4.夜会を揺るがす歌
宴もたけなわとなった頃、ステージで貴族たちの退屈な余興演奏がひと通り終わった。
酔いが回ってすこぶる機嫌の良かった私は、ふらりとステージに上がった。
「ちょっと楽器貸して」
「えっ、あ、はい!?」
楽師からヴァイオリンをひったくるように受け取ると、私は椅子にドカッと足を開いて座り、哀愁を帯びた調子でゆっくりと爪弾く。
『黄金の鎖も 絹のドレスも
鳥籠の中じゃ ただの重荷さ
今夜の寝床は 乾いた草の上
満天の星空が アタシの屋根さ』
かつて旅の途中で聴いて気に入った、情熱的で荒々しいジプシーの歌だ。
お上品な貴族の歌とは違い、魂を揺さぶるような手拍子とステップの歌。一気にテンポを上げて、私の声が会場中に響き渡ると、ビールの酔いも手伝って、騎士たちが一斉に足を踏み鳴らし手拍子を始めた。
「「「オイ! オイ! オイ!」」」
『踊れ、跳べ、火の粉を散らせ!
明日の行方なんて 風に聞いときな!
憂いも 涙も この安酒で飲み干して
命が燃え尽きるまで アタシはアタシのステップを踏むのさ!』
大喝采と熱狂の渦。歌いきった私が楽器を掲げると、会場が割れんばかりの拍手に包まれた。
「ハハハハ! 素晴らしい! これほど気分の良い夜会は初めてだ!」
上座から身を乗り出して手を叩いていたのは、この国の最高権力者、国王ジークフリートだった。その隣では、美しい王妃マルガレーテが、優雅に扇で口元を隠しながら私を見つめている。
「オデット・ド・マルテルと言ったな。ガストンの娘がこれほど豪快で、これほど美しいとは。気に入ったぞ!」
「恐悦至極に存じます、王よ」
一応、形だけの礼をとる私に、王妃マルガレーテがふっと妖艶な笑みを浮かべて近づいてきた。
彼女は私の耳元に顔を寄せると、周囲に聞こえないような小声で囁いた。
「……ねえ、あなた。本当は、人間じゃないでしょう?」
一瞬、私の身体がこわばった。
だが、王妃の瞳に宿っていたのは敵意ではなく、純粋な好奇心と親しみだった。
「うふふ、いいのよ。あなたのその、世界をどこか見下ろしているような、冷めていて気高い瞳……私、嫌いじゃないわ。今度、お茶でもいかが? ああ、あなたならお茶よりビールかしら?」
「……王妃様のお誘いなら、喜んで」
どうやら、勘の鋭い王妃様に見抜かれかけたようだけど、悪い気はしなかった。
こうして私の前代未聞の夜会デビューは、国王夫妻という最大のバックアップを得て、大成功のうちに幕を閉じたのだった。
しかし、この「キレイすぎる騎士」が、後にさらなる大騒動を引き起こすことになるとは、この時の私はまだ知る由もなかった。




