↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈黙の琵琶湖2 ― 涙の向こうに咲く笑顔 ―  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/34

向き合う責任



向き合う責任


 レンタルルームには、重い沈黙が流れていた。


 文子は一之介と桃を交互に見た。


 そして、ゆっくり口を開く。


「ここから先は、大事な確認をします。」


 弁護士も静かに頷いた。


「事実関係の確認です。落ち着いて、一つずつ答えてください。」


     *


 文子は桃を見つめた。


「まず、お聞きします。」


「あなたと一之介さんは、恋愛関係にありましたか。」


 桃は俯いたまま、小さく息を吐く。


「……。」


 返事がない。


 文子は感情を抑えながら続けた。


「答えてください。」


 桃は震える声で答えた。


「……はい。」


     *


 弁護士が淡々と確認する。


「その関係は、およそ一年ほど続いていたという理解でよろしいですか。」


 桃は小さく頷いた。


「……はい。」


 弁護士は記録係へ向かって言う。


「今の回答を記録してください。」


     *


 次に文子は、一之介へ向き直る。


「あんたも、それで間違いない?」


 一之介はしばらく黙っていた。


 しかし、ここまで来て否定はできなかった。


「……。」


「答えて。」


「……そうや。」


     *


 文子は一度目を閉じた。


 深呼吸をする。


 そして、もう一つ尋ねた。


「この関係を始めたきっかけは何やったん?」


 桃は困ったように一之介を見る。


 文子は静かに言う。


「一之介さんを見ないで。」


「あなた自身の言葉で答えてください。」


     *


 桃は唇を噛んだ。


「最初は……仕事の相談でした。」


「仕事帰りに話すようになって……。」


「それで……。」


 言葉が止まる。


 弁護士が補足する。


「どちらから交際を持ちかけたか、覚えていますか。」


 桃は首を振る。


「……私、よく分からなくて……。」


     *


 文子は静かだった。


 しかし、その声には強さがあった。


「『分からない』では済まされないことですよね。」


 桃は俯く。


「あなたも大人です。」


「自分で選んで行動したことには、向き合わないといけません。」


     *


 今度は、一之介へ向き直る。


「一之介。」


「……。」


「あんた、この人と交際するんやったら。」


 一呼吸置く。


「なんで私と別れてからにせんかったん?」


 一之介は黙る。


「順番、間違ってるよね。」


「……。」


「私と笑美がおる家庭があるのに、そのまま別の人と関係を続けた。」


「それで家では怒鳴って、笑美を叩いて。」


 文子は涙をこらえながら言った。


「なんで?」


「答えて。」


     *


 一之介は視線を落とした。


 今までのように怒鳴れば終わる空気ではない。


 部屋には弁護士もいる。


 立会人もいる。


 記録も残っている。


 長い沈黙のあと、一之介は小さく言った。


「……離婚するつもりは、その時はなかった。」


 文子は静かに問い返す。


「じゃあ、私は何やったん?」


 一之介は答えられない。


「笑美は?」


 さらに沈黙。


「家庭は続けたまま、外でも別の関係を続ける。」


「その結果、誰が傷つくか考えたことあった?」


     *


 桃も目に涙を浮かべていた。


 文子は責め立てる口調ではなく、静かに言った。


「これは、私だけの問題じゃない。」


「四歳の笑美も巻き込まれた。」


「だから今日は、誰が悪いかを怒鳴り合うためじゃなくて、自分たちがしたことに向き合ってもらうために来てもらいました。」


 部屋には、再び静かな空気が流れた。


 その静けさの中で、一之介も桃も、自分たちの行動から目を背けることはできなくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。