笑美、ちびっこコントショーへ
第○話
笑美、ちびっこコントショーへ
文子が若女将として成長していく一方で、笑美にも新しい舞台が訪れていた。
関西ローカルの月一バラエティ番組。
その名も、
『ちびっこコントショー』
小さな子どもたちが、自分の持ちネタでギャグコントに挑戦する番組だった。
*
収録の日。
文子は篠田旅館の仕事を休ませてもらい、笑美と一緒にスタジオへ向かった。
七海は笑美の髪を整えながら言った。
「笑美ちゃん、いつも通りでええからね」
光博も腕を組んでうなずく。
「京都じゃがいも大使、ついにテレビ本格進出やな」
笑美は胸を張る。
「今日は電車さんです!」
*
スタジオ。
照明。
カメラ。
拍手。
笑美は少し緊張していた。
文子は舞台袖でしゃがみ、笑美の手を握った。
「怖い?」
「ちょっと」
「うん。怖くてもいいよ」
「でも、みんな笑ってくれるかな」
文子は笑った。
「笑美が楽しんだら、きっと伝わるよ」
笑美はこくりとうなずいた。
*
そして、笑美の番が来た。
司会者が明るく紹介する。
「続いては京都から来てくれました。板山笑美ちゃん、五歳です!」
拍手。
字幕が出る。
板山笑美ちゃん(5)
ネタ:新快速電車と普通列車のぼやき
笑美はぺこりと頭を下げた。
「よろしくお願いします!」
*
まずは新快速。
笑美は胸を張って、腕を大きく振った。
「ぼく、新快速電車です!」
「ビューン!」
「ビューン!」
「めっちゃ速いです!」
客席から笑いが起きる。
笑美は急に肩を落とす。
「でもな」
「速いって言われるけどな」
「そのぶん、長い距離走らなあかんねん!」
「京都出たら、高槻、新大阪、大阪、尼崎、三ノ宮!」
「まだ行くんかーい!」
客席がどっと沸く。
*
次は普通列車。
笑美はゆっくり歩きながら、丁寧にお辞儀する。
「こんにちは。わたし、普通列車です」
「ガタン」
「止まります」
「ガタン」
「また止まります」
「ガタン」
「またまた止まります」
笑い声。
「走って止まって、走って止まって」
「忙しいねーん!」
さらに体をぎゅっと縮める。
「朝はお客さんぎゅーぎゅー!」
「カバン当たるー!」
「靴踏まれたー!」
「でも次の駅やから、がんばるー!」
*
そして二役の掛け合い。
新快速
「俺は速いけど長距離でしんどい!」
普通列車
「私は各駅停車で止まりすぎてしんどい!」
新快速
「でもお客さん、早く着いたら喜んでくれる!」
普通列車
「私も近くの駅までちゃんと届けてる!」
二人そろって、
「どっちも大事な電車やねーーん!」
スタジオは大爆笑。
*
最後に笑美は敬礼した。
「今日も安全運転で、出発しまーす!」
拍手。
歓声。
司会者も笑いながらお腹を押さえていた。
「いやぁ、笑美ちゃん! 電車の気持ち、めちゃくちゃ伝わったわ!」
審査員も笑っている。
「目の付けどころがすごい」
「五歳でこの構成力は驚き」
「新快速と普通列車、どっちにもちゃんと愛があるのがいい」
*
結果発表。
笑美は文子の隣で手をぎゅっと握っていた。
司会者が封筒を開く。
「本日の優勝は――」
間。
「板山笑美ちゃん!」
スタジオが拍手に包まれる。
笑美は目を丸くした。
「えみ?」
文子は涙ぐみながら笑う。
「笑美やよ」
笑美はぴょんと飛び上がった。
「やったー!」
*
トロフィーを受け取ると、司会者が聞いた。
「笑美ちゃん、将来は何になりたい?」
笑美は少し考えた。
そして、マイクを握る。
「みんなを笑わせる人になりたいです!」
文子の目に涙が浮かんだ。
その言葉を聞いた瞬間、分かった。
この子は、自分の道を見つけ始めている。
*
帰り道。
文子と笑美は、トロフィーを抱えて電車に乗った。
窓の外を走る線路。
笑美はトロフィーを見つめて言う。
「お母さん」
「なあに?」
「えみ、お笑いの人になりたい」
文子は静かに微笑んだ。
「うん」
「なれる?」
文子は笑美の肩を抱いた。
「なれるかどうかは、これからいっぱい練習せな分からん」
「うん」
「でも、目指すことはできるよ」
笑美は大きくうなずいた。
「えみ、がんばる」
*
篠田旅館へ戻ると、光博と七海が玄関で待っていた。
「優勝したでー!」
笑美がトロフィーを掲げる。
光博は目を丸くした。
「ほんまか!」
七海は拍手する。
「すごいわ、笑美ちゃん!」
光博が笑った。
「京都じゃがいも大使、電車界も制覇やな」
笑美は胸を張る。
「次は新幹線界です!」
旅館中が笑いに包まれた。
*
その夜。
文子は眠る笑美のそばで、トロフィーを見つめていた。
この子は、笑うことを奪われかけた。
でも今は、笑わせる力で前へ進んでいる。
笑美の夢は、ここから始まった。
小さなスタジオ。
新快速電車と普通列車のぼやき。
その爆笑の中で、未来のお笑い芸人・板山笑美の最初の一歩が刻まれた。




