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七十八章 †不可解なるカギ†

 

 † † †


 数分前。

「ディグラム先生!」

 ウルマロによって学園の大講堂に飛ばされたショウは、魔法生物科の教師ディグラム・ラオを見つけて駆け寄った。

「おーショウくん、どうしたん?」

「そ、それが……──」

 ショウは先程地下で起きた出来事を簡潔に話す。


「ああ、持ち場離れるからお願いします言(ゆ)うてどっか行ったんはそれか……」

 話を聞いたラオは納得したように口元に手を当てた。

 フシオがズゥルの封印された地下牢へと近付いた段階でウルマロは異変に気付いていたようだが、ウルマロがこの大講堂にいたのは何もただ休んでいただけではなく、生徒たちを守る意味合いもあった。

 故に無断で持ち場を離れるわけにもいかず、他の魔導士たちにその引き継ぎを頼んでいたのだ。

 駆けつけるのが僅かに遅れたのはそのためだ。

 無論、あの封印をそう簡単に破壊できると思っていなかったこともあるだろう。

「ま、心配せんとき!サク先生なら大丈夫や!」

 生徒の不安を取り除こうと優しく声を掛けるラオだが。

「そうですか……」

 ショウの顔は曇ったままだ。


「今の話、本当なのです!?」


 と、そこに割って入ったのは、学級長のドゥーズだった。

「ドゥーズさん、もう起きて大丈夫なんですか!?」

「大丈夫です!わたしは頑丈なのです!」

 ドゥーズは誇らしげに腕を折り曲げて、およそ子供とは思えない力こぶをアピールする。

「それで、今のどういうこと!?ウルマロ先生がピンチって!?」

 ドゥーズの後ろについて来ていたキルトが焦った様子で声を荒げる。

 その横には不安げなミノアも一緒だ。

「ズアド・リーさん、六年生の学級長さんなのです……!わたしはあの人にやられたのです……先生がピンチなら助けに行かないと……」

「ちょ、待ってやみんな!大丈夫や、サク先生は強いんやから……!みんなもよう分かっとるやろ?」

 作り笑いを浮かべながら、生徒たちを宥めるラオ。

 ──アカンて……生徒たち危険な目ぇに遭わせたら、僕がサクちゃんに殺されるわ……。

「ですが……僕だって信じたくないけど、先生は押されている様子でした……!手遅れになってからじゃ遅いです!僕たちじゃなくてもいい、強い魔導士を早く援護に向かわせてください!」

「分かっとる、分かっとるよ。一旦落ち着いてな」

 騒ぐ生徒たちに狼狽えながらも、ラオは懐から自分の魔導書を取り出して開き。

「"通話《コール》"」

 と唱える。

「誰?」

 魔導書から返ってきたのは、気怠げな女の声。

「あ、ベルジェーン先生?あのー、サクちゃん地下牢でめっちゃピンチらしいんやけど、行ってくれません?今すぐ」

 通話《コール》を繋いだ相手は、刻銘(ネームド)魔導士ムレファ・ベルジェーンだった。

「ウルマロが?……本当だ、戦ってる……相手は……昼間にウルマロが封印したっていう殺し屋か……分かった。すぐ行く」

「すんません、お願いします」

 短い通話を終え、ぱたんと魔導書を閉じる。

 そして生徒たちの方を見て、再び笑みを浮かべる。

「これで大丈夫や。ベルジェーン先生なら百人力やで」

 その言葉に四人は顔を見合わせ、一旦はほっと胸を撫で下ろした。

「ムレファ先生なら、きっと何とかしてくれますよね」

「当たり前よ!最強の魔導士なんだから!」

 四人の表情から不安はすっかり消え、笑みを浮かべる。

「ほらみんな、向こうでペリーマ先生がお菓子配ってるで。行ってきや」

「はーい」

 ラオが指差した講堂の一角では、優しげな高齢の女性教師がカゴにカラフルな菓子をたっぷりと詰め、生徒たちに配って回っていた。

 これも集められた生徒たちの不安を取り除くためだろう。


 だが、貰ったお菓子を四人で食べている最中、ショウが違和感に気付く。

「ムレファ先生……動いてないですね……」

「は!?どういうこと!?」

 キルトは険しい顔で立ち上がった。

「ムレファ先生のところに誰か……知らない魔力が現れました。数は七人……敵かもしれません……その対応に追われて、ウルマロ先生のことが後回しにされちゃってるのかも……」

