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ヤマノテ戦隊ゴタンダー  作者: わかめ


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12/13

免許取るまで襲撃減らせ


 金曜日。


「五反田」


「何?」


「二輪免許、取るの?」


「取る」


「急だな」


 朝から東都丸に言われた。


「昨日までそんな話してなかっただろ」


「昨日、急に必要になった」


「何があったら一日で二輪免許が必要になるんだよ」


「俺もそう思う」


 昨日。


 俺には専用バイクがあることが判明した。


 赤と黒と銀。


 そして余計な黄緑。


 かなり格好いい。


 問題は、俺が二輪免許を持っていなかったことだった。


「バイク持ってるの?」


 丸が聞く。


「……乗るものはある」


「あるのに免許持ってないの?」


「そこは触れないで」


「買ったの?」


「買ってない」


「借り物?」


「たぶん俺の」


「たぶん?」


「俺もよく分かってない」


 丸が怪しいものを見る目でこっちを見る。


 仕方ないだろ。


 俺だって所有関係が分からない。


 ゴタンダー専用と言われた。


 俺しか呼べないらしい。


 だったら俺のなのか。


 でも金を払った覚えはない。


 車検とかどうなってるんだ。


 ナンバーは?


 保険は?


 考え始めると新しい問題しか出てこない。


「いつから教習?」


「今日」


「今日!?」


「十九時から」


「行動早いな」


「早く取らないと困る」


「そんなに乗りたいの?」


「昼飯が食いたい」


「話が繋がらない」


 俺の中では完全に繋がっている。


 専用バイク。


 移動時間短縮。


 昼休み確保。


 完璧だ。


『五反田 電』


「何?」


『今夜から教習ですね』


「会社で話しかけるなって」


 小声で返す。


『確認です』


「何の?」


『初回は十九時からですね』


「そう」


『遅刻しないようにしてください』


「誰のせいで時間に敏感になったと思ってんだよ」


 今日、仕事が終わったら教習所へ行く。


 昨日の夜に申し込んで、空いていた枠に滑り込んだ。


 自分でも行動が早いと思う。


 理由は単純。


 昼飯を食いたい。


 世界平和より切実だった。


「五反田」


「ん?」


「今日飲みに行く?」


 丸が聞いてくる。


「ごめん。教習」


「もう予定入ってるのか」


「早く取りたい」


「そこまで急ぐ?」


「最近、急に必要になった」


「仕事?」


「…………」


 仕事。


 なのだろうか。


 給料は出ない。


 手当もない。


 会社にも申告していない。


「副業?」


「収入ない」


「じゃあ趣味?」


「命張ってる」


「何やってんの?」


「俺も知りたい」


 本当に何をやっているんだろう。


     ◇


 十八時三十七分。


 仕事を終えた俺は、教習所の待合スペースにいた。


 スーツのまま。


 必要な手続きは済ませてある。


 今日は最初の教習。


 バイクにまともに触るのも初めてだ。


「……ちょっと楽しみだな」


『そうですか』


「いたの?」


『います』


「教習中は話しかけるなよ」


『承知しています』


「絶対だぞ」


『私は交通安全を妨害するつもりはありません』


「そういうところは真面目なんだよな」


 ガラスの向こうを見る。


 教習コースをバイクが走っている。


 当然だが、俺の専用車とは全然違う。


 普通の教習車。


 それでも、実際に走っているのを見ると少しわくわくする。


 専用バイクが出てきたときは、免許がないことしか考えていなかった。


 乗れるようになったら、どんな感じなんだろう。


 十八時四十六分。


 あと十四分。


 スマホを見る。


 余裕だ。


 今日は敵も来ない。


 昼間も静かだった。


 ようやく普通の予定を――。


『五反田 電』


「嫌だ」


『まだ何も言っていません』


「その入り方昨日もやった」


『敵性反応です』


「ほらぁ!!」


 待合室で思わず声が出た。


 何人かこっちを見る。


「……すみません」


 頭を下げる。


 小声に戻す。


「どこ」


『JY23周辺』


「俺いま教習所」


『把握しています』


「十九時から」


『把握しています』


「あと十四分」


『把握しています』


「じゃあ断って」


『私にその権限はありません』


「敵に連絡先聞いといて!」


『それもありません』


「使えねえ!」


 立ち上がる。


 受付の時計。


 十八時四十七分。


 十三分。


「近い?」


