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七十一章 †共鳴せし竜†

 

 † † †


 数時間前、筋肉大膨張号Xスーパーパンプアップ・エックス機内にて。

 カガリから説教を受けかけていたアダー、ハルクス、クツミカの三人は、タイミングよく入ったイラルギからの通信のお陰で説教を回避した──かに思われたが、結局メルトとの特訓後の休憩時間にしっかりと説教を受けていた。

 それから三人は自身の持つ能力や装備、その機能について、全てを洗いざらい話した。

 その中で、クツミカも自身のまだ見せていない能力について解説する。

「これは知っているだろうが……僕の"竜憑共鳴(ルナ・モタナー)"は、効果範囲内で対象と定めた者全員を強制的に"竜憑依(ルナ・ゴラド)"状態にさせる能力だ」

 元々ハルクスはこの能力を狙ってクツミカを仲間にしたのだ。

 その知識はすでに全員が共有しているが。

「勿論竜人以外には固有の能力が発現したりはしないけど……身体能力は飛躍的に上昇する。その平均的上昇率は、およそ五倍とも言われているよ」

「そんなに!?」

 具体的な数字を出されてメルトとアダーは目を見開く。

 二人の反応に満足げな様子で、ファサァ、と髪を払いながら、クツミカは続ける。

「この力を得た全員が、五倍の力で殴れて、五倍の速さで走れて、五倍の高さを跳べるわけだ。耐久力も五倍になるから体への負荷も心配要らない。ンフフ……凄いだろう?」

「ああ。確かにめちゃくちゃ強えが……そんなもんを連発できるとは思えねえ。何か制約があるんじゃねえのか?」

 カガリは冷静に尋ねる。

「ンフフ、流石……ご明察だよ。僕の竜憑共鳴(ルナ・モタナー)は一度使うと四日間──正確には九十二時間の間発動できない。使い所は考えなければならないだろうね」

「……なるほどな……よっぽど強え相手じゃなきゃ無駄打ちになっちまうかもしれねえわけだ」


 † † †


 現在。

「いいのかい?ここで使えば四日間は使えなくなるんだよ?」

 カガリの提案に、クツミカは改めて確認を取る。

 確かにパペティアは強く、"死体人形の舞踏会ボール・オブ・ドールズ"も厄介な魔法ではあるが、カガリは一対一である程度食らい付いていた上、残る死体もフリーズのみ。

 クツミカにはそれが絶対的な差とは思えなかった。

 が。

「ここで死ぬよりマシだろ」

 カガリは言う。

「……それもそうだ」

 クツミカはその言葉を信じて頷くと、両手を胸の前に構えた。

「あ?何か知らねえが……させると思うかよ!」

 そう言ってパペティアがクツミカへと差し向けたのは、先程ハルクスたちが各個撃破した三人の魔人たちだった。

「させると思うか?」

 その同時攻撃を、カガリがクツミカの盾となって受け止める。

 クツミカはカガリの背中を見て神妙な笑みを浮かべた。


 ──僕はね、ずっと人間なんてのは、庇護対象だと思っていたんだ。

 ──いや、僕だけじゃない。竜人のほとんどがそう思っているだろう。人間は弱い生き物で、僕らが守ってあげなきゃ簡単に死んでしまう。事実今もドラガウルでは、竜人たちが国中に配属されて人間たちを守ってる。

 ──だから村長から"仲間を探している人間たちがいる"と聞かされた時、初めは僕がそのリーダーになって、守ってあげなくてはと思っていた。

 ──だけどカガリ、キミは僕の知る人間とは違った。僕ら竜人族を遥かに上回る身体能力と戦闘センス、そして強固な精神力……僕はキミがあの運命の遊戯(ゲーム)で戦う姿を見た瞬間から、魅せられてしまったんだよ。

 ──キミになら命を預けられると。

 ──キミとなら世界を救えると。


「行くよ……──"竜憑共鳴(ルナ・モタナー)"!!」


 クツミカは叫び、構えた両手を大きく広げる。

 同時に、クツミカの青く光っていた瞳が七色に輝き始め、さらにクツミカを中心として七色の光が放射状に拡散されていく。

「何だ……?」

 その能力の正体が分からず、パペティアは眉を顰める。

 が、次の瞬間。

「だらあっ!!」

 とカガリが吠え、三人の魔人たちが一斉に吹き飛んだ。

 カガリの瞳は、青い光を宿していた。

「な……魔力無しでアイツらを……!」

 パペティアは目を見開く。

 紅蓮拳を発動すらできないまでに魔力を失っていたカガリが、魔人に太刀打ちできるとは考えていなかったのだろう。

 パペティア自身もスパイラルの血を継いでいるからこそ、その異常さが理解できるのだ。

 ──うちのガキどもほどじゃないにせよ、アイツらだって雑兵の中じゃ上澄みの方だ……!

「一体何しやがった!?竜人!!」

 パペティアは初めて狼狽する姿を見せるが。

「歯ぁ食いしばれ!!」

 その答えを聞く暇もなく、カガリは高速でパペティアに接近しながら、拳を振りかぶっていた。

「っ!?」

 そのまま突き出された拳は紅蓮拳にも匹敵する威力を宿し、パペティアの魔力防壁を貫いて右頬に直撃する。

 口内を切ったのだろう、血を噴き出しながら、パペティアは十メートルほど吹き飛んで転がっていく。

 間違いなく大ダメージを負わせたが、カガリはそれでも攻撃の手を緩めず、拳を構えてさらに詰め寄る。

 ──クソッ、何が起きやがった……!

 と起き上がったパペティアの顎に。

「らあっ!!」

 接近したカガリの前蹴りが入り、高く跳ね上げられる。

 そして宙を舞うパペティアの真上にはクツミカが先回りしていた。

 その背に鋭い手刀を突き立て、腹部を貫通する。

「ごはっ……!」

 大量の血を吐くパペティア。


「二人とも離れてっ!」


 そうやってカガリたちが攻撃している間に、数十メートル離れた位置でアダーは砲身が五メートルほどもある巨大な大砲を完成させていた。

 その砲口はパペティアを捉え、帯電によるスパークを迸らせる。

 即座にカガリとクツミカがパペティアから距離を取ったのを確認し、アダーは夢想の絵筆アメツァレン・ピンツェラを高く掲げ。


「いっけー!"スーパーアダーちゃんキャノン"っ!!」


 叫びながら絵筆を振り下ろすとともに、激しい稲妻を纏ったレーザービームが夜空に直線を描いた。

 カガリとクツミカの攻撃によるダメージでパペティアは反応すらできず、ビームは心臓部に直撃する。

 意識を失ったのか白目を剥いたまま、パペティアは数十メートル吹き飛んで落下した。

 体は黒焦げになってひび割れ、力無く倒れたままぴくりとