輝いていた頃
輝いていた頃
仕事帰り。
桃は駅のベンチに座っていた。
腕は重い。
足は痛い。
日焼け止めを塗っても焼けた肌が、ひりひりする。
スマホには、高校の同窓会の通知。
会費を見て、桃は画面を閉じた。
「行けるわけないやん……」
小さく呟く。
*
ふと、思い出す。
高校時代。
体育館の匂い。
バッシュが床を擦る音。
仲間の声。
「桃、打て!」
ボールを受け取る。
ディフェンスの手が伸びる。
それでも、迷わず跳ぶ。
スリーポイントラインの外。
指先から離れたボールが、綺麗な弧を描く。
リングに吸い込まれる。
ネットが揺れる。
体育館が沸く。
「よっしゃあ!」
あの瞬間。
桃は確かに輝いていた。
*
みんなでワイワイ騒いだ放課後。
試合に勝って泣いた日。
負けて悔しくて、誰より遅くまでシュート練習をした日。
仲間と笑い合った帰り道。
あの頃の自分は、まっすぐだった。
少なくとも、誰かの家庭を壊して平気でいられるような人間ではなかったはずだった。
*
「どこで間違えたんやろ……」
桃は膝の上で手を握った。
「何を間違えて、こうなったんやろ……」
答えは、急には出ない。
けれど、逃げてはいけないことだけは分かっていた。
一之介が悪かった。
そう言えば少しは楽になる。
でも、それだけではない。
妻子がいると知っていた。
それでも続けた。
文子を軽く見た。
笑美の存在まで邪魔者のように扱った。
*
桃は、スマホの黒い画面に映る自分を見た。
疲れた顔。
荒れた手。
焼けた肌。
昔の自分とは違う。
でも、あの頃の輝きが消えた理由を、全部誰かのせいにはできない。
「私が、選んだんや……」
その言葉は痛かった。
でも、初めて本当の言葉だった。
*
電車がホームに入ってくる。
桃は立ち上がった。
高校時代には戻れない。
スリーポイントを決めた瞬間にも戻れない。
けれど、これからの一投をどう打つかは、自分で決めるしかない。
桃は小さく呟いた。
「逃げんとこ……」
誰かに聞かせるためではない。
昔、リングに向かって何百本もシュートを打った自分に向けて。
もう一度、責任という重いボールを持ち上げるための言葉だった。