 持ち前の魔力感知能力でショウは状況を的確に読み取っていく。

「ダメよそんなの!あたし行くからね!ウルマロ先生がやられるなんて絶対ダメなんだからっ!」

「わたしも行くのです!ズアドさんには借りがあるのです!」

 とドゥーズも立ち上がり。

「僕だって!」

 とショウも続く。

 三人はいても立ってもいられず講堂の出入り口へと走り。

「ま、待ってよぉ、みんなが行くならわたしも行くよぉ」

 ミノアも仕方なくそれを追った。

 しかし。

「アカンって言うとるやろ」

 と出入り口の前にラオが立ち塞がる。

「ど、どいてください!ウルマロ先生を助けに行かなきゃ!」

「せやからそれは──」

「ミノア!」

 キルトがミノアに何かの合図を出すと、ミノアはこくりと頷き。


「召喚《サモン》!」


 唱えると同時に、四人はラオの前から姿を消した。

「嘘ぉ!?あの子らまだ一年やろ!何で召喚(サモン)なんか使えんねん!」

 ラオは頭を抱えることしかできなかった。


 † † †


「先生!!」

 地下に飛んだ四人が目にしたのは、気絶しているウルマロの姿だった。

「……良かった、息はあるようです……」

 真っ先に駆け寄ったドゥーズが呼吸を見て、ほっと胸を撫で下ろす。

 しかしキルトは。

「そんな……ウルマロ先生がやられるなんて……!」

 と絶望的な表情を浮かべていた。

 誰よりもウルマロに憧れているキルトにとっては最悪の光景だろう。

 そんな中でミノアはキョロキョロと辺りを見回し、気付く。

「……あれ……?フ、フシオくんは……!?フシオくんも先生と一緒だったんじゃ……」

「そう言えば……」

 ドゥーズも同じように見回すが、フシオの姿は見当たらない。

 無論、ショウもフシオがいなくなっていることには気付いており、すでに目を瞑って魔力感知に集中していた。


「フシオくんは……ズアドを追っています……!」


 † † †


 そして現在。

 キルトをウルマロの元に残して、三人の子供たちがズゥルの前に現れた。

「フシオくん!大丈夫なのです!?」

 とドゥーズが駆け寄る。

 フシオはくるりと振り返り。

「ようオマエら!遅かったな!オレはコイツを子分にしたところだ!」

 いつも通りの表情、いつも通りの口調でそう言った。

 ──戻った……?

 ──……つうかこのチビどもマジか……学園から十キロは離れてるぜ……この距離で感知できるのも召喚(サモン)で飛べるのもマトモじゃねえ……。

 二つの意味で呆然とするズゥル。

「子分って何ですか!こんな人子分にしちゃダメですよ!」

「うるさいガリベン!オレに指図するな!」

「分かっているのですか!?その人は危ない人なのです!」

 などと、ショウとフシオとドゥーズは言い合いを始めているが、ただ一人。

 ミノアはじっとズゥルから目を離さなかった。

 ──コイツ……確か"十年に一人の天才"とか噂になってた一年……なるほど、明らかに雰囲気が違(ちげ)えな。魔法の才能だけじゃねえ。体格、姿勢、意識、視線、呼吸の間隔……佇まいの全てが学生のレベルを逸脱してる。

 ──まるで熟練の兵士を前にしてるみてえだ。


「そんなことよりズアドさん!」


 と急にドゥーズの矛先が向き、ぴくんと耳を立てるズゥル。

「あら、誰かと思えば一年学級長のドゥーズさんじゃないですか。どうかされましたか?」

 ズゥルは潜入中に演じていたズアドの顔に素早く切り替え、柔らかな笑みを浮かべて対応する。

「やめるのです!あなたが悪い人だということはもう分かっているのです!」

「ハッ、てめえもそれか。何でもかんでも善悪で判断しやがる。これだからガキはくだらねえ」

「あ、あなただってまだ子供なのです!何故……何故こんなことをするのです!あんなに真面目で優秀で、みんなの憧れだったあなたが……!」

「決まってんだろ。教師からの信頼を得れば、より上級の魔法も教われるし、一般生徒じゃ入れねえ魔道具庫にも入れる」

「……!」

 もはや自分の知るズアドではないと、こうして話すことで改めて理解し、ドゥーズはショックを受けるとともに、段々と湧き上がる怒りに拳を握り締める。

「で?何の用だ?戦(や)るのか?アタシは別に良いぜ」

 ズゥルはそう言って指で挑発するが。

「……わたしたちは……フシオくんを連れ戻しに来ただけなのです……!」

 ドゥーズは怒りに呑まれることなく、そう言った。

「あ?何だよ」

「先生が負けた相手に僕たちが勝てるわけないってことくらい、分かってるつもりです」

 ショウもズゥルを睨みつつ、怒りを押し殺す。

 同じくミノアも、強い殺気こそ見せつつも攻撃を仕掛ける様子はなかった。

「ハッ、そうかよ、勝手にしろ。アタシに二度と関わろうとするんじゃねえぞ。そん時は、殺すぜ」

 ズゥルは興醒めしたように振り返ると、四人に背を向けて去っていく。

 それを見た三人は緊張が解けたのか、ふぅー……と長い溜め息を溢した。

「ほら、帰りますよフシオくん!」

 ショウとドゥーズがフシオの両脇から腕を掴んで連行する。

「離せバカ!くそっ、力強いなゴリラ女め!」

 と暴れるフシオをよそにミノアは杖を構え、やがて四人の足元に魔法陣が展開されると。

「召喚《サモン》」

 ミノアが唱えた瞬間、四人は学園へと移動した。


 召喚《サモン》を発動した魔力を感じ取ったのか、去り際のズゥルは足を止めて振り返る。

 ──学園に帰ったか。

 ──アイツ、何で元に戻った?アタシみたいに普通のガキを演じてたわけじゃねえ。明らかに外部の干渉を受けてた。これ以上目撃者を増やしたくなかったか、それともアイツを操るための力が足りなくなったか……。

 ──何にせよ、もう関わらないに越したこたあねえ。


 ──が、面白え。


 ズゥルはニタリと笑う。

 ──神話って言葉に反応して出てきやがったってこたあ、答え合わせみてえなもんだ。"天の教団"で見たあの伝説を、現代に甦らせようってのか?

 ──そしてアタシが学園で手に入れた三つの要素……一つは魔法。一つは、魔導士に封印された"四鎋戦犯"カカの情報。最後の一つは……このカギ。

 ボロボロにはだけた制服のポケットから、不思議に湾曲したカギのようなものを取り出した。

 その持ち手の部分には、木の幹の中に胎児が宿っているかのような刻印が施されている。

 ──依頼にゃ関係ねえが、魔道具庫の中で妙に気になったんで盗んできたんだよな……この持ち手の模様、どうも教団のもんと似てやがる……教団の信徒は一匹残らず殺したはずなんだがな。


「ハッ……凄えもんが見れそうだ」



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