笑美、幼稚園デビュー
第○話
笑美、幼稚園デビュー!
春。
笑美は新しい制服に身を包み、幼稚園へ通い始めた。
最初は少し緊張していた。
文子の手をぎゅっと握り、小さな声で言う。
「お母さん……」
「大丈夫。」
文子はしゃがみ、目線を合わせる。
「笑美なら、お友達きっとできるよ。」
笑美はこくりとうなずき、教室へ入っていった。
*
それから数週間。
笑美はすっかり園に慣れていた。
歌を歌い、お絵描きをし、鬼ごっこをして遊ぶ。
そして先生が気づいた。
「笑美ちゃん、お話が上手ね。」
笑美は少し照れながら笑う。
「えへへ。」
*
ある日の自由遊び。
笑美が教室の真ん中へ出てきた。
両手をパンパンと叩く。
「はいはい、じゅんばん!」
子どもたちが集まってくる。
「なあに?」
「なにするの?」
笑美は胸を張った。
「わたしの、ばくしょうギャグコント見たい人〜!」
「はーーい!!」
教室中の手が一斉に上がる。
先生も興味津々で後ろから見守る。
*
笑美は両手を前に出し、小さく丸くなる。
「わたし、畑の中で育ってるじゃがいもです。」
子どもたちが笑う。
「ある日ね。」
「ふかふかの土のお布団で気持ちよく寝てたら……」
急に体をビクッとさせる。
「うわぁぁぁぁ!」
「引っこ抜かれましたぁ!」
教室から、
「アハハハ!」
笑い声が上がる。
*
「なんでやねーん!」
笑美は一人でツッコミまで入れる。
「と思ったら。」
今度はゴシゴシ体をこする真似。
「つめたーいお水で思いっきりゴシゴシ洗われました!」
さらに両手で顔を覆う。
「今度は皮までむかれました!」
園児たちはもう笑いっぱなし。
*
笑美は両手を包丁に見立てる。
「包丁さんで。」
「トントントントントン!」
体を左右に揺らしながら、
「細かく切られましたぁ!」
「えぇぇぇ!」
子どもたちは大笑い。
*
そして床にしゃがみ込む。
「ほんで今度は……」
両手を大きく広げる。
「お鍋の中へ、ぽちゃん!」
勢いよく飛び上がる。
「うわぁぁぁ!」
「熱いねーん!」
さらに続ける。
「お醤油さん!」
「お砂糖さん!」
「みりんさん!」
「お酒さん!」
両手をバタバタさせながら、
「しみるやーん!」
「なんでやねーん!」
*
教室は大爆笑。
「アハハハハ!」
「じゃがいもしゃべったー!」
「もう一回!」
「おもしろーい!」
*
担任の先生も笑いをこらえきれなかった。
「ふふっ……」
そしてついに、
「あはははは!」
お腹を押さえながら椅子に座り込む。
「あいたたた……」
「笑いすぎて、お腹が痛い……!」
保育補助の先生まで笑っている。
「笑美ちゃん、それどこで覚えたの?」
*
笑美は得意そうに胸を張る。
「お母さんと、おうちでいっぱい笑うから!」
「あとね!」
「じゃがいもさんも、おいしくなってよかったって思ってる!」
一瞬、教室が静かになる。
そして先生が優しく言った。
「そうだね。」
「じゃがいもさんは、おいしい肉じゃがになって、みんなを笑顔にしてくれるんだね。」
笑美は満面の笑みでうなずく。
「うん!」
*
その日の帰り。
担任の先生は文子に笑いながら報告した。
「笑美ちゃん、大人気ですよ。」
「今日は『じゃがいもの気持ち』で教室中が笑いっぱなしでした。」
「私まで笑いすぎて、お腹が痛くなりました。」
文子は少し照れながら笑う。
「家でも、毎日こんな感じなんです。」
先生も笑って言う。
「笑美ちゃん、本当に人を笑顔にする力がありますね。」
文子は娘を見つめた。
笑美。
その名前に込めた願い。
「笑いの絶えない、笑顔が素敵な、美しい心を持った子になってほしい。」
その願いは、少しずつ、確かに育ち始めていた。




