↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤマノテ戦隊ゴタンダー  作者: わかめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/14

専用バイクはある。免許はない


 木曜日。


 俺は朝から決めていた。


「今日は昼飯食う」


「食えば?」


 東都丸がパソコンを起動しながら答えた。


「絶対食う」


「毎日食えばいいじゃん」


「昨日、一昨日、その前とまともに食えてない」


「忙しいな」


「俺の意思とは関係なくな」


 先週までの俺なら、昼休みというものは十二時から十三時までの一時間だと思っていた。


 昼飯を食う。


 スマホを見る。


 ちょっと休む。


 そういう時間だ。


 最近は違う。


 東京駅から山手線に乗る。


 五反田へ行く。


 全身タイツの変態を殴る。


 会社へ戻る。


 時間があれば飯を食う。


 順番がおかしい。


「今日、地下のカレー屋行かない?」


 丸が言った。


「行く」


「即答」


「今日は何があっても行く」


「そんな大げさな」


「丸」


「何?」


「フラグ立てるな」


「何の?」


 俺にも分からない。


 だが、こういうことを言った日は大体来る。


 宇宙から。


 あるいは悪の組織から。


 十一時五十八分。


『五反田 電』


「ほらぁ!」


「何!?」


 丸が驚いた。


「いや、こっちの話」


『敵性反応です』


「二分前!」


『何がですか』


「昼休み!」


『JY23周辺に複数の反応を確認しました』


「あと二分待てない?」


『敵に言ってください』


「最近そればっかりだな!」


 十二時。


 時刻表示が変わった。


 丸が立つ。


「カレー」


「……ごめん」


「また?」


「また」


「大丈夫?」


「俺も分からない」


 鞄を掴む。


 そのときだった。


『お待ちください』


「何?」


『今回は、これまでとは異なります』


「新しい敵?」


『いいえ』


「じゃあ何」


『移動時間を短縮できます』


 俺は止まった。


「……マジで?」


『はい』


 それは助かる。


 非常に助かる。


 東京駅から五反田まで、山手線で移動する時間。


 さらに駅から現場まで歩く時間。


 これが昼休みを一番圧迫している。


「瞬間移動?」


『違います』


「空飛べる?」


『違います』


「じゃあ何?」


『ダー型戦士には本来、専用移動装備が存在します』


「本来?」


『はい』


 なんだ。


 俺にもちゃんとした機能が残っていたのか。


「それ先に言えよ!」


『これまでは徒歩および公共交通機関で問題なく移動できていましたので』


「問題あるよ! 昼飯食えてないよ!」


『ヒーロー活動上の問題ではありません』


「社会人活動上の大問題だよ!」


 会社を出る。


「で、どこ?」


『人目の少ない場所へ移動してください』


「またそういうやつ?」


『今回は私も把握している正規装備です』


「おお」


 思わず立ち止まった。


「知ってるの?」


『知っています』


「本当に?」


『何故疑うのですか』


「最近ずっと知らないじゃん」


『…………』


「ビーム知らない」


『…………』


「ロボ知らない」


『…………』


「緑飛ぶのも知らない」


『今回は知っています!』


 ちょっと怒った。


 東京駅近くの、人通りの少ない搬入口脇へ入る。


『変身してください』


「はいはい」


「ゴタンダー――変身!」


 光が身体を包む。


 赤。


 黒。


 銀。


 黄緑。


 もう黄緑には触らない。


 今日は昼飯がかかっている。


『右手を前へ』


「こう?」


『移動装備を意識してください』


「分かんない」


『本来は自然に認識できるはずですが』


「俺の本来、最近信用できないんだよ」


『……では、「来い」と』


「また?」


『今回は正規の召喚手順です!』


「分かったよ」


 右手を伸ばす。


「来い!」


 キィン。


