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ヤマノテ戦隊ゴタンダー  作者: わかめ


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13/13

教習が終わるまで待っていた


 土曜日。


 午前九時四十二分。


 俺は教習所にいた。


「……平和だ」


『そうですね』


「静かだ」


『そうですね』


「敵が来ない」


『そうですね』


「気持ち悪い」


『何故ですか』


 昨日までなら、この時間帯に予定を入れること自体が不安だった。


 昼飯を食おうとすれば敵が出る。


 帰ろうとすれば敵が出る。


 仕事帰りに予定を入れれば、その十四分前に敵が出る。


 ところが今日は何もない。


 理由は分かっている。


 昨日、俺はカーラに教習予定を教えた。


 そしてサークルは、


 《JY23 二輪教習時間帯:襲撃非推奨》


 という、悪の組織とは思えない運用ルールを作ったらしい。


「本当に守ってんのかな」


『その可能性はあります』


「敵に予定守られてるの嫌だな……」


『襲撃されるより良いのでは?』


「それはそうなんだけど」


 今日は土曜。


 午前十時から二時間。


 仕事はない。


 教習だけ。


 その後は昼飯を食って、帰って寝る。


 完璧な休日だ。


『五反田 電』


「何?」


『本日は教習へ集中してください』


「言われなくても」


『免許取得が遅れると困ります』


「お前までサークルと同じこと言い始めたな」


『私には明確な理由があります』


「向こうにも人件費っていう明確な理由あるぞ」


『…………』


「反論できないの?」


『できません』


 悪の組織の人件費に負ける宇宙人。


 嫌な構図だった。


     ◇


「では、今日は低速走行と一本橋をやっていきます」


「はい!」


 指導員の説明を聞く。


 一本橋。


 細い板の上をゆっくり走る。


 話だけなら簡単そうに聞こえる。


 実際にやると全然違った。


「うわっ」


 前輪が落ちる。


「焦らなくて大丈夫ですよ」


「はい」


「視線、もう少し遠く」


「遠く」


「手元を見ない」


「はい」


 もう一度。


 乗る。


 発進。


 ゆっくり。


「…………」


 落ちた。


「難しいな」


 変身すれば身体能力は何倍にもなる。


 巨大ロボも呼べる。


 ビームも出る。


 黄緑色の何かも飛ぶ。


 なのに一本橋は落ちる。


 世の中は厳しい。


『五反田 電』


「喋るなって言っただろ」


『独り言が聞こえたので』


「今教習中!」


『失礼しました』


「集中して」


『それはこちらの台詞です』


「切るぞ」


『通信はそちらから切れません』


「腹立つな!」


「五反田さん?」


 指導員がこっちを見る。


「あ、すみません」


「大丈夫ですか?」


「ちょっと独り言が」


「緊張しますよね」


「そういうことにしてください」


 もう一度。


 今度は遠くを見る。


 腕の力を抜く。


 進む。


 揺れる。


「……お」


 渡れた。


「いいですね」


「おお……!」


 嬉しい。


 普通に嬉しい。


「もう一回行きましょう」


「はい!」


 何だろう。


 巨大ロボを呼べたときより達成感がある。


 あっちは何となくやったらできた。


 こっちは練習して、失敗して、やっとできた。


 すごく普通だ。


 最近、普通というだけでありがたい。


     ◇


 十一時五十七分。


 二時間の教習が終わった。


「ありがとうございました!」


「お疲れさまでした」


 ヘルメットを返す。


 プロテクターを外す。


「一本橋、最後は安定してましたね」


「ありがとうございます」


「次もその感じで」


「はい」


 更衣スペースを出る。


「よし」


 スマホを見る。


 敵性反応。


 なし。


「……本当に来なかった」


『良かったですね』


「なんか逆に不安なんだけど」


『何故ですか』


「サークルだぞ?」


『はい』


「悪の組織だぞ?」


『はい』


「俺の教習終わるまで黙って待ってるなんてことある?」


