそりゃ。大丈夫かリク」
「大丈夫じゃねーよ。見りゃ分かんだろ」
自分でもよく分かってないんだ。いや、自分だから、か。
「良い知らせだよ。たぶんね」
「ほんとか? お前の態度見てたらとてもそうとは思えないんだが……」
「混乱してんだよ。許してくれ」
「リクがそこまで動揺するとは、珍しいな」
「あとでわかるよ」
「うわー、気になる気になる」
いつもとは逆の立場でジオを焦らす。
「お、あれアリア達じゃん。おーい!! アリア―!!」
ジオの声に気付いたアリア達が、ホールに入ってくる。ベルはまた長引いてるようだ。
「あらジオとリクじゃない。態々ここで待っててくれたの?」
「いやー、リクが俺たちに用事があるみたいでさ」
「どういうこと?」
「俺ら全員で校長室に来てほしいんだって」
「怒られるのかなー?? ボクなんもしてないのに!!」
「いや、怒られないよココ。大丈夫」
「ほんと?? よかったー!!」
「お説教じゃないならなぜ呼ばれたんですの?」
「行けばわかる」
「なにそれ。教えなさいよ」
「今は無理なんだ。ベルが来たら校長室行こう」
アリア達の追及をいなしてたら、ベルが来た。
「ワルテ集合じゃないのか?」
「なんかリクが校長先生に呼ばれてるんだってー。 何故か私たちも巻き添えみたい」
「えぇ…… リクどういうこと?」
「行けば分かる。すまないが少し付き合ってくれ」
ベル達を連れて校長室に向かう。
(『血の契約』って言ってたっけか。何するんだろう)
校長室の扉をノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
俺の後ろについてぞろぞろとみんなが入ってくる。
「引き留めてすまなかったな。まあ座ってくれ」
椅子が7脚並んでいた。各々適当に座る。
「話というのはリク=ブランのことについてだ」
「リク=ブラン、みなにはまだ話していないな?」
「はい」
「うむ。よろしい」
俺の事だと聞いて、ジオ以外は少し呆れている様子だ。まだ俺の説教に巻き込まれたとでも思っているのだろう。
「リク=ブランの属性について、だ」
どうやら説教ではないことに気付いて、不思議そうな顔をするみんな。
「リク=ブランからは、無属性だと聞いているだろう? 実は、リク=ブランは無属性ではなかったのだ」
「「「「「「!?」」」」」」
みんなの声にならない驚きが伝わってくる。
「リク=ブランはな、闇属性なんだ」
「「「「「「!?!?!?」」」」」」
みんな口をポカンと開けている。まあこうなるのは予想できてたけど。
「驚くのも無理はない。だが、これは紛れもない事実なんだ」
「じゃ、じゃあ、リクも冒険家になれるんですか?」
最初に口を開いたのはベルだ。気になるのそこなのかよ。でもベルらしい。
「恐らくな。実は私も闇属性については君たち程度の知識しかないのだ」
なるほど、校長も知らなかったのか。だから何も教えてくれなかったんだ。
「ただ、王都での生活はみなとは全く違うものになるだろう」
よく考えてみればそうだ。学院も無いし、どういう暮らしになるんだろう。
「ここからが大事なんだ。よく聞いてくれ」
校長の声が真剣味を増す。
「闇属性の存在は、非常に機密性が高いのだ。国から秘匿するよう命じられていてな。君たちにしか話せない。リク=ブランの親にもだ」
みんな静かに話を聞いている。頭が追い付いていないのかもしれない。
「だから君たちも決して他の者に話してはならぬぞ」
「わかりました」
みんな雰囲気に押されて頷く。
「ただ、口約束で済ませるには重大すぎることなのだ。だから、君たちには『血の契約』をしてもらう」
ジオが驚いた顔をしている。知っているのか?
