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7.伝説の顎クイと、恐怖のマルテル家飲み会

オペラ劇場での一目惚れから数日後。待ちに待った社交界の夜会が開催された。


私はいつものとおり、白い騎士服に身を包み、会場へ乗り込んだ。今日の目的はビールではない。あの美貌の伯爵、ジュリアン・ド・ブロイを狩ることだ。

会場の壁際に、お目当ての銀髪を見つけた瞬間、私は迷わず大股で直進した。


「見つけたわ、ジュリアン伯爵」

「おや……マルテル伯爵令嬢、ですね」


ジュリアンが驚いたようにその美しい切れ長の瞳を見開く。近くで見ると、やはり信じられないほどの美形だ。私は彼の前に立つと、フッとうら若き令嬢たちを気絶させてきたイケメンスマイル(男装仕様)を浮かべ、彼の顎をクイと指先で持ち上げた。


「単刀直入に言うわ。私、あなたに一目惚れしたの。私と付き合いなさい」

「なっ……!?」


周囲の貴族たちが「令嬢が伯爵の顎をクイした!?」と一斉に息を呑む。


そこへ、空気を読まない男が割り込んできた。以前、ビールエリアで私に気圧されていた派手目の美男子、アルジャーノン・ペラム伯爵である。


「おやおや、手荒な求愛だね、子猫ちゃん。オデット、そんなお転婆な君に、大人の男の……」

「邪魔だ。退いてくれないか、ペラム伯爵」


アルジャーノンが私の肩に手をかけようとした瞬間、ジュリアンがこれ以上ないほどきっぱりとそれを遮った。ジュリアンはアルジャーノンを鋭い一瞥で黙らせると、フッと耳まで赤くして私を見つめ返した。


「……オデット嬢。実は、私もあのオペラ劇場で、舞台の上のあなたから目が離せなくなっていたんだ。騎士姿のあなたも、実に凛々しくて素晴らしい。喜んで、貴女の告白を受け入れよう」


なんと、まさかの両思い。


美貌の伯爵と男装の騎士の、あまりにも絵面が強すぎる交際がスタートした。



二人が晴れて付き合い始めた後、オデットはジュリアンをマルテル伯爵家の食事会に招待した。

待っていたのは、山のような肉と、川のように流れるビール。そして、目を血走らせたガストンと、すでに出来上がっているテオだった。

「よく来たな、ジュリアン伯爵! 我が愛娘を口説いた男の肝玉、見せてもらうぞォ!」

「ガストン殿、お招きいただき光栄です」

凄まじい威圧感を放つガストンを前に、ジュリアンは涼しい顔で礼をとる。その横で、テオが青い顔をしてジュリアンの袖を引いた。

「ジュリアン殿、正気ですか!? 逃げてください、この親子は底なしの化け物です! 俺は昨日、オデットとの飲み比べで胃洗浄一歩手前までいきました!」

「おいテオ、私の男をビビらせるんじゃないわよ。ほらジュリアン、これ美味しいから飲みなさい」

オデットは笑顔で、ジュリアンの目の前に木製の巨大なビールジョッキ(普通の三倍サイズ)をドンッ!と置いた。

ガストンとテオが「さすがにこの気品ある伯爵には無理だろう」と思ったその瞬間。

ジュリアンは優雅にジョッキを持ち上げると、一切喉を鳴らすことなく、芸術的な美しさで一気飲みしてみせた。

「ぷはっ……素晴らしい喉越しですね。ガストン殿、もう一杯いただけますか?」

「……お、おおお! 貴様、見かけによらず、いい筋肉をしているな! 気に入ったッ!!」

ガストンは大喜びでジュリアンの背中を叩き(ジュリアンは吐血しかけた)、オデットは「さすが私の男ね!」と彼を抱きしめた。テオだけが「この国の上層部はもう終わりだ……」と頭を抱えていたのだった。

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