曇る心
「よろしくお願いします!」
天神高校サッカー部遠征練習試合の本日二校目との挨拶を交わし監督の下ミーティングが始まる、ハヤトは一試合目はスタメンであったが……
「二戦目はマサルからいくぞ」
「えっ?」
マサルは鳩が豆鉄砲を食ったような顔してポカンとしていた。
一戦目の前半ハットトリックを見せたハヤトの方が自他共にポテンシャルの差がある、しかし轟監督の一声で一年生二人目のスタメンデビューが生まれた。
「おーやったなマサル、頑張れよ!」
ハヤトはマサルへといつものように声を掛けるが反応が乏しい。
どうしたのかと首を傾げてると部長のタケルより説明された。
「ハッハッハ!まさかのスタメンで頭が真っ白になったな、マサルはハヤトみたいにマイペースな奴じゃないからなプレッシャーを感じてるんだろ、だが練習試合とは言えインターハイに向けた選考もある……お前達も気合い入れていけよ!」
タケルは笑いつつ部員も巻き込み鼓舞する、そしてマサルはまだ上の空だった。
「おーいマサル」
ペシペシと頬を叩いてようやく現世に戻ってきたマサルは小刻みに震える。
「どうした?寒いのか?」
「違うよ馬鹿やろう、武者震いだよ!……俺が、スタメン……」
マサルの震えは喜びから来ているようで安心したハヤトは言った。
「別に不思議じゃないんだけどな、マサルはセンスあるし練習してきたし」
ありのままを呟くハヤトにマサルは驚きの表情だ。
「そ、そんなセンスの塊のお前に言われても……」
「俺は楽しいからサッカーやってるけどマサルはサッカーに賭けてるじゃん?当然だと思うぞ?」
「ハヤト……ぷっ!はは!お前は本当に変なマイペースな奴だな!スタメン取られたって言うのに!」
「試合に勝てるなら俺はベンチ外でも良いぞ?」
「本当に競争心が無い奴だな……でも焦る時が来るように俺は頑張るからな」
「おー、今回はベンチで控えておくから頑張れよ」
一年生コンビのやり取りを部員は笑いながら見守る、部長のタケルは頷き轟監督は腕を組みながら目を細め二人を見ていた。
——試合開始前の円陣。
部長タケルは「勝ちに行くぞ」と一声だけ、全員の発声が響いてグラウンドに選手が散っていく。
今回はベンチからのハヤトは全体を見渡し最後に中央部センターフォワードに付いたマサルを見て思う。
(気負わずに暴れてやれマサル)
ハヤトとマサルは同じ学年同じクラス同じサッカー部……そして同じポジションだ。
周りからは日々マサルに同情が集まっていたのをハヤトも感じていた、「不遇の二番手」と誰かが言い出した。
ハヤトがサッカーで規格外のセンスを見せるごとにマサルは埋もれていく、自分がマイペースすぎるからいつもマサルにはお世話をされてるような学校生活もあって気にはしていた。
誰よりも練習に真摯に向き合うマサルが報われない訳が無い、ハヤトは信じている。
ホイッスルが鳴り響く、試合が始まる。
蹴り出されたボールを目で追った。
「ありがとうございました!!」
部員一同整列し挨拶を行う、各々軽く話しながらバスに乗り込む。
ハヤトは静かに座席に座る、横には項垂れるマサルが居た。
試合は3-0で勝利をした、得点者は「ハヤト」後半二十分で叩き出した偉業であった。
ハヤトはマサルに声が掛けられなかった、何度かチャンスはあったが空回りしたのかモノに出来ず一人チームとして歯車がズレていた前半を折り返し、後半二十分経つ時にハヤトとの交代を命じられた。
チームは勝利に湧く中ハヤトもマサルも言葉が出ないまま帰路に着いた。
「本日の遠征試合での課題を各々考えるように」
天神高校に帰り轟監督の号令で解散となる。
手応えのあった者、悔しさを味わった者、次のチャンスを狙う者と様々別れて寮に帰っていく。
ハヤトも帰宅の為に荷物を持った所で轟監督から呼び止められた。
「ハヤト、マサルは気にするな」
「えっ」
「今日の結果が全てだ、インターハイまでにお前は仕上げておけ」
「……はい」
釈然としない気持ちを抱きながら校門を出る、唯一の一人暮らしハヤト。
「……帰ろう」
二試合でハットトリックを二回も達成し、勝利を得たのに心は曇っていた。




