ハヤト君は凄い
——ハヤトの練習試合当日。
朝早い時間だったがアンナはお弁当を作り出した、ハヤトの練習試合は一日に二回も行うらしいのでしっかりとエネルギー補充にタンパク質も摂れるメニューで。
ガチャガチャとお隣から音がする、いつも早い時間に出ているが今日は一段と早く、用意が間に合って良かった。
こちらも玄関を開けてハヤトを呼び止める、渡したお弁当に感動して震えてるのが分かり思わず笑ってしまう。
作り手冥利に尽きる、ハヤトを見送ってアンナは家に戻った。
陽が昇りきってアンナは今日の買い出しに向かう、ハヤトが活躍してる事を願いながら献立を考える。
「今日が高校生レギュラーデビューだもんね、お祝いっぽくしようっと」
ハヤトは一年生ながらサッカー部レギュラーに抜擢された、本人はあのマイペースな感じで嬉しさを爆発みたいな事はしていないのだがお祝いはしてあげたい。
「今朝のお弁当渡した時の方が嬉しそうだったわね、本当に……変な子ね」
アンナは思い出し笑いをしてしまう。
レギュラーよりもお弁当のほうが良いハヤトのマイペースでのんびりな性格が面白い。
アンナは鼻歌を交えながらスーパーの食材を選んでいった。
帰宅して一息してから様々な食材を相手に料理を始めていく。
大好物と言ったオムライスは入れて、お肉メニューが多くなるのでバランスよく野菜を織り交ぜて。
この考えながら作る作業の楽しみを思い出させてくれたハヤトに感謝をしている、アンナは時間も忘れて作りたい物を作り上げていった。
一通りの作業が終わり仕上げるだけとなったところで時間は夜七時、今日は試合だから早く帰ってくると聞いていた。
ピンポン
そうこうする内にインターホンが鳴る、ハヤトが帰ったようだ。
ドアを開け見た顔はどこか暗い、試合に活躍できなかったのだろうかと気を遣ってしまう。
「とにかく入りなさい」
ハヤトを家に入れ話を聞いてみる。
(この子がこんな顔見せるなんて初めてだわ……)
アンナは言葉を選びつつ話を聴いていった、そして暗い顔をした理由が分かり安堵する。
ハヤトは友達の為に思い悩んでいたのだから。
ハヤト自身の活躍はサッカーをよく知らないアンナでも凄さは分かった、しかしそのハヤトの凄さが友達のマサル君の失敗を際立たせている。
静かに自然にアンナは少し昔の話をした。
自分が夫を亡くし流されるままにこのアパートに来た頃の暗い気持ちから、ハヤトと言う少年が暗い淵から引き上げてくれた事。
「人生の浮き沈みは沢山ある、だから助けてくれた出会いに感謝しなきゃね」
来年三十路を迎えるので人生の先輩らしくハヤトを元気付ける、効いてくれたのか元気が戻り用意した料理を食べ始める。
一つ一つを味わって好物のオムライスには口を綻ばせて、しっかりと凄い勢いで食べていく。
その様子に安心していたらハヤトが言った。
「俺、明日マサルと話します」
(そうよ……まずは自分がしっかり生きてないと顔向けできないもんね)
アンナは自分に言い聞かすように思いながら離れたとこの亡き夫の位牌を見る。
そしてハヤトに向き直して「若い内の青春ね」と笑いながら頷いた。
ハヤトとはお隣さんと言うだけの関係、ただそれだけのはずだったが食卓を囲む内に大事な人になっている。
ハヤトが笑えばアンナも笑う、ハヤトの為に毎日献立を考える。
もう普通では無いと周りは言うのかもしれない。
それでも、アンナはまだまだハヤトの為に料理を作り話をしたいなと思っていた。
——翌朝。
ピンポン
朝早くからインターホンが鳴る。
「ふぁい……あれ?ハヤト君?」
「おはようございます、アンナさん昨日返しそびれた弁当箱です!」
話に集中して忘れていた、しっかり綺麗に洗ってくれている。
「あら!ありがとうね!今から練習?」
「はい、朝練行って学校です」
毎日のルーティンだがスポーツ強豪校とは言え朝から晩まで学校を挟みながら大変な事だ。
「ほんと凄いわよね……怪我しないように頑張って!」
「はい!行ってきます!」
自分の高校時代は何やっていたかを思い出すが恥ずかしくなって辞めた。
元気に走っていくハヤトを見て若さの力をひしひしと感じるアンナであった。