「『血の契約』ってなんですかー??」
ジオ以外は知らないっぽい。
「説明するよりやった方がはやい」
校長はそう言うと引き出しから紙を一枚取り出して机に置いた。
「みんな机の前まで来てくれ」
言われるまま前に集まる俺たち。
近くで見るとこれがただの紙ではないことがわかる。目に見えないなにかを纏っているのを感じる。
俺たちが不思議な紙に見入っている間に、どこからか小さなナイフを取り出していた校長。それを一人一人に渡していく。
「これで親指を切ってくれ。血が出れば良い」
「えっ…… 切るの?」
「うわわわわ…… なんかこわい」
「わたくしもですわ……」
「なに、小さな切り傷程度で良い」
ビビるアリア、ココ、マーサを尻目に躊躇いなく自分の指に傷をつける俺たち。リゼは女の子なのに肝が据わっているな。
「お前ら早くしろよな。俺ら失血死しちゃうぜ?」
ジオが3人をせかす。
「わ、わかったわよ」
アリア達は細目にして恐る恐る切ってる。そんなに怖いか? これ。
「うむ、全員切れたな?」
「はい」
全員で頷く。何が起こるか分からないからドキドキする。悪い意味で。
「じゃあ、リク=ブラン以外の者はこの紙に血で横に線を引いてくれ。最初は誰にする?」
「俺が」
ジオが名乗り出た。こいつだけ知っているみたいだし、怖くないのだろうか。
「うむ。上の方に頼む。他の者はジオ=バナーレの線の下に平行になるように引いてくれ」
ジオのあとにベル、リゼ、ココ、アリア、マーサの順に自らの血で不思議な紙に線を描く。
「よし、ではリク=ブラン。これらの線を縦に切るように引いてくれ」
「わかりました」
みんなの血の線と垂直に交わるように線を引く。
引き終わったところで一瞬心臓が大きく鼓動した。みんなと顔を見合わせる。全員同じことが起こったようだ。
そして紙は空気に溶けるように跡形もなく消えてなくなってしまった。
「協力感謝する。これが『血の契約』だ。身内に闇属性がいることを外部に漏らしてはならぬぞ。まあ、話そうとしても口に出せぬと思うがな。これは一種の呪いのようなものだ」
呪いって聞くとなんか嫌な感じだな。
「ただ邪心をもってこれに背こうとすると最悪の場合絶命する。君たちなら心配ないと思うが」
絶命という言葉を聞いて怖がるビビり組。ベルやジオも流石に渋い顔をしている。
「脅すようですまない。しかしそれほど重要なのだと理解してくれ。むやみに情報が漏れることはリク=ブランの死につながりかねない」
その言葉でみんな驚愕する。まさか俺の死につながるとは思ってなかったのだろう。俺もそうだし。だが、なぜ『血の契約』をさせられたのか少しは納得したようだった。
「わかりました。厳守します」
ベルが凛々しい顔つきで校長に応える。
「わ、私たちも!」
アリア達が慌ててそれに続く。
「うむ、ありがとう。よろしく頼むぞ。では行って構わない。こちらの用は済んだ」
「あの! 俺たちは王都でもリクと一緒にいれますか?」
ベルが帰り際校長に質問する。
「申し訳ないが私にはわからぬ。そうであることを祈っているよ」
「そうですか…… わかりました。失礼します」
ベルがしゅんとしてる。
俺たちは校長室を出ると昇降口に向かう。
「まだ信じられないわね……」
アリアが誰に話しかけるでもなく呟く。
「そうかあ? 俺はそんな気がしたけどな」
「ええ?? うそ!」
「ほんとだよ! だってリクだけ素性がわからないだろ? 何が起きてもおかしくない」
「そうだけどー…… まさかあの闇属性とは思わないじゃない」
「そうですわね…… わたくしも伝説で聞いたことしかありませんわ」
自分でも信じられなかったのにジオはあっさり受け入れているみたいだ。
「昨日もワルテで水晶玉が汚いとか言ってたろ? なぜか気になってな。もしかしたら闇属性なんじゃいかと考えてたんだ」
「ジオすごーい!!」
「実は私も同じこと考えてた…… まさかとは思ったけど本当に闇属性だったなんてね」
リゼも予想はついていたらしい。すごいなこの二人。いったい何者なんだ。
「属性は何であれ、良かったな! リク!」
ベルは凄い嬉しそうにしている。俺が無属性で冒険家になれないことを気にしていたからな。
「ああ、マジで嬉しいよ! ベルと冒険家になれる」
「本当に仲良しだなお前ら」
ジオが横で囃し立てる。ジオもなんだか嬉しそう。
「おばさんおじさんに言えないのは残念だなー……」
「母ちゃんも父ちゃんも絶対喜んでくれるのにな!」
「国の命令らしいからな。逆らえないけど」
今まで家族のように育ててもらった恩もあるし、あの二人には報告したかった。それが心残りだ。
「とりあえずワルテ行こうぜ!」
その後俺たちはいつものようにワルテに寄って他愛ない話をし、日が落ちるころにはそれぞれの家に帰った。
「ポロっと母ちゃんに言っちゃいそうだな~」
「おい」
「冗談だよ」
ベルの場合はほんとにやらかしそう。
「まあ『血の契約』があるから言いたくても言えないんじゃないか? 校長も言ってたし」
「それなら安心!」
「本当かわからないし、ちゃんと気をつけろよ?」
「はーい」
すごい適当な返事が返ってきた。分かってんのかこいつ……
「「ただいまー」」
家に入るといつもとは違う良い匂いが漂ってくる。空腹を刺激する香りだ。
どうやら今日も御馳走みたいだ。おばさん張り切ってるなあ。俺たちは嬉しいけど。
この家にお世話になるのもあと少しか。寂しいな。
本当の家ではなくても、ここは俺の家だし、あの二人は俺の親だ。
「たまには帰ってこようなベル」
「あったりまえだろ?」
リビングに入ると、昨日と同じかそれ以上の御馳走が俺たちを待っていた。
投稿が遅れて申し訳ありません……
第1編はこれで終わりです。次話から第2編になります。
毎日投稿ではなくなりますが(すでに昨日で途切れた)、これからも週2~3話投稿するのを目標に頑張ります!
是非応援の程宜しくお願い致します!