 目の前の空間に細い光が走った。


 輪郭が生まれる。


 二つの車輪。


 車体。


 ハンドル。


 大型のヘッドライト。


 赤と黒を基調に、銀色の機械部品。


 そして側面に、一本。


 黄緑のライン。


「…………」


『どうです』


「緑いる?」


『そこですか!?』


 だが。


 正直なところ。


 格好いい。


 かなり格好いい。


 低く構えた大型のバイク。


 普通の市販車よりも明らかに戦闘的で、装甲らしきものまでついている。


 タイヤも太い。


「これ俺の?」


『ゴタンダー専用二輪車です』


「おお……」


『本来のダー型装備です』


「普通の機能だ」


『そうです!』


「初めてじゃない?」


『身体強化もそうです!』


「でも形ある装備では初めてだろ」


『……そうですね』


 ヤマッテセンマンの声が少し嬉しそうだった。


 気持ちは分かる。


 ここ数日、


「そんな機能はありません」


「知りません」


「本来あり得ません」


しか言ってなかったからな。


『高速移動性能に加え、戦闘時の安定性も通常の車両とは比較になりません』


「へえ」


『JY23周辺であれば、山手線を利用するより大幅に移動時間を短縮できます』


「最高じゃん」


『では搭乗してください』


「…………」


『五反田 電?』


「…………」


『どうしました』


 バイクを見る。


 でかい。


 どう見ても原付ではない。


 跨がれば足は届きそうだ。


 問題はそこではない。


「俺さ」


『はい』


「二輪免許持ってない」


「…………」


 通信の向こうが静かになった。


「普通自動車は持ってるんだけど」


『…………』


「バイクは取ってない」


『…………』


「ヤマッテセンマン?」


『……乗れないのですか』


「公道は無理」


『専用車両ですよ?』


「専用でもバイクだろ」


『ゴタンダー専用です』


「道路は一般道だろ」


『変身しています』


「免許制度に変身関係ないだろ!」


 ヤマッテセンマンが黙った。


 俺もバイクを見る。


 非常に格好いい。


 そして今の俺には使えない。


「……帰って」


 バイクが光になって消えた。


『待ってください』


「乗れないもん」


『せっかく呼び出したのですよ!?』


「免許ないの!」


『世界の危機です』


「だからって無免許運転していい理由にならないだろ!」


『…………』


「電車乗るから」


『専用車両があるのに!?』


「免許ないから!」


 俺は東京駅へ走った。


 ――変身したまま。


     ◇


 改札前で気づいた。


「…………」


 ガラスに映った自分を見る。


 赤。


 黒。


 銀。


 黄緑。


「解除してなかった」


『解除してから移動しては?』


「時間もったいない」


『その格好で電車に乗るのですか』


「どうせ五反田でまた変身するんだろ」


『それはそうですが』


「じゃあこのままでいい」


 Suicaを取り出そうとして。


 止まった。


「ポケットどこ?」


『知りません』


「正規装備なのに?」


『スーツの収納位置まで把握していません!』


 少し探す。


 腰のあたりを触る。


「あった」


『あるのですか』


「あるんだな」


 ピッ。


 改札を通る。


 駅員さんと目が合った。


「…………」


「…………」


 何も言われなかった。


 ただ、二度見された。


 ホームへ上がる。


 人が見る。


 めちゃくちゃ見る。


 当然だ。


 東京駅の山手線ホームに、赤と黒と銀と黄緑のヒーローが普通に立っている。


 スマホを向けている人までいる。


「……撮られてる」


『でしょうね』


「ヤマッテセンマン」


『はい』


「なんでちょっと楽しそうなの?」


『気のせいです』


 電車が来る。


 乗る。


 車内が一瞬だけ静かになった。


「…………」


 俺も黙る。


 目の前の座席に座っていた子どもが、じっとこっちを見る。


「ママ、あれなに?」


「見ちゃいけません」


 見ちゃいけないもの扱いされた。


