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悪女と聖女は、世界を救う方法で喧嘩する  作者: 白川 透


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第19話 二艘ずつ

 四艘の舟は内水路の石壁に沿って進んでいった。


 壁際は松明の明かりが届きにくい。上流側の岸から舟の位置を見通せない場所を、ルイザが訓練のときに選んでおいた筋だった。操作室の窓からは、舳先に吊るした小さな灯が四つ間を空けて並んで見えるだけだった。


 上流側の岸で、弓弦の音がした。


 矢が一本、内水路の上を越えて石壁に当たった。続けて二本、三本。


 すぐに安全側の岸から守備隊の射手が射返した。ダリオの声が水の上を渡ってくる。何と言ったのかは聞き取れない。上流側の岸の松明がいくつか慌てたように後ろへ下がった。


 桟橋の伝令が窓の下から叫んだ。


「ダリオさんから、援護続けます!」


 クラウディアは赤い灯から手を離した。


* * *


 先頭の二艘が作業区の乗降場に着いた。後ろの二艘は少し手前で止まり、順番を待っている。訓練のときと同じだった。乗降場は二艘分しか横付けできない。


 乗降場の松明の下で人影が動いた。一艘目に、誰かが両脇を支えられて乗り込む。足を引きずっていた。続いて四人が一人ずつ腰を落として乗り込んでいく。


 二艘目も同じだった。支えられた一人と、四人。


 作業区の側から白い灯が一度上がった。乗り終えたという合図だ。


 クラウディアは窓の外の二艘を見た。二艘とも船頭が竿を構えている。乗降場にまだ乗りかけの人影はない。


 白い灯を一度上げた。


 二艘が乗降場を離れた。入れ替わりに待っていた二艘が横付けする。


 クラウディアは窓の脇の伝令を呼んだ。


「斜路の聖女へ。先に出た二艘に、介助の人が一人ずつ。次の二艘にも一人ずつ。合わせて四人」

「はい」


 伝令が階段を駆け下りていく。ミリアは斜路の上で人を受ける場所を作っているはずだった。


* * *


 後ろの二艘の乗り込みに手間取った。


 介助の要る一人が乗降場の縁で動けなくなっていた。両脇の二人に支えられたまま縁から先へ足が出ない。後ろの人影が詰まりかけた。


 クラウディアは白い灯の把手を握ったまま、上げなかった。


 急かせば、誰かが落ちる。舟の上の船頭が竿で舟を岸へ押しつけていた。舟は揺れていない。待つことはできた。


 乗降場の奥から鞄を提げた人影が出てきた。ミリアが送り出した救護員の、どちらかだろう。


 救護員は男の前にしゃがみ込んだ。しばらく、誰も動かなかった。やがて救護員と支える二人が男に身を寄せ、男の体が持ち上がって、舟の縁を越えた。舟の上で男がうずくまるのが灯の明かりに見えた。


 救護員が立ち上がり、乗降場へ戻った。残る四人が順に乗り込んだ。


 作業区の側から、白い灯が一度。


 クラウディアは白を上げた。


「三分」


 トビアスが懐中時計を見て言った。


 最後の二艘が乗降場を離れた。乗降場の松明の下にはまだ人影が残っている。救護員の二人と、警備の兵と、作業員たち。こちらへ向けて手を振っている者がいた。


 八人だった。


 先に出た二艘が安全側の桟橋に近づいてくる。


 桟橋の上でルイザが縄を投げ、船頭が受けた。降りた人たちが、斜路の上へ続く松明の列に入っていく。


 上流側の岸で、また弓弦が鳴った。今度は桟橋に近い。射手の一人が肩を押さえて屈むのが見えた。すぐに別の兵が前へ出て盾を構える。


 クラウディアは赤い灯へ手を伸ばしかけて、止めた。射手は自分の足で後ろへ下がっている。盾の列は切れていない。援護は途切れていなかった。


 後の二艘も桟橋に着いた。


 桟橋の係員が一人ずつ数える声が窓の下から聞こえた。十七、十八、十九。


「二十」


 係員が叫んだ。斜路の上から誰かが声を返した。ミリアの声だった。何と言ったのかは、操作室までは届かなかった。


 クラウディアは窓の外の作業区を見た。乗降場の松明の下で八人が待っている。


 空いた二艘をもう一度向こうへ出さなければならない。


 床の下で、何かが軋んだ。


 低い唸りが止まり、代わりに金属を引っ掻くような音が壁を伝った。トビアスが懐中時計を握ったまま顔を上げた。計器の針が、一度大きく揺れた。


「保持の連結部だ」


 トビアスは時計をクラウディアの前の台に置くと、助手を連れて階段を駆け下りていった。


 時計の針は、六分を指していた。

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