表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

4.夜会を揺るがす歌

宴もたけなわとなった頃、ステージで貴族たちの退屈な余興演奏がひと通り終わった。

酔いが回ってすこぶる機嫌の良かった私は、ふらりとステージに上がった。


「ちょっと楽器貸して」

「えっ、あ、はい!?」


楽師からヴァイオリンをひったくるように受け取ると、私は椅子にドカッと足を開いて座り、哀愁を帯びた調子でゆっくりと爪弾く。


『黄金の鎖も 絹のドレスも

鳥籠の中じゃ ただの重荷さ

今夜の寝床は 乾いた草の上

満天の星空が アタシの屋根さ』


かつて旅の途中で聴いて気に入った、情熱的で荒々しいジプシーの歌だ。

お上品な貴族の歌とは違い、魂を揺さぶるような手拍子とステップの歌。一気にテンポを上げて、私の声が会場中に響き渡ると、ビールの酔いも手伝って、騎士たちが一斉に足を踏み鳴らし手拍子を始めた。

「「「オイ! オイ! オイ!」」」


『踊れ、跳べ、火の粉を散らせ!

明日の行方なんて 風に聞いときな!

憂いも 涙も この安酒ビールで飲み干して

命が燃え尽きるまで アタシはアタシのステップを踏むのさ!』


大喝采と熱狂の渦。歌いきった私が楽器を掲げると、会場が割れんばかりの拍手に包まれた。


「ハハハハ! 素晴らしい! これほど気分の良い夜会は初めてだ!」


上座から身を乗り出して手を叩いていたのは、この国の最高権力者、国王ジークフリートだった。その隣では、美しい王妃マルガレーテが、優雅に扇で口元を隠しながら私を見つめている。


「オデット・ド・マルテルと言ったな。ガストンの娘がこれほど豪快で、これほど美しいとは。気に入ったぞ!」

「恐悦至極に存じます、王よ」


一応、形だけの礼をとる私に、王妃マルガレーテがふっと妖艶な笑みを浮かべて近づいてきた。

彼女は私の耳元に顔を寄せると、周囲に聞こえないような小声で囁いた。


「……ねえ、あなた。本当は、人間じゃないでしょう?」


一瞬、私の身体がこわばった。

だが、王妃の瞳に宿っていたのは敵意ではなく、純粋な好奇心と親しみだった。


「うふふ、いいのよ。あなたのその、世界をどこか見下ろしているような、冷めていて気高い瞳……私、嫌いじゃないわ。今度、お茶でもいかが? ああ、あなたならお茶よりビールかしら?」

「……王妃様のお誘いなら、喜んで」


どうやら、勘の鋭い王妃様に見抜かれかけたようだけど、悪い気はしなかった。


こうして私の前代未聞の夜会デビューは、国王夫妻という最大のバックアップを得て、大成功のうちに幕を閉じたのだった。

しかし、この「キレイすぎる騎士」が、後にさらなる大騒動を引き起こすことになるとは、この時の私はまだ知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