第07話 卒業
淡いピンク色の花弁がひらひらと机の上に舞い落ちる。
窓から見えるのは、この時期花を咲かすサクラという樹。異世界から持ち込まれた植物だと昔ベルに聞いた覚えがある。自慢気にピンク色の髪を見せつけている。
(今日はあったかいな……)
教室の前の方から聞こえる声が心地良い眠りを誘う。卒業式の流れを説明しているらしい。後ろからはスピスピ聞こえる。ベルが寝てるんだろう。
「――という感じだ。まあ普通にしてれば良い。順番に名前呼ばれるから返事はしっかりしろよー」
担任もそんなにやる気がないみたいで適当な感じだ。
「リク、ベルを起こしてやれ。そろそろホールに向かうぞ」
ベルをユサユサ揺らす。全然起きないし、ヨダレ垂らしてる。きったね。
「おい、起きろ。行くぞ」
頭を叩いて起こす。まだ半分寝てるなコイツ。なんかムニャムニャ言ってる。
「おい、立てって」
引きずるようにベルを教室から連れて行く。朝もギリギリまで寝てたくせに。
ホールに着くとみんなが並んで座っていた。俺らが最後みたいだ。
うちの学校は1学年だいたい120人くらいで、ホールに丁度収まるくらいだ。ちなみにベルは椅子に座った瞬間寝た。
その後は滞りなく式が進められ、最後に校歌を歌って終わった。名前を呼ばれる時はがんばってベルを叩き起こした。
「いやあ、なんとか式ってのはどれもつまらんな」
ジオがぼやきながら俺らの元に歩いてきた。寝てるベルにビンタする。流石にジオの一撃は効いたみたいで、一発で目を覚ました。
「いってぇー! あ、ジオか。おはよ」
「いい加減起きろ。式終わったぞ」
「ええ!? 俺返事したっけ」
「ギリギリできてたよ」
「ならよかった」
「よくねーよ! リクに感謝しろよ」
「ありがとうリク」
「どういたしまして」
くだらないやりとりをしていたら、他のみんなも来た。
「やっとおわったー!! ボク途中で寝ちゃった」
「うちも! 退屈だったわ」
寝てるやつ多すぎだろ。かくいう俺も途中やばかったが。
「みんな揃ったし、ワルテ行くか」
「そうしましょう」
昇降口に向かう俺たち。周りを見ると、名残惜しくて中々帰ろうとしない者も多い。
「もうこの学校に来ないって考えると少し寂しいな」
「そうかな。リクそんな思い入れあんの?」
「そういうわけじゃないけど……」
「リクの言うこともわかるぞ。嫌々でも毎日通ってたしな!」
「私は結構好きだったなあ……」
「リゼは勉強すきだもんね!! ボクは大嫌いだもん」
「わたくしもなんだかんだ気に入ってましたわ」
「嘘つき乳女……」
「何か仰いまして? 貴女と違って優秀ですのよ、わたくしは」
「ぐぬぬ……」
「アリアはボクとおんなじだね!」
ワルテに着いた。よく考えれば、王都に出たらここに来ることもしばらくないのか。
「いらっしゃい―― ってお前らか」
「やっほー! いつものね!」
奥のソファ席に座る。今日はお客さんが誰もいないようだ。本当に潰れるんじゃないだろうかこの店。
「お前らももう卒業か。今日のお代はサービスにしといてやる」
「ほんと!? ありがとうブルさん!」
ブルさんにはお世話になった。ベロニクに帰ってきたときはここに寄ろう。潰れていなければ。
早速ジオが煙草に火をつける。禁煙しないのかなこいつ。
「で、みんな王都にはいつ出発する?」
ベルが急に口を開いた。それは俺も気になっていた。
「そうだな…… どうせなら一緒に行きたいし、日にち合わせるか!」
「まず、学院始まるのいつからだっけ?」
大丈夫かベル。心配だ…… 王都でちゃんとやっていけるのだろうか。親みたいな気持ちになる。
「学院が始まるのは丁度10日後だな」
「思っていたより近い!」
「説明受けたろ」
「ほとんど忘れちゃった」
にへらっと笑うベル。
「王都に行くのに1日かかるから、あんまりゆっくりとしてられないな」
「そうだね。向こうでの準備もあるだろうし5日後くらいはどう?」
「そんくらいがいいかもな。他の奴はどう思う?」
「うちもそれでいいと思う!」
「ボクもー」
