ハヤトくん
私立天神高等学校サッカー部。
スポーツに特化する全国レベルのスポーツ強豪校である中、更に抜け出ていたサッカー部はほぼスカウトでの入部しか無かった。
全国大会優勝こそは手にしていないが上位入賞常連として悲願の優勝旗を今年こそはと狙い、例年よりも厳しく強くレギュラー争いは学年の壁無く奪い取る事が求められる世界だった。
陽先ハヤトはこの春に天神高校に入学しサッカー部に入った。
正解には去年から声が掛かっておりサッカー部の入部が入学条件のスポーツ特待生だ。
ハヤトはジュニアユースにも選出されており期待度が最も高い目玉選手であった。
そんなハヤトだが皆が驚くほどにのんびりやであった。
「ハヤト!いい加減放課後になったら部室に急げって!」
クラスメイトで共にサッカー部の友、大海マサルに掴まれ走る。
「マサルはいつも助けてくれるな」
「お前がのんびりしすぎなんだよ!」
マサルはぷりぷり怒るがハヤトには響く様子が無い。
「ったく、ジュニアユースのエースがこんなにマイペースな奴だし同じクラスだからって俺が世話係だし!」
「いつもありがとうな」
「やかましい!早く!部活遅れる!」
入学して一ヶ月、周囲にはお馴染みの光景として仲の良いサッカー部の二人として認識されていた。
部室に着けば先輩達も居るのでハヤトのマイペースさも薄まる、団体行動は出来るのだ。
「ハヤトはなぁ……一人にすると危ないから皆で見るように」
監督がここ最近で出した部員への指示だった。
「サッカーセンスは天才なんだがな、面白い奴だ」
強豪天神高校サッカー部三年部長、須藤タケルは笑いながら素質は認めてくれていた。
朝一番の練習後、授業を終え更に練習が夜まで続く。
ハヤト達入学したての一年は夏の大会近くまでは怪我をしないように基礎練習中心の練習をこなしていく。
「来月にはやっとボール使えるな」
ハヤトはひたすら走り込みと筋トレに打ち込みながら呟く。
午後八時、何事もなければその日は解散だ。
授業終わりからひたすら身体だけを動かしてヘロヘロにはなる。
「ハヤト!車と段差に気を付けてな!」
「変な人に付いていくなよ!」
部員達に散々注意と心配されてハヤトの一日が終わる……
ハヤトだけが学校を出る、他の皆は寮に住んでいる中ハヤトだけは近くのアパートに一人で住んでいるのだ。
学校を出ていつもの道を真っ直ぐに、見えてきたコンビニを曲がり五分進めば家だ。
一階の角部屋がハヤトの部屋……だが、その隣の部屋のインターホンを鳴らす。
「おかえりなさい」
「ただいまです」
出迎えてくれたのは優しさに満ち溢れたお姉さん。
美月アンナ、お隣に住む未亡人だ。
入学して間もない頃に庭先でボールタッチしてるところを誘われて以来、夕飯を作って待ってくれている。
何故毎日そんな大変な事をしてくれるのか、ハヤトにはわからなかった。
ただ、旦那さんの位牌を見て、誤って二人分の食事が並んでるテーブルを見た時に何故だか断る事は考えられなかった。
「今日もしっかり動いたみたいね〜ほらお腹空いたでしょ!」
アンナは夫を亡くしたのが嘘のように明るく振る舞う。
ハヤトはそんなアンナをじっと見ていた。
「今日は大きなハンバーグよ〜」
「おっ!おお!」
ハヤトの目が輝く、普段のんびりマイペースなハヤトだが二つだけ心の揺れが見える時がある。
一つはサッカーをしている時。
そしてもう一つは食事……アンナが用意する食事に対して興味を示す。
「あはは!良い反応だね、じゃあ食べよう」
「ウス!頂きます!」
食べる量は食べ盛り高校生にスポーツ選手のコンボ、アンナとの関係が始まり出した頃は用意する量に試行錯誤だったようだが、一ヶ月近く経ち量感を掴まれたようでハヤトの一日の内で一番好きな時間ですらあった。
もちろん食費は払っている、いくらマイペースなハヤトでも両親への報告はしている。
県外の為、すぐに両親が挨拶には来れないが食費の送金は早い段階でされていた。
「なんか多い気もするんだけど……」
「俺は親から送られる額をアンナさんに渡すだけです」
あまり細かな事は分からない、頭の中はサッカーと晩御飯で一杯なのだ。
「もう、サッカーも大事だけど一般常識位は勉強しないとダメよ?」
可愛らしくも色気ある顔に迫られてハヤトは顔が赤くなる。
(なんだろ……クラスの女子に迫られるのと違う……)
感情の答えが出ないまま「はい」としか言えなかった。
陽先ハヤト、まだルーキーイヤーが始まったばかりであった。




