君は何が好き?
「今日のお買い物どうしようかしらね〜」
アンナは悩んでいた、三ヶ月近くハヤトの夕食を見てきて気付いたのだ。
何でも食べれるタイプの子だと。
人によっては辛いや酸っぱいが苦手な人も居る、しかしハヤトはこれまで「美味しい」は何度も口にするが「苦手」を示した事がない。
「あのぐらいのスポーツ高校生って何でもイケる口なのかしら?」
アンナはむしろハヤトの食の苦手を知りたい気持ちが芽生えてきていた、心の中ではそんな試すような事はイケナイと分かっているのだが三ヶ月パーフェクトに食べる姿にイタズラ心も芽生えてくる。
「そう言えば貴方もそのタイプだったわね」
アンナは遺影に向かい笑う、結婚して間もない頃から出された物に「苦手」を言った事がなかったし記憶に無い。
「男ってそうなのかしらね?あ、買い出しに行かないと」
アンナはエコバッグを持ちスーパーに向かった。
夏の照りつける日差しはキツイが、アンナにとってはこの買い出しの献立を考えて食材を選ぶ楽しみがある。
ハヤトに会って忘れていた気持ちを思い出したのだ。
「ん〜夏野菜の天ぷら……カレー……そうめん」
季節は夏だが近年のスーパーには大抵の物がある、そこまでこだわれるまで気持ちは癒えてきたのか悩む事が多くなった。
(三ヶ月前には無気力で作るだけしか考えて無かったわね……)
最近はアンナ自身見つめ直せている、夫を亡くして二年以上経ち歳も来年には三十を迎える。
「あーあ、歳は取りたくない……」
節目の歳になるのもあり凹んだり張り切ったり忙しくしていた。
「そう言えばハヤト君の好きな物もよく分かってないわ」
何でも美味しいで済ます、微妙に好物だな?と分かりやすい味わい方をする事もあるけど突き抜けて「好きだ」と言った事も無い。
「あの子マイペースだからなぁ、でも優しいが溢れてる良い子なのよね」
ハヤトの事を思い浮かべながらスーパーを歩き見ていく、いつからか人の為に料理がまた出来るようになった。
ハヤトに感謝をしている、そんな感謝の気持ちを表したくなった時だった。
「こ、これは……!」
アンナの目の前に今日の特売品が並んでいた。
——夜。
「さて、そろそろね……」
おもむろに立ち上がりアンナはキッチンに立つ、あらかじめ下準備はしてある。
後は料理の完成の為に、動画を見たりイメージトレーニングをした。
時刻は午後八時を過ぎた所、十五分くらいでハヤトが帰るだろうそれに合わせてスタートする。
「コレはお子様っぽくて作ってなかったからね〜あの子の食べる量に合わせて四倍大きいけど上手くいくかしら……」
若干の不安を抱きながらチキンライスをひたすら炒める、一人分ならまだしも四倍量となると別の物を作ってる気分になる。
「コレをこうして成形して……よし土台完成」
次はメインと呼ぶべき卵だ、この卵が特売品であったから今日のメニューが決まった。
フライパンにしっかり油を馴染ませしっかり熱くしていく、そこに一気に溶いた卵八個分を流し入れる。
さすがの量だ、だが卵液が多い分やりやすい。
ピンポーン
「あ、帰ってきたわね」
一瞬離れドアを開ける。
「おかえり!ちょっと立て込んでるから座って待ってて!」
「は、はい?」
ハヤトは食卓に座らせておきアンナは卵を焼き進める。
フライパンを傾けたりしながら菜箸で端から中へ中へとたたみ、仕上げはフライパンを煽りながら特大のオムレツにしていく。
「ふふ、ちょっと身体離しててね〜」
「?」
ハヤトは少し机から離れた、食卓にドンと置かれた特大チキンライスの上にアンナは慎重に特大オムレツを乗せる……
「お、おお……」
ハヤトが思わず前のめりになるぐらいにインパクトがあった。
「まだよまだよ〜……えい!」
アンナは包丁でオムレツに筋を入れて左右に開けた!
黄金の半熟加減が美しい、特大のオムライスが目の前に鎮座する。
後はケチャップで絵を描いたりしてみて完成となる。
「す、凄いっすアンナさん!」
見るからに興奮しているハヤトを見てアンナは笑ってしまった。
「今までに無い反応ね、まだ食べてないのに。さあ召し上がれ!」
ハヤトはスプーンを持ち「いただきます」と言い一口食べる。
「う、美味い……」
「あはは!良かった〜卵失敗したらどうしようかと思ったもの」
「好きです」
「え?」
「オムライス、俺一番好きなんです」
「あ、え?そうだったの?」
「こんな……こんなトロトロ半熟の特大オムライスが食べれるなんて……アンナさんありがとうございます!」
思わぬところで好きなものが知れてアンナはまた笑う。
「やっぱり子供っぼいですかね?」
「いやいや違うのよ、ハヤト君の好き嫌いは何だろうなって一日考えてたからついね」
その日はハヤトのご機嫌が一回り大きなモノに見えて、アンナは心の底から笑った日になった。