『徒歩五分程度です』


「なんでそんな絶妙なところで襲うんだよ!」


 荷物をロッカーへ突っ込み、最低限のものだけ持つ。


 受付を通るとき、職員の人に声をかけられた。


「五反田さん、もうすぐ始まりますよ」


「すみません、ちょっとだけ外出ます!」


「間に合うように戻ってきてくださいね」


「絶対戻ります!」


 何の宣言だ。


     ◇


 走る。


 走る。


 走る。


「何で変身しないんですか」


 横から声がした。


「うわっ!」


 静だった。


「また!」


「何がです?」


「急に出てくるの!」


「走っている人に追いついただけです」


「気配消しながら追いつくなよ!」


「癖です」


「嫌な癖だな!」


 静も普通の仕事帰りらしい。


「五反田さん、今日は教習では?」


「十九時から!」


「今、十八時五十分です」


「分かってる!」


「では何故こちらへ?」


「敵に聞いて!」


「なるほど」


「納得早いな」


「最近は大体そうなので」


 俺たちは現場へ入る。


 使われていない小さな駐車場。


 例によって入口にはK.A.R.。


「カー!」


「お前ら今日だけ帰って!」


「カー!」


「ダメか!」


「カー!」


「たぶんダメって言ったな今!」


「分かるようになりましたね」


「嬉しくない!」


 奥。


 カーラが待っていた。


「来たか、JY23!」


「来たけど帰る!」


「何!?」


「俺、十九時から教習!」


「知るか!」


「あと九分!」


「こちらの作戦を優先しろ!」


「なんで敵の都合優先しなきゃいけないんだよ!」


 カーラが腕を振る。


「配置!」


「カー!」


 K.A.R.が一斉に広がる。


「待て待て待て!」


「何だ!」


「今日だけやめない?」


「却下!」


「じゃあ五分!」


「何がだ!」


「五分で終わらせる!」


「こちらは光線反応を取得するまで終わらん!」


「またビームかよ!」


「当然だ!」


 静が時計を見る。


「五反田さん」


「何?」


「八分です」


「減ってる!」


「時間なので」


「分かってるよ!」


 もういい。


「ゴタンダー――変身!」


 光。


 赤。


 黒。


 銀。


 黄緑。


「速攻で行く!」


「カー!」


 一人目。


 殴る。


 二人目。


 蹴る。


 三人目。


 投げる。


「カー!」


「光線を使え!」


「時間ない!」


「それはこちらには関係ない!」


「ある!」


「ない!」


「免許取れたらバイクで早く来られるんだぞ!」


「…………」


 カーラが一瞬止まった。


「カー!」


 K.A.R.まで少し止まった。


「ほら!」


「何がだ!」


「俺が免許取る!」


「うむ」


「専用バイクに乗れる!」


「うむ」


「現場に早く来られる!」


「…………」


「お前ら待つ時間減る!」


「…………」


 カーラが黙った。


 静も黙った。


「どう?」


「五反田さん」


「何?」


「敵との交渉材料に教習所を使わないでください」


「今それどころじゃない!」


 カーラが少し考える。


「確かに」


「納得した!」


「だが!」


「何!」


「本日の作戦は既に開始している!」


「融通利かねえ!」


「作戦準備にも人件費がかかっている!」


「生々しいんだよ!」


「カー!」


「お前らも大変なんだな!」


「カー……」


 ちょっと悲しそうだった。


「もういい!」


 構える。


「三分で終わらせる!」


「残り七分です」


「移動込みだから!」


 突っ込む。


 一人。


 二人。


 三人。


 今日は余計なことはしない。


 ロボも呼ばない。


 緑も飛ばさない。


 ビームなんてもってのほか。


 ただ殴る。


 蹴る。


 急ぐ。


「カー!」


「ごめん!」


 殴る。


「カー!」


「急いでるんだ!」


 蹴る。


「カー!」


「今日だけ許して!」


「謝りながら倒さないでください」


 静が言う。


「気持ちの問題!」


「相手は敵です」


「でもなんか悪いじゃん!」


「カー!」


 前から二人。


 後ろから一人。


 身体を沈める。


 前の二人を避け、振り返る。


 回し蹴り。


「カーァ!」


 二人が転がる。


 残り。


「もっと追い込め!」


 カーラが叫ぶ。


「光線を使わせろ!」


「カー!」


「だから時間ねえって!」


 K.A.R.が固まって突っ込んでくる。


 俺は脚に力を込めた。


「もうこれで終わり!」


『ダー型高出力蹴撃、使用可能です』


「知ってる!」


 跳ぶ。


「ゴタンダー――キック!」


 ドン!!


