気になるハヤト君
夏になり思い出す。
アンナは夫を亡くした夏が嫌いだった、季節のせいで亡くなった訳じゃないが思い出してしまう暑さとセミの声、二年前突然に訪れた訃報が今でも半分信じられないのが正直なところだった。
「もうすぐ命日なんだね……二年か、まだ整理が付かないけど最近楽しいの」
夫の遺影に語りかけるアンナは最近の事を思いながら独白していく。
「お隣さんのサッカー少年がどんどん大人になってるように見えてね、でも子供らしい一面を含んでいて活力を与えてくれるのよ」
部屋に静かに響く声だけがBGMのように流れていく、アンナは塞ぎ込んでいた頃から遺影に話しかけていたからか癖みたいになっていた、それが心を縛る行為だったとしても。
しかし最近出会ったハヤトの為に、夕食用意や会話の事を言葉にするとアンナの心の縛りが緩む気がしていた。
「私、まだ前向けるかな?」
遺影は答えなかった、アンナはクスリと笑い買い物の為に家を出た。
「ひ〜暑いわね……今日は見えるかな……」
アンナはスーパーを遠回りルートで道を外れていく、お目当ては私立天神高等学校のサッカー部練習風景、実はちょこちょことアンナはハヤトを見に覗きに来ている。
(もうオバさんが何やってるんだろうね)
そうは思いながらも何だかやめられない趣味みたいなものになっている、せいぜい学校の外からフェンス越しにざっくりと眺める程度なのだがハヤトが見れると得した気分になるのだ。
サッカーの事は詳しくは知らない、ただサッカーを楽しむハヤトの姿が見たかった。
今日はミニゲーム式の練習なのだろうか、確か大きな大会が近いと聞いている。
「ハヤト!」
その名前にボールを目で追う、ボールが行き着く先にハヤトが居た。
(わっ!早い!ああっぶつかる!……わっすり抜けた!)
技術的な事は全くわからないままだが、ハヤトの動きは素人目にも一つ頭抜けている。
ハヤトはそのままゴールを決めて元の守備位置に戻り次のゲームがスタートする。
「若さよねぇ……頑張ってねハヤト君」
満足したアンナは今度こそスーパーに向かう、あんなに暑い中動き回ってるのだから今日は辛い系が良いか涼しげな物なんか良いかと献立を思い浮かべながら。
ひとしきり選別された食材を持ちウキウキしながら帰る、家に入る前にポストの中をチェックしアンナは「あら?」と可愛らしくも品のあるデザインの封筒を手に取った。
——夜。
時刻は八時、そろそろ帰る頃かなと時計を見てるとスマホがメッセージを着信する。
「あら?……ふふ、一年生は大変だなぁ了解っと」
ハヤトからのメッセージは「寮掃除をしてから帰るので遅くなりますすいません」だった。
アンナは運動系部活の経験は無いがイメージとしては年功序列の一年は雑用するイメージはある、もちろん強弱はあるだろうが。
「でも男の子はなんだかんだ素直にやるイメージよね」
勝手なイメージ付けである。
「ふふ、そういえばあなたとは正反対なスポーツマンだわ、でも不思議なのよねどこかあなたと似てるの」
遺影に向かい優しく語りかける、亡き夫とハヤトは年齢も性格も違うのにどこか似たようなところがある。
そんな事を思っていたらインターホンが鳴った。
「ごめんなさい遅くなりました」
「良いのよお疲れ様!さあ入って入って」
帰宅したハヤトを迎えてあげる、お腹も空いてるだろうと手早く温める物は温める。
チラッとハヤトを見るともはやルーティンになった、亡き夫への手合わせをしてから席に着く流れ。
マイペースだがこう言う事を当たり前に行える教えを受けてきてるのだろう、最近の子にすれば珍しいかもしれない。
「ありがとうね」
「へ?」
思わず漏れた感謝の言葉にハヤトはキョトンとしている、戸惑わせるつもりはなかったが面白くもあったので真意は教えないまま料理をセットする。
「はい、今日もお疲れ様!」
「あ、はい?そ、それじゃあ頂きます」
そこからはハヤトの舞台だ、あっという間に食べすすめていくけど食べ方は綺麗な所作で見惚れてしまうくらいだ。
(やっぱり育ちが良いのよねハヤト君)
ジッと見つめてるとハヤトは居心地悪そうに「ど、どうしたんですかアンナさん?」と聞いてくる。
それがまた面白い。
「あはは、ごめんごめん何でもないの……あ!そうだ有ったわコレを見て欲しいんだけど……」
パッと思い出してハヤトに封筒を見せる、綺麗な字で差出人の名前が「陽先文香」と書かれていた。
ハヤトは目を丸くして箸を止め封筒に釘付けになりながら言った。
「母さんです、え?なんで?」
「お手紙下さったのは間違い無いわね、まだ封を切ってないのだけど今から読ませて貰うね」
アンナは綺麗に封筒を開封して中の便箋を取り出す、そして内容を黙読していった……