『――』


 ヤマッテセンマンが急に黙った。


「何?」


『…………』


「おい」


『敵性反応です』


「ほらぁ!!」


 時計を見る。


 十一時五十八分。


「まだ教習終了して二分だぞ!」


『JY23近辺です』


「近辺って?」


『かなり近いです』


「どのくらい」


『教習所正門付近』


「近すぎるだろ!!」


 走る。


 正門を出る。


「…………」


 いた。


 K.A.R.が二人。


 道路脇に立っている。


「カー!」


「待ってたの?」


「カー!」


「何時から?」


「カー!」


「分からん!」


 一人が腕時計を指す。


 十一時五十八分。


「時間見せられても!」


 もう一人が教習所の掲示板を指す。


 そこには午前教習の終了時刻。


 十一時五十五分。


「…………」


「カー!」


「終わるの確認してから来たの?」


「カー!」


「律儀すぎるだろ!!」


「五反田さん」


「うわっ!」


 横を見る。


 静がいた。


「なんでいるの?」


「近くにいました」


「休日だぞ」


「休日です」


「何してたの?」


「買い物です」


 静の手には小さな紙袋。


 普通だ。


 今日は私服だった。


「それより」


 静がK.A.R.を見る。


「本当に待っていたようですね」


「そこ感心するとこ?」


「教習を妨害しなかったのは評価できます」


「敵だぞ?」


「敵でも交通ルールは守るようですし」


「最近あいつらへの評価甘くなってない?」


「事実を述べています」


「カー!」


 K.A.R.が先導する。


「……行かなきゃダメ?」


「カー!」


「せめて昼飯食ってからじゃダメ?」


「カー!」


「今のは?」


「たぶん否定です」


「やっぱ分かるようになってるじゃん」


 仕方なくついていく。


     ◇


 現場は、教習所から徒歩七分。


 使われていない資材置き場だった。


 昨日よりさらに簡素だ。


 計測器は二台。


 K.A.R.は十人。


 カーラ。


 以上。


「来たか、JY23!」


「何時から待ってた?」


 カーラが止まった。


「……何の話だ」


「教習終わるまで待ってた?」


「作戦開始時刻を調整しただけだ!」


「何時からここいた?」


「十一時三十分」


「待ってんじゃん!」


「設営があるだろう!」


「K.A.R.も?」


「当然だ!」


「三十分待機?」


「必要な作業だ!」


「カー……」


 K.A.R.の一人が肩を落とした。


「絶対暇だったろ!」


「黙れ!」


「カーしか言ってない!」


「お前がだ!」


 静が時計を見る。


「教習中は襲撃しなかったんですね」


「作戦効率上の判断だ」


「本当に守ったんだ」


「非推奨時間帯を避けただけだ!」


「偉いですね」


「褒めるな!」


「なんで怒るんだよ!」


 カーラが咳払いする。


「本日の作戦を開始する!」


「待って」


「何だ!」


「俺、朝から何も食ってない」


「知るか!」


「教習二時間やって、そのまま来たんだぞ!」


「それはこちらの責任ではない!」


「十二時過ぎたんだから昼飯くらい食わせろよ!」


「今日は休日だろう!」


「休日にも昼飯は食うんだよ!」


 カーラが頭を押さえる。


「貴様、毎回食事の話をするな!」


「毎回その時間狙ってくるからだろ!」


「作戦上都合がいいのだ!」


「俺にとって都合悪いんだよ!」


「五反田さん」


「何?」


「五分で終わらせれば食べられます」


「またそれ?」


「昨日は成功しました」


「確かに」


 カーラが指をさす。


「昨日と同じだと思うな!」


「何か対策した?」


「した!」


「何?」


「人数を減らした!」


「弱体化してるじゃん!」


「予算がないのだ!!」


「ごめん!」


「謝るな!!」


 もう恒例になってきた。


     ◇


「配置!」


「カー!」


 十人のK.A.R.が動く。


「JY22との接触を避けろ!」


「カー!」


「巨大人型兵器は召喚させるな!」


「カー!」


「腕部飛翔兵器にも注意!」


「カー!」


「そして!」