「カーァァァァ!!」


 まとめて吹き飛ぶ。


 着地。


「終わり!」


 時計を見る。


 十八時五十五分。


「行く!」


「待て!」


「まだ何!?」


「光線!」


「撃つか!!」


「本日の測定が――」


「カーラ!」


「何だ!」


 俺は指を突きつけた。


「免許取るまで襲撃減らせ!」


「…………」


「せめて教習中はやめろ!」


「貴様、敵へ何を要求している!」


「お前らだって早く来た方がいいだろ!」


「…………」


「東京駅から電車で来るより、バイクの方が絶対早いぞ!」


「それは……」


「しかも昼ならお前らの待機時間も減る!」


「…………」


「K.A.R.の拘束時間も短くなる!」


「カー?」


「人件費も!」


「カー!」


 急にK.A.R.の反応が良くなった。


「お前らそこ食いつくの!?」


 カーラが部下を見る。


「カー!」


「カー!」


「カー!」


「お前たち……」


 どうやら現場には現場の事情があるらしい。


 静が横で言う。


「合理性はありますね」


「静まで!」


「五反田さんが専用車両を使用できれば、こちらの対応速度も上がります」


「だろ?」


「ただし、悪の組織へ私生活の予定を提出するのは推奨しません」


「じゃあどうすんの」


「知りません」


「そこ考えてよ!」


 カーラが腕を組む。


 数秒。


「……次回の教習はいつだ」


「聞くの!?」


「時間帯だけだ!」


「土曜の午前」


「その次!」


「来週の火曜、仕事終わってから」


「時刻!」


「十九時!」


 答えてから気づく。


「俺、何で敵に教習予定教えてんの?」


「こちらも何故聞いているのか分からん!」


「じゃあ聞くなよ!」


「作戦調整のためだ!」


「調整するんだ!?」


 カーラは頭を押さえた。


「とにかく今日は行け!」


「いいの?」


「遅刻されて免許取得が延びれば、こちらにも不利益だ!」


「悪の組織に教習応援されてる……」


「応援ではない!」


「カー!」


「お前らは完全に応援してるだろ!」


「カー!」


「行きますよ」


 静が俺の背中を押した。


「あと四分です」


「やば!」


 走る。


 途中で変身を解除。


「じゃあまた!」


「戦闘後に敵へ挨拶しないでください」


「カー!」


「向こうも返してる!」


 全力で教習所へ戻った。


     ◇


 十八時五十九分。


「間に合った……!」


 受付を通る。


「五反田さん、走ってきたんですか?」


「ちょっと……急用が……」


「大丈夫です?」


「大丈夫です!」


 大丈夫じゃない。


 息を整える。


 ヘルメット。


 プロテクター。


 グローブ。


 指定された場所へ向かう。


「よろしくお願いします」


「お願いします!」


 指導員の人が今日の内容を説明する。


 まず車体に慣れるところから。


 取り回し。


 スタンド。


 基本操作。


 発進。


 停止。


 当然だが、いきなり格好よく走れるわけではない。


「重っ……」


 変身していない状態で押すバイクは普通に重かった。


「力だけで動かそうとしないでくださいね」


「はい」


 なるほど。


 何でも力で解決すればいいわけではない。


 最近の俺には必要な教訓かもしれない。


「クラッチをゆっくり繋いで」


「はい」


「焦らなくて大丈夫です」


「はい」


 エンジン音。


 少しずつ進む。


「お」


 止まる。


 また発進。


「……おお」


 楽しい。


 思っていたよりずっと。


 専用バイクを見たときとは違う。


 自分で操作して、動かしている感覚がある。


「いいですね。その調子です」


「はい!」


 さっきまで全身タイツと殴り合っていたことを、一瞬忘れた。


     ◇


 教習終了。


 午後八時。


 俺は教習所の外へ出た。


「疲れた……」


