4話(ベルンハルト視点)
アリサ姫が我が邸に来てくれてから二か月が経とうとしていた。
皇帝陛下への謁見のためあつらえたドレスや装飾品を身にまとった姫は、童話の世界から飛び出してきたような可憐さだった。このままどこか遠くへ飛んで行ってしまうのではないかと思わせる、その儚さに釘付けになってしまった。
皇帝陛下は私たちに月に二度の交流をするよう命じたが、あれは完全に私たちのことを面白がっていた。
私がアリサ姫に極力近づかないようにしようと思っていたことを見抜かれたのだと思う。
こんな私と強制的に交流させられるアリサ姫が不憫でならない。
彼女に何かあってはいけないと、毎日彼女を見守り続けていた。
アリサ姫は勉学が得意なようで、皇国語も一月ほどで日常生活に困らない程度まで習得していた。
いまも熱心にこの国の作法や歴史なども学び続けてくれているらしい。
こんな状況でも前向きに環境に適応しようとするアリサ姫は本当に稀有な存在だと思う。
普通であれば泣き暮らしているだろう。
だがアリサ姫は微笑みを絶やさず、時には私にも声を掛けてくれるし、月に二度の交流の場でも朗らかに多くの話をしてくれる。
しかし私は不甲斐ないことに、彼女とまともに話すことができないでいた。彼女に見つめられるとおかしくなりそうなほど頭が沸騰するし、好意を伝えたくなってしまう。
もちろん、彼女の負担になってはいけないので、好意を伝えるようなことはしないが…
そんなある日のこと、月に二度の交流の場で彼女から衝撃的な言葉が告げられた。
「いつも私のことを見ていらっしゃいますよね?近づけば逃げてしまわれますし…私が悪事を働くのではないかと監視されているのでしょうか?」
なぜそんなことを思わせてしまったのか見当がつかない。
なぜだ、なぜだと混乱しているうちに、アリサ姫の大きな瞳には涙がたまっていた。
泣きそうな顔も堪らない…
一瞬思考が飛んでいきそうになったが、慌ててアリサ姫の言葉を否定する。
「そ、そういった意味ではない!決して監視などしていない!ただ、アリサ姫が不自由をしていないか確認していただけなのだ。信じてほしい…」
私の言葉にアリサ姫が少し安堵したような表情を見せてくれたが、次の瞬間再びアリサ姫の顔が曇った。
「では、なぜ話しかけたら逃げてしまわれるのですか?この交流の場でもあまりお話してくださいませんし…なにか至らぬ点があれば教えていただきたいのですが…」
そう言われて、自分の態度がアリサ姫を不安にさせていたことに気づかされた。
今まで女性とは私を嫌悪するものであり、私から近づいたり話しかけたりしてはいけない存在だと信じて生きてきた。だが、アリサ姫は違ったらしい…そんなことにも気がつかずに勝手に守っているつもりになっていた。
「いや、それは…至らぬところがあるのは私の方だ。アリサ姫に落ち度など一つもない。異国の地で一人、頑張っているアリサ姫を尊敬しているし、信頼している。それだけは信じてほしい。」
私は自分のこれまでの態度を反省しながら、アリサ姫に安心してほしい一心で語りかけた。
「では、なぜ…?」
アリサ姫の瞳が不安に揺れる。
この表情をさせているのが自分だと思うと、自分を殴りたくなった。
ここは誠実に想いを伝えるべきであろう。
「私は見ての通り、こんな容姿をしております。それに年もアリサ姫とは離れすぎている。そんな私に嫁ぐことになってしまって…あまりにも申し訳なく…」
一瞬の沈黙の後、アリサ姫が口を開く。
「ベルンハルト様は素敵です。私はベルンハルト様の容姿を好ましく思っています。年齢差も許容範囲ではないでしょうか?申し訳ないなどと言わないでください。この婚姻は私が望んで引き受けたものですから。」
アリサ姫はこんなにも私を気遣ってくれている。
その歩み寄りの姿勢に感銘を受け、心が震えた。
「なんと健気な…ありがとうございます。」
私はその言葉を絞り出すことしかできなかった。
たとえ偽りの言葉でも、信じたくなってしまう…そんな気持ちを押さえ私はゆっくりと表情を緩めた。
優しいアリサ姫はその後の会話でも私を褒めるような言葉をいくつも掛けてくださった。
その一言一言が私の心を癒してくれた。
これまで不安な思いをさせた分だけ、貢ごう。
そう心に決めた私は、アリサ姫に毎日贈り物を贈ることに決めた。
最初は遠慮されていたが、だんだんと贈り物を身につけてくれることも増え、私が贈ったもので彩られていくアリサ姫を見るのが生きがいになりつつあった。
最後までお読みいただきありがとうございます。




