練習試合デビューのお弁当
「よろしくお願いします!!」
両校整列からの挨拶、練習試合が始まる。
フルタイムではなく前後半四十分ロスタイム無し、交代制限無しだ。
「タケル、お前を軸に浅めで繋いでみろ、カウンターチャンスはハヤト狙っていけ」
轟監督の大まかな作戦を頭に入れていく、ミーティングが終わり三年部長の須藤タケルがハヤトを掴む。
「うむ、コンディションは良いみたいだなハヤト」
「はい!」
「はは、作戦通りなら最後はハヤトに任すぞ」
「頑張ります!」
部長のタケルはその後もレギュラーとベンチ入りメンバーに声を掛けていく。
まるで緊張をほぐすようなそれでいて一人一人のコンディションを見定めるような動きを不思議に感じた。
「部長……凄いな皆を見てる」
ハヤトは純粋に感動した、自分のマイペースな性格ではとても真似出来ない事だ。
「始まるぞ!さあ、行くぜ!」
部長タケルの声にレギュラーは立ち上がる、僅かに遅れてハヤトも立ち上がり先輩達に頭をぽんぽんされていった。
唯一の一年生レギュラーであり初めての他校戦、先輩達の物言わぬ激励なのだろうか、学校での練習中は嫉妬や対抗心を隠す気が無いオーラが出まくりなのだが共に戦う今は違う。
(先輩達ってやっぱ経験違うな〜……っし頑張るぞ!)
くるっと振り返りベンチのマサルにピースをする。
「なんだアイツ?煽ってんのか?」
マイペースなハヤトの行動は理解されにくい、「頑張ってくるぜ!」の意気込みを示したのだがマサルは理解できてなかった。
そんなすれ違いもありながらグラウンドに散っていく、ハヤトはセンターフォワードとしてグラウンドの中央付近に立つ。
(風気持ち良いな〜あれ?スッゴイ見られてる?今ボール持ってないよ?)
相手チームは古豪と称されるチームで正直格下になる、しかしながら古豪の意地を持ち格下が格上に勝利するジャイアントキリングと呼ばれる現象を多々起こしてきたサッカー部だ。
ピィッ〜っと始まりの笛が鳴る!
陽先ハヤト私立天神高等学校サッカー部一年レギュラー、デビューの時だった。
——ピッピッピィー!
前半後半ロスタイム無し、合わせて八十分の変則ルールだが試合は終わった。
6-0の圧勝で天神高校サッカー部が練習試合勝利を上げた、ハヤトはハットトリックを前半で達成して後半はマサルと交代になった。
「ありがとうございました!!」
両校揃って挨拶を交わし握手していく、そんな中で相手チームのキャプテンがハヤトに声を掛けてきた。
「陽先……完敗だ、テクニックや判断だけじゃ無い楽しみ方が凄いよ」
「あ、ありがとうございます!」
決して弱いチームでは無かった、結果は大量得点に見えるが今回デビューしたハヤトの情報と現実のブレが大きくて混乱させただけなのだ、対策されたらこうはいかないだろう。
「皆、もう一度一礼してから次行くぞ」
轟監督は部員を整列させ練習試合をしてくれた相手とグラウンドに一礼をした。
「さあ、乗れ」
すぐに次の対戦相手の学校へ向かう、今日は試合漬けなのだ。
「いやー勝ったな〜」
「部長のコントロール効いてたもんなー」
「お前ら、特に試合出た組はストレッチしろよ〜」
バスの中は一試合目の感想と次の準備で騒つく。
「今のうちに飯食っとけよ〜」
部長のタケルが全体に支持する、もう昼食の時間だ。
バス内での昼食が始まる、予定ではコンビニおにぎりだったがハヤトにはアンナから渡された弁当が有りウキウキな気分だった。
開けてみればどれも美味そうに色とりどりに姿を見せる、アンナ作のおにぎりはハヤトには少しだけ小さい頑張ってアンナなりに大きく作ってくれてるのだろうが手が女性の手、こればかりは仕方ない反面何故か嬉しかった。
「ハヤトなんでニヤニヤしてんだ気持ち悪い」
マサルから突っ込まれ弁当を見られる。
「なんか一杯気合い入ってそうな弁当じゃん、これが親戚のお姉さんの?」
正確には血の繋がりもないお隣の未亡人のお姉さんのだが、そこは「親戚のお姉さん」で部員に通しているので「そうだよ」と言っておく。
「ふーん、なんか色々入ってるけどタンパク質多めで考えられてるよなその弁当、羨ましいぜ」
そうなんだ?とハヤトはマサルに言われて認識する。
朝早くから自分と自分の体の為にアンナは弁当を作ってくれたのだ、足を向けて寝られない。
そんな事を思いながらおにぎりを頬張った。