「五反田さん」


「うわっ!」


 またいた。


「なんでいるの?」


「帰り道です」


「本当に?」


「本当です」


 静が缶コーヒーを持っている。


「どうでした?」


「何が?」


「教習です」


「ああ」


 少し考える。


「楽しかった」


「そうですか」


「……普通のバイクも、ちょっと欲しくなるな」


「専用車両があるのでは?」


「ヤマッテセンマンにも言われそう」


「では必要ないでしょう」


「でも専用車で休日にツーリングするの嫌じゃない?」


「目立つでしょうね」


「だろ?」


「黄緑ですし」


「色の問題だけじゃない!」


 ただ。


 まだ免許すらない。


「まあ、取ってから考える」


「そうしてください」


 並んで駅へ向かう。


「ところで」


 静が言う。


「本当にカーラへ教習予定を伝えたんですね」


「流れで」


「敵ですよ」


「分かってる」


「次回の襲撃予定まで調整されそうですね」


「さすがにそれは――」


 言いかける。


 いや。


 あいつらならやりそうだ。


「…………」


「どうしました?」


「ありそう」


「私もそう思います」


 嫌なところで意見が合った。


     ◇


 秘密結社サークル。


「これは何だ」


 環状管理官クロスが紙を見る。


 カーラは正面に立っていた。


「JY23の活動予定です」


「活動予定?」


「正確には二輪教習予定」


「何故我々が持っている」


「本人から聞きました」


「何故聞いた」


「作戦効率向上のためです」


「説明しろ」


「JY23は現在、専用二輪車を保有しています」


「ダー型なら普通だな」


「しかし二輪免許を持っていません」


「…………」


 クロスが顔を上げた。


「何?」


「したがって現在、専用車両を公道で運用できません」


「…………」


「現場へは主に山手線で来ています」


「…………」


「そのため到着が遅い」


「待て」


「はい」


「我々は今まで、敵が山手線で来るのを待っていたのか?」


「はい」


 長い沈黙。


 ドクトル・円環が隣から資料を覗き込む。


「興味深い」


「何がだ」


「社会制度が戦闘レスポンスへ影響している」


「研究対象を増やすな」


「免許取得後はJY23の平均現着時間が短縮される可能性が高い」


「……それは分かる」


「待機中のK.A.R.人件費も減少する」


 クロスが止まった。


「どの程度だ」


「算出するか?」


「しろ」


「するのかよ」


 カーラが思わず言った。


「現場経費は重要だ!」


「はい」


 円環が端末を操作する。


「さらに、教習中に襲撃して遅刻させた場合、技能習得が遅れる可能性がある」


「つまり?」


「免許取得が延びる」


「つまり?」


「我々が今後も駅から歩いてくるJY23を待つ期間が延びる」


「…………」


 クロスは紙を見た。


 土曜午前。


 火曜十九時。


 今後の予定がいくつか記されている。


「カーラ」


「はい」


「作戦部へ回せ」


「本気ですか」


「教習時間帯は襲撃非推奨とする」


「非推奨」


「禁止ではない」


「そこは悪の組織ですね」


「必要な作戦なら実施する。ただし、理由なく教習を妨害するな」


「了解」


「それと」


「はい」


「JY23には早く免許を取らせろ」


「敵ですよ?」


「分かっている!」


 クロスが机を叩く。


「だが毎回十五分も二十分も待つよりマシだ!」


「カー!」


 近くにいたK.A.R.が力強く頷いた。


 クロスが見る。


「……お前たちもそう思うか」


「カー!」


「そうか」


 運用表へ新しい項目が追加された。


 《JY23 二輪教習時間帯:襲撃非推奨》


 秘密結社サークルは、敵対するヒーローの免許取得を間接的に支援し始めた。

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