 隣に立っていたサラリーマンが、ちらっと俺を見てからスマホへ戻る。


 向かいの若い男は完全に撮っている。


 外国人観光客には親指を立てられた。


 とりあえず俺も親指を立て返した。


『五反田 電』


「何?」


『馴染もうとしないでください』


「こういう時どうすればいいんだよ」


『私にも分かりません』


「また知らないじゃん」


『公共交通機関で移動するゴタンダーは想定していません!』


「専用バイク乗れないからだろ!」


 小声で喋ったつもりだったが、近くにいた人が少し離れた。


「……もう絶対免許取ろう」


『そうしてください』


 大崎。


 五反田。


 いつもの車内放送。


 俺は普通に降りた。


 ホームにいた人たちが避けて道を開けてくれた。


「ちょっと便利だな」


『そういう用途ではありません』


 改札を出る。


 十二時二十一分。


 いつもと大して変わらない。


 専用バイクを出した時間だけ損した気がする。


     ◇


「五反田さん」


「うわっ!」


 横を見る。


 静がいた。


「いつから?」


「今です」


「だから普通に声かけても怖いんだって」


「声はかけました」


「そうだけど」


 静が俺を上から下まで見る。


「…………」


「何?」


「なぜ変身したままなんですか」


「あ」


「今気づいたんですか?」


「いや、東京駅で気づいた」


「では、なぜそのまま?」


「解除するの面倒だったから」


「…………」


「五反田でまた変身するし」


「その姿でここまで?」


「うん」


「電車で?」


「うん」


「山手線?」


「他に何乗るんだよ」


 静が少し黙った。


「目立ったでしょう」


「すげえ見られた」


「でしょうね」


「写真も撮られた」


「でしょうね」


「外国人には親指立てられた」


「どう対応したんですか」


「親指立て返した」


「……なぜですか


「反射で」


 静がため息をついた。


「それで、何があったんですか」


「ああ」


 本題を思い出す。


「バイク出た」


「また新しい能力ですか」


「違う」


「違うんですか」


「今回は正規装備」


「珍しいですね」


「お前もそう思う?」


「はい」


 即答だった。


「ダー型の専用バイクだって」


「なるほど」


「めちゃくちゃ格好よかった」


「では、それで来れば早かったのでは?」


「免許ない」


「…………」


 静が俺を見る。


「二輪免許?」


「ない」


「普通自動車は?」


「ある」


「二輪は?」


「ない」


「では乗れませんね」


「だよな!」


『目黒 静まで!』


 ヤマッテセンマンが割り込む。


「何ですか」


『戦士専用装備です』


「行政上の運転免許とは別問題です」


『…………』


「ほら!」


「何故五反田さんが勝ち誇るのですか」


「俺が正しかったから」


「使えないことに変わりはありません」


「それはそう」


 悲しくなった。


「で、敵は?」


「あちらです」


 静が指す。


 今日の場所は小さな資材置き場だった。


 周囲には赤いコーン。


 立入禁止の札。


 K.A.R.が二人、一般人が入らないように入口に立っている。


「カー!」


「今日もちゃんと封鎖してる」


「カー!」


「悪の組織なのに交通整理だけは真面目だな」


「それはいいことでは?」


「そうなんだけどさ」


 奥へ行く。


 カーラがいた。


 俺を見る。


 止まる。


「…………」


「何?」


「何故もう変身している」


「そこから?」


「まだ戦闘開始の合図をしていないぞ」


「電車で来たから」


「…………電車?」


「山手線」


「その姿で?」


「今日それ二回目なんだけど」


 カーラが俺をじっと見る。


「専用移動装備はないのか」


「ある」


「なら何故電車なのだ!」


「免許ないんだよ!」


「…………」


 カーラまで黙った。


「二輪か?」


「二輪」


「取得していないのか?」


「してない」


「では仕方ないな」