 カーラが大きく息を吸う。


「高出力光線を撃たせろ!」


「まだ諦めてないの!?」


「当然だ!」


「いつまでそれ続ける気だよ!」


「高出力光線の測定が完了するまでだ!」


「俺が撃たなきゃ永遠に終わらないじゃん!」


「なら撃て!」


「嫌だ!」


「貴様ぁ!!」


「ゴタンダー――変身!」


 光。


 赤。


 黒。


 銀。


 黄緑。


「カー!」


 来る。


 一人。


 殴る。


 二人。


 蹴る。


 三人目。


 受ける。


 四人目。


「カー!」


「今日少ないな!」


「予算がないと言っただろう!」


「戦闘員まで予算連動なんだ!」


「人件費が最も重い!」


「リアル!」


 静の側には二人。


 昨日までと同じように、近づかれないよう距離だけ取っている。


 静が右へ。


「カー!」


 二人も右へ。


 左へ。


「カー!」


 左へ。


「まだそれやってるの?」


「有効だからな!」


「確かに近づけないけど!」


 五人目。


 拳。


 六人目。


 蹴る。


 七人目。


 投げる。


 残り三人。


「終わりそうじゃん」


「まだだ!」


 カーラが何かを投げる。


「何?」


 足元。


 小さな円筒。


 カシャン。


 光が広がる。


「うわっ!」


 脚が急に重くなる。


「何これ!」


「対ダー型局所加重フィールド!」


「ちゃんと新兵器あるじゃん!」


「これだけで予算の大半を使った!」


「聞いてない!」


「カー!」


 残ったK.A.R.が来る。


 動きづらい。


 一発もらう。


「痛っ!」


「光線を使え!」


「嫌だ!」


「飛翔兵器も禁止だ!」


「知ってる!」


「ロボットも呼ぶな!」


「分かってる!」


「では光線だ!」


「選択肢狭めて誘導すんな!」


 もう一発。


 受ける。


 重い。


「五反田さん」


 静が少し遠くから言う。


「そのフィールド、弱めましょうか」


「来られる?」


「二人います」


「カー!」


「カー!」


 静の前でK.A.R.二人が広がる。


「無理そうだな」


「少し時間をください」


「昼飯が遠のく!」


「そこですか」


 カーラが笑う。


「さあ、JY23!」


「何?」


「追い込まれただろう!」


「まあ」


「ならば!」


 指を突きつける。


「光線を撃て!」


「嫌!」


「何故だぁ!!」


「そっちが欲しがるから!」


「理由になっていない!」


「めちゃくちゃ理由だよ!」


 脚。


 重い。


 でも。


 身体自体が動かないわけではない。


「これさ」


「何だ」


「重くしてるだけ?」


「そうだ!」


「力そのものを止めてるわけじゃない?」


「何?」


 地面を見る。


 脚。


 膝。


 腰。


 ダー型。


 身体強化。


「じゃあ」


 姿勢を落とす。


「普通に強く踏めばよくない?」


 カーラが止まった。


「待て」


「せーの」


 地面を蹴る。


 ドン!!


 加重フィールドの装置が跳ねた。


「は?」


 もう一度。


 ドン!!


 円筒に亀裂。


「待て待て待て!」


 三度目。


「ふん!」


 バキッ!


 装置が壊れた。


 身体が軽くなる。


「…………」


「…………」


「…………」


「壊れた」


「壊したのだ!!」


「思ったより普通だったな」


「高かったのに!!」


「また予算!?」


「カー……」


 K.A.R.まで悲しそうだ。


「悪い」


「謝るな!」


「でも壊さないと俺動けないし」


「それはそうだが!」


「納得するんだ」


「くそっ!」


 静が二人のK.A.R.の隙を抜けてこちらへ来る。


「五反田さん」


「何?」


「今の、能力ではなく力技ですよね」


「ダー型だから」


「そうでしたね」


「そこ忘れないで」


 俺は構える。


「じゃあ終わらせる」


「待て!」


 カーラが叫ぶ。


「何?」


「光線は!?」


「撃たない!」


「今日の予算全部無駄になるぞ!」


「俺に言うな!」


「ゴタンダー――キック!」


 跳ぶ。


 蹴る。


 ドン!!


