5.モテすぎ騎士の受難
あの怒涛の夜会デビュー以来、私の人間体験ライフは予期せぬ方向へと爆走し始めた。
「オデット様! 本日の朝練もお美しかったです!」
「オデット様、こちら私が焼いたクッキーですわ!」
……なぜこうなった。
私の机の上は、山のようなファンレターとお菓子で埋め尽くされている。どうやら「私の背後の謎の薔薇と後光」の効果が持続しているらしく、私はすっかり社交界で「男装の麗人」「王子様系騎士」として猛烈な人気を得てしまったのだ。私、中身はビール大好きの魔女なんだけどな。
そんなある日、我がマルテル伯爵家に一人の可憐な少女が突撃してきた。
「オデット様! 私、ベランジェ男爵家の娘、クロエ・ベランジェと申します! 本日より、オデット様の身の回りのお世話をする侍女として雇ってください!」
「は? いや、うちは脳筋の父親しかいないし、侍女ならもう足りて…」
「足りていても関係ありません! 私はオデット様のストーカー……いえ、影として一生お仕えすると決めたのです!」
くりくりとした大きな瞳を輝かせ、鼻息荒く宣言するクロエ。彼女の目には、私以外の人間が映っていないようだ。あまりの熱意(というか若干の狂気)に押し切られ、クロエは私の専属侍女(兼ファンクラブ会長)として我が家に収まることになった。
しかし、物事はそう簡単には進まない。クロエは大変な美少女だったため、彼女に恋する男たちが社交界には大勢いたのだ。
「おい、オデット・ド・マルテル! 女のくせに騎士の真似事をして、クロエ嬢の心を惑わすとは許せん!」
「クロエ嬢をたぶらかす不届き者め! 決闘だ!」
ある日の非番の日、街を歩いていた私は、クロエのファンを自称する血気盛んな貴族の男たち十数人に包囲された。ご丁寧に全員、剣を抜いている。
「はぁ……。あんたたち、本当に暇ね。クロエが私を選んだのは、あんたたちが私より弱いからでしょ?」
「な、何だとォ!?」
カチンときた男たちが一斉に斬りかかってくる。
だが、魔女の圧倒的な身体能力を持つ私にとって、彼らの動きは止まっているも同然だ。私は腰の剣を抜くと、最小限の動きで彼らの剣を弾き飛ばし、みぞおちに拳を叩き込み、次々と地面に沈めていった。
「はい次! 構えが甘い! 背中がお留守よ!」
数分後、路地裏にはうめき声を上げる男たちの山ができていた。
私はやれやれとため息をつき、いつものように救急箱を取り出した。
「ほら、動かないで。鼻が曲がってるわよ、今直してあげるから」
バキッ! と鈍い音がして、男の一人が悲鳴を上げる。
「痛っ!? ……あ、あれ? でも鼻の通りが良くなった……?」
「あんた、筋は悪くないからもっと体幹を鍛えなさい。そっちのあんたは、剣を強く握りすぎ。ほら、包帯巻いてあげる」
手際よく全員の治療を終えると、男たちは呆然と私を見上げていた。そして…彼らの瞳に、かつてのテオと同じ「あの光」が灯る。
「オ、オデットの兄貴……! 俺たち、目が覚めました! 兄貴に一生ついていきます!」
「誰が兄貴よ。というか、あんたたちいつまで地面で寝てるの」
拳で語り合えば、だいたい友達。これが私のスタイルだ。気づけばクロエのファンクラブは、そのまま「オデット兄貴を称える会」へと変貌を遂げていた。
だが、さすがに街中で貴族の男十数人をボコボコにしたのはまずかった。
駆けつけた衛兵たちに囲まれ、「いくらマルテル家の令嬢とはいえ、集団傷害罪で逮捕せざるを得ない!」と詰め寄られたその時。
「待たれよ!」
豪華な馬車から降りてきたのは、国王ジークフリートの勅使だった。
「国王陛下より伝言である! 『オデット嬢の一騎当千の立ち回り、実に見事! 無罪とする!』とのことだ!」
「……えぇ?」
衛兵たちも私も硬直した。どうやら、おもしろ半分で一部始終を遠くから見ていた国王が、超法規的措置で私を救ってくれたらしい。本当にあの王様、面白いものが好きね。