「敵にまで納得された!」


「道路交通法は守れ」


「悪の組織に言われたくない!」


「組織の理念と交通法規は別問題だ!」


「静と同じこと言ってる!」


 静が横から言う。


「正しいので」


「味方して!」


 カーラが腕を組む。


「それより遅いぞ、JY23!」


「敵に遅刻判定されたくないんだけど」


「こちらは十二時十分から待っている!」


「待つなよ!」


「計画通りだ!」


「何の計画だよ!」


 カーラが腕を上げる。


「本日の目的は変わらん!」


「ビーム?」


「そうだ!」


「もう聞き飽きた」


「こちらも言い飽きた!」


 たぶんお互い様だった。


「今回は簡素に行く!」


「設備ないもんな」


「誰のせいだ!」


「まだ引きずってる?」


「全損だぞ!」


「ごめんって」


 周囲を見る。


 確かに今日は大掛かりな機械がない。


 小型センサーが数台。


 K.A.R.が十五人ほど。


「作戦は?」


「貴様を囲む」


「普通だな」


「殴る」


「普通だな」


「光線を使わせる」


「そこだけいつも通りだな」


「以上!」


「雑になってない?」


「予算がない!」


「ごめん」


「謝るなら撃て!」


「それは別」


「貴様ぁ!」


 静が横で言う。


「始めますか」


「そうだな」


「昼休みは?」


 時計。


 十二時二十四分。


「あと三十六分」


「今日は間に合いそうですね」


「カレー食えるかな」


「戦闘中に昼食の心配をしないでください」


「昼休みなんだよ!」


「配置!」


 カーラが叫ぶ。


「カー!」


 K.A.R.が一斉に動く。


「JY22を近づけるな!」


「カー!」


「巨大人型兵器、召喚阻止!」


「カー!」


「腕部飛翔兵器にも注意!」


「カー!」


「ちゃんと増えてるな!」


「貴様のせいだ!」


 俺は構える。


 今日はもう変身済みだ。


 気分的にはずっと戦闘勤務中みたいで嫌だった。


「カー!」


 一人目。


 拳を受ける。


 返す。


 腹へ。


「カー!」


 二人目。


 脚を払う。


 三人目。


 肩を掴んで投げる。


「カー!」


「光線を撃て!」


「撃たない!」


「ロボットも呼ぶな!」


「呼ばない!」


「緑も飛ばすな!」


「分かった!」


「素直だな!?」


「禁止多いんだよ!」


 四人。


 五人。


 まとめて来る。


 俺は一歩踏み込み、そのまま身体を回した。


 蹴り。


 二人まとめて倒れる。


「カー!」


「今日は普通に強いですね」


 静が少し離れたところで言う。


「普通にって何!?」


「ダー型としてです」


「最初からダー型だよ!」


『その通りです!』


 ヤマッテセンマンだけ妙に嬉しそうだった。


「今日は変な機能使わないからな!」


「カー!」


「カー!」


「カー!」


 K.A.R.が次々来る。


 殴る。


 蹴る。


 受ける。


 投げる。


 そういえば、これが本来の俺の戦い方だった。


 最近ビームだのロボだの飛ぶ緑だの、余計なものが増えすぎて忘れかけていた。


「もっと追い込め!」


 カーラが叫ぶ。


「カー!」


 左右から棒。


 一つ避ける。


 もう一つを掴む。


 引く。


 K.A.R.が前のめりになったところへ、膝。


「カー!」


「まだだ!」


 背後。


 振り返る。


 拳。


 一人。


 そのまま踏み込む。


 二人目。


「カー!」


 残りが下がる。


「よし」


 脚に力を込める。


「せっかくだから、今日は普通ので行くか」


『五反田 電』


「何?」


『それなら把握しています』


「お」


 初めて安心できる。


『ダー型標準高出力打撃。跳躍からの蹴撃です』


「つまり?」


『蹴ってください』


「雑!」


「カー!?」


 地面を蹴る。


 身体が一気に浮いた。


 目の前。


 残っていたK.A.R.の集団。


「いくぞ!」


 空中で身体をひねる。


 右脚を前へ。


「ゴタンダー――キック!」


 ドン!!