「カーァァァァ!!」


 残っていたK.A.R.がまとめて吹き飛んだ。


 着地。


「終わり」


 十二時十一分。


「よし」


 変身を解く。


「飯行こう」


「待て!」


「まだ?」


 カーラが壊れた装置を抱えていた。


「次は!」


「はい」


「さらに強い加重フィールドを用意する!」


「予算ないんじゃないの?」


「…………」


「ないんだ」


「…………」


「無理しない方がいいぞ」


「敵に組織予算の心配をされる筋合いはない!」


「こっちも毎回壊すの微妙に気まずいんだよ!」


「なら光線を撃て!」


「それとこれは別!」


「貴様ぁ!」


「カー!」


 K.A.R.たちが撤収を始める。


 カーラは俺を睨む。


「次回の教習は火曜十九時だったな」


「覚えてるの?」


「作戦予定表に入っている!」


「本当に入れたんだ……」


「その時間帯は避ける!」


「ありがとう?」


「礼を言うな!」


「じゃあ何て言えばいいんだよ!」


「何も言うな!」


「カー!」


 サークルは帰っていった。


 静がその背中を見る。


「かなり律儀ですね」


「悪の組織なんだけどな」


「五反田さん」


「何?」


「昼食」


「あ」


「十二時十二分です」


「行こう!」


 今日は休みだ。


 時間制限はない。


 好きなだけ食える。


 それだけで嬉しかった。


     ◇


 駅前のラーメン屋。


「何にする?」


「塩で」


「俺、味噌」


 静とカウンターに座る。


「そういえば」


 静が水を飲む。


「教習はどうでした?」


「一本橋やった」


「できました?」


「最初落ちた」


「そうですか」


「最後はできた」


「良かったですね」


「なんか巨大ロボ呼べたときより嬉しかった」


「比較対象がおかしいですね」


「俺もそう思う」


 ラーメンが来る。


「いただきます」


「いただきます」


 一口。


「……うま」


 平和だ。


 普通に飯が食える。


「五反田さん」


「何?」


「かなり嬉しそうですね」


「朝から食ってないから」


「教習前に何か食べればよかったのでは?」


「正論やめて」


 静が少し笑った。


「ところで」


「何?」


「免許取得後、本当に専用車両を使うんですか」


「使うよ」


「公道で?」


「そのために取ってんだから」


「かなり目立つと思います」


「…………」


 昨日の東京駅を思い出した。


 撮影。


 子ども。


 外国人観光客。


 親指。


「……ヘルメットあるかな」


『あります』


「うわっ!」


 ラーメンを吹きそうになった。


「食事中に話しかけるな!」


『専用装備としてヘルメット機能は――』


「今俺ゴタンダーの話してるって周りにバレるだろ!」


『通信内容はあなたにしか聞こえません』


「俺の返事は周りに聞こえるんだよ!」


 隣の客がちらっと見る。


「ほら!」


 静が静かに麺を食べている。


「助けて」


「独り言の多い人だと思われるだけです」


「それも嫌なんだけど!」


 休日なのに、やっぱり完全には休めなかった。


     ◇


 秘密結社サークル。


「結果」


 クロスが言う。


「高出力光線、未取得」


 カーラが答える。


「局所加重フィールド」


「破壊されました」


「何で」


「踏まれました」


「何で」


「ダー型なので」


「…………」


 クロスが額を押さえる。


 ドクトル・円環はデータを見ていた。


「設計思想は悪くない」


「慰めはいらん」


「JY23の脚部出力が想定値を上回っていた」


「つまり?」


「さらに出力を上げればいい」


「予算は?」


「必要だ」


「却下」


「早いな」


「今月はもう無理だ!」


 カーラが机に資料を置く。


「次回作戦ですが」


「火曜十九時以外で組め」


「既にその予定です」


「何故俺が敵の教習予定を気にしているんだ」


「現場効率です」


「分かっている!」


 クロスが椅子へもたれる。


「それで、免許取得までどの程度かかる」


「現時点では不明」


「順調なのか?」


「本日の教習は問題なく終了したようです」


「…………」


 クロスがゆっくり顔を上げる。


「何故そこまで把握している」


「現場K.A.R.が教習所前で待機していましたので」


「…………」


「終了を確認後、作戦開始」


「待て」


「はい」


「教習所の前にK.A.R.を立たせたのか?」


「二名」


「目立たなかったのか?」


「かなり」


「だろうな!」


 円環が端末を見る。


「SNS上に目撃情報がある」


「何!?」


「『教習所の前に灰色の変なのいる』」


「消せ!」


「既に現場は撤収済みだ」


「そうではない!」


 別の投稿。


「『カーって言ってた』」


「消せ!」


「『教習所のマスコット?』」


「違う!!」


 クロスが机を叩いた。


「次から教習所正門前で待機させるな!」


「では待機地点を百メートル離します」


「そうしろ!」


 カーラがメモする。


 対JY23運用要領へ、新しい項目。


 五、二輪教習時間帯の襲撃は非推奨。


 六、教習終了確認のため、教習所正門前へK.A.R.を配置しないこと。


「管理官」


「何だ」


「また増えました」


「……ページを増やせ」


 対ゴタンダー運用マニュアルは、順調に厚くなっていた。

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