「私も大丈夫」
「わたくしもそれでいいですわ」
「うむ。じゃあ5日後に出発ってことで」
すんなりと日程が決まる。あと5日か……
「なんか急に実感がわいてきたな!」
「何持っていけばいいのかな」
「服くらいだろ。教科書とか諸々は向こうでもらえるらしいし」
「なんかドキドキしてきた!」
「はえーよ」
みんななんとなく浮足立っているみたいだ。俺の胸も期待で膨らむ。
「そういえば、住むところはみんな近いらしいな」
「え! ほんと!?」
「ベル…… ほんとになんも覚えてないのか……」
ジオがベルの鳥頭振りに呆れている。
「ったくお前は…… 寮は属性で分かれてないから、希望出せば同じ寮に入れるかもしれないってことらしい」
「え! マジで!」
「ほんとー!? 一緒のとこいこーよ!」
「ココも鳥だったか…… 説明はきちんと聞いとけよ」
「リクも一緒なの?」
「いや、俺は寮に住めるかまだわからないんだ。俺だけ学院が無いし……」
「えーー…… 一緒がいいのにーー」
「王都でどうなるか教えてくれるらしくて、まだなんも聞かされてないんだ」
「へえ、ほんとに漏れちゃダメなんだな。リクの情報は」
「本人なんだから教えてほしいよな」
「まあ仕方ない。国の命令らしいからな。一校長先生じゃどうにもできねえよ」
自分がどうなるか知らないせいで、みんなの話についていけない。置いてけぼりを食らってる気分だ。
「寮に入れるか分かったら言うよ。お前らには話して良いっぽいしな」
「おう! 向こうでも集まろうぜ」
「ワルテみたいな店があればいいんだがな……」
「王都は人が多いからなー。ここより居心地良いところは中々無いぜ」
「客が少なくて悪かったな」
ブルさんがサンドイッチの乗った皿を片手に歩いてきた。
「聞こえてたの? 褒めてるから怒んないでよブルさん」
「褒められてる気がしねえな」
そう言いながら皿をテーブルに置く。
「なにこれ?」
「卒業祝いだよ。ありがたく思えよ」
「わーい!! ありがとうブルさん!」
ココが真っ先にサンドイッチにかぶりつく。
「うん。色々ありがとねブルさん」
「たまには来て話聞かせろよ」
「そのつもりだよ」
「そういえば、俺の知り合いがやってる店が王都にある」
「え! なんてお店?」
「『フォンセ』っていう店だ。よかったら行ってやってくれ」
「わかった。行ってみるよ」
「おう。店主には話しておくよ」
「ありがとう」
(お店やっている人同士の繋がりでもあるのだろうか。ブルさん昔は王都にいたって言ってたし、その時の友達かな?)
―――――
「じゃあ、出発は5日後な」
「わかったー」
「明日はどうするの??」
「俺服買いに行こうかな」
「いいなー! うちも行く!」
「暇な奴は明日買い物行こうぜ。必要なものもあると思うし」
「わかった……」
「わたくしは明日は用事がありますわ」
「俺もだ」
「おっけー。じゃあマーサとジオ以外はお昼に集合な」
「おっけー!」
明日の約束を済ませて解散する。ベルは服たくさん持ってるけど、俺は全然持ってないからなあ。ベルに選んでもらおう。かっこよくしてくれるはず。
「ベルも明日行くだろ?」
「もちろん!」
「服選んでくれよ」
「いいよ! リク地味な服しか着ないもんね」
「うるせー」
「せっかく王都に出るしね。イメチェンしよイメチェン」
「ああ、頼むよ」
俺もおしゃれ男子の仲間入りして、彼女を作りたい。そういうお年頃なのだ。
「ベル、おばさんおじさんには俺の事言ってないだろうな?」
「言ってないって! 心配性だな~リクは」
「いくら隠してもいずれバレる気がするけどな……」
「そうだねぇ。ま、今のところは大丈夫だから安心して」
「うん」
ベルはバカそうで実はしっかりしているのだ。多分大丈夫だろうが気が抜けない。バレたらその時はその時だな。
お久しぶりです。
前話で週2~3話を目指すとか言っておきながら、約1か月振りの更新になってしまいました。大変申し訳ございません……
次話は出来るだけ早く更新いたします!