「カーァァァァ!!」


 衝撃。


 数人がまとめて吹き飛び、地面を転がった。


 静かになる。


「…………」


「…………」


「…………」


「普通だ」


 俺が言った。


『普通です!』


 ヤマッテセンマンが嬉しそうだった。


「五反田さん」


「何?」


「基準がおかしくなっています」


「俺も言ってから思った」


 巨大ロボを呼ばず。


 ビームも撃たず。


 黄緑も飛ばさず。


 ただ蹴った。


 なのに妙な達成感がある。


 カーラは倒れたK.A.R.たちを見回した。


「…………」


「どうした?」


「結局」


「うん」


「ダー型として普通に強いのだな、貴様」


「だからダー型なんだって!」


「カー……」


 地面のK.A.R.まで納得したように頷いた。


「なんで敵に再確認されてんだよ!」


 カーラが舌打ちする。


「撤収!」


「カー!」


「今日はビーム取れなかったけどいいの?」


「よくない!」


「じゃあもう一戦?」


「設備がない!」


「ごめん」


「謝るな!」


 K.A.R.たちが倒れた仲間を回収し始める。


「次回こそ光線を撃たせる!」


「まだやるの?」


「当然だ!」


「執念すごいな」


 カーラが背を向ける。


 ふと。


 さっき話したばかりなのに、改めて聞いてみたくなった。


「そうだカーラ」


「何だ!」


「二輪免許ってどれくらいで取れる?」


「私に聞くな!」


「いや、なんか詳しそうだったから」


「知らん!」


「悪の組織ってバイク使わないの?」


「使う者は取得している!」


「ちゃんとしてるな!」


「組織車両を無免許で運転させるわけがないだろう!」


「悪の組織のコンプラどうなってんだよ!」


 カーラは一瞬考えた。


「仕事帰りに通える教習所を探せ」


「アドバイスしてくれるんだ」


「次から遅れて来られても困る!」


「そこ!?」


「帰るぞ!」


「カー!」


 去っていく。


 俺は静を見る。


「なんか今日、すげえ普通のヒーローだったな」


「バイクに乗れれば、ですが」


「言うな」


     ◇


 仕事へ戻ったのは十二時五十三分。


「お」


 丸が時計を見る。


「今日は早い」


「だろ?」


「その格好で戻ってきたの?」


「あ」


 自分を見る。


 赤。


 黒。


 銀。


 黄緑。


「…………」


「解除してなかった」


「五反田」


「何?」


「最近どうしたの?」


「俺も知りたい」


 慌てて人気のない場所へ移動し、変身を解いて戻る。


 十二時五十五分。


「カレーは?」


「…………」


「食ってないの?」


「五分ある」


「カレー屋は無理だな」


「コンビニもきつい」


「おにぎり買ってきてあるよ」


 丸が机の横から袋を出した。


「鮭と昆布」


「……ありがとう」


「また行くと思ったから」


「俺もそう思ってた」


 座る。


 鮭おにぎりを開ける。


 まともな昼飯とは言いづらい。


 だが、ここ数日ではかなりマシだった。


「そういや五反田」


「何?」


「さっきSNS見てたら、東京駅に変なヒーローいたって流れてきたけど」


「…………」


「黄緑入ってた」


「…………」


「お前、何か知らない?」


「知らない」


「即答だな」


「知らない」


 俺は昆布おにぎりを開けた。


 絶対にスマホは見ない。


 今日は見ない。


     ◇


 午後九時十五分。


 家。


 風呂を済ませ、ベッドへ寝転ぶ。


 スマホを開く。


 検索欄。


『普通二輪免許 最短』


 消す。


『普通二輪免許 仕事帰り』


 検索。


 教習所がずらっと出てくる。


「…………」


 料金を見る。


「高っ」


『五反田 電』


「うわっ!」


 突然ヤマッテセンマンの声がした。


「家で急に話しかけるなよ!」


『二輪免許について調べていますね』


「見てんの!?」


『検索内容は見ていません』


「じゃあ何で分かるんだよ」


『あなたが先ほど「高っ」と言ったので』


「それだけで!?」


『取得するのですか』


「まだ考えてる」


『取得を推奨します』


「費用は?」


『費用?』


「免許代」


『…………』


「まさか」


『個人資格ですので』


「自腹?」


『……はい』


「ヒーロー手当もないのに?」


『ありません』


「専用バイクだけ渡されて?」


『はい』


「免許は自分で取れ?」


『……はい』


「おかしくない?」


『世界を守るためです』


「便利な言葉だなそれ!」


 スマホを見る。


 入校料。


 教習料金。


 仕事帰りに通える時間。


「しかも時間かかるじゃん」


『頑張ってください』


「他人事かよ!」


『私は運転できませんので』


「そういう問題じゃない!」


 通信が切れた。


「逃げたな……」


 スマホへ戻る。


 しばらく眺める。


 今のままだと、敵が出るたび東京駅から山手線だ。


 昼飯は食えない。


 会社へ戻るのもギリギリ。


 専用バイクが使えれば。


「…………」


『入校申込』


 画面にボタンがある。


「なんで悪の組織と戦うために教習所通わなきゃいけないんだよ……」


 押した。


 社会人一年目。


 ヒーロー一週間目。


 俺は世界を守るため、二輪免許を取ることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。