変わらない夜
人工芝のサッカー部グラウンド、スポーツ強豪校たる待遇。
全国からスカウトされた部員、高校生で親元を離れた子は学校管理の寮にて生活をしサッカー漬けの毎日を送る。
この年の一年生で一人例外が居た。
「おいハヤトマジで急げってー!」
陽先ハヤトはとってもマイペースなのんびりやだった、今日も授業が終わった後にのんびりしてるものだから同じクラス同じサッカー部の友に急かされている。
「マサルはせっかちだな〜」
「お前がのんびりしすぎなんだよ!なんだってそんなに片付け遅いんだよ!急げ!」
大海マサル、一年サッカー部ハヤトのお世話係みたいなポジションに任命されてしまい毎日がバタバタだ。
「ありがとうなマサル」
「お礼じゃなく急げって言ってるの!部活始まるって!」
今日も今日とてハヤトはマイペースだった。
なんとか部活始まりまでに準備を済ませたが、練習はこれからなのだ。
天神高校は全国クラスの強豪校、練習の質も量も中学とは変わってくる。
春に入学と同時に入部した一年生は夏まで体作りの期間とされ、ボールを触る練習が始まる時が競争の本番となる。
天神高校サッカー部のレギュラー争いに学年の壁は無い、適性があり強ければレギュラーになれる。
今日この日は一年生のボール解禁日であった。
「うう、緊張するな……ってハヤトはいつも通りだな……」
「え〜ワクワクしてるよ」
マサルの震えはハヤトの屈託のない笑顔で止まった、純粋に心からサッカーが好きと言う感情が溢れていた。
「一年集まれ!」
一年生担当コーチの号令に集合していく。
「今日からボール練習解禁だ、まずはドリブルから見ていくぞ」
「ハイ!」
カラーコーンを並べて練習が始まる、単純なジグザグドリブルだが既にレギュラー選定が始まっている。
「次!」
ハヤトの番が来た、一年生達は皆初めてお互いのボール捌きを見る日だ。
ハヤトの前評判しか知らなかった「ジュニアユース日本代表」としか。
動き出しから身体の使い方にオーラが違った。
「すげぇ……あれが本当にハヤトなのかよ……」
マサルは目を奪われた、基礎的なボールタッチだけで格が違うと分からされた。
普段は教室でのんびりぼんやりしているハヤトの世話を焼くマサルだったが、目の前のハヤトは鋭く速くそして自由に……誰よりも楽しそうにしていた。
——「では、今日は解散!」
時刻はいつもの時間、午後八時。
部員は皆ヘロヘロになりながら寮に帰っていく、これから夕食と入浴そして僅かな自由時間を楽しむ。
一人だけ荷物を背負って部員に向かい「お疲れ様でした!」と言い校門から出ていく者を除いて。
ハヤトだけ近くのアパート一人暮らしだった。
「アイツなんで寮じゃないんだ?」
「ああ、ハヤトだろ?なんでも手続き書類〆切忘れてたらしいぜ」
「ははは!ハヤトらしいな!」
部員達の共通認識は「のんびりマイペースすぎるハヤト」で統一されていた。
ハヤト本人は全く気にしてない様子だが、誰もが今日の練習で認識を改めた。
間違い無くレギュラーに食い込む天才だと。
——ハヤトの住むアパート。
一階角部屋がハヤトの部屋だ、ドアを開け荷物を置き手洗いを済ます。
そして、隣の部屋のインターホンを鳴らす。
これが毎日のルーティンだった。
「あ、お帰りなさい」
「ただ今です、アンナさん」
もう三ヶ月になる、奇妙な関係。
アンナはハヤトの為に毎日食事を作って待っててくれる、赤の他人であるハヤトの為に。
ハヤトも何故こうなったかは忘れかけているが、アンナの部屋で見る旦那さんの遺影と位牌に手を合わせ毎日思い出す。
(なんか、アンナさんが寂しそうだから)
ハヤト自身感情がよく分からないが、放って置けなかった。
かと言って何が出来ると言う事もない。
ただただ用意された食事を頂き、たわいない話に花を咲かす夜。
それでアンナが笑ってくれて寂しさが紛れてるならば、それで良いとハヤトは思っている。
「ハヤト君今日はご機嫌ね?」
「え?そうすか?」
「うん、なんかこう良い事あったーって感じ」
「うーん……あ、ボール練習だったからかな」
「あら?確かもうすぐとは言ってたけど今日だったのね、やっぱりボールあると楽しい?」
「はい!」
「うふふ、良い笑顔」
毎日のこの時間が楽しいのはアンナだけでは無く、自分が好きな時間なんだろうな。
ハヤトは更に微笑み美味しい料理を平らげていった。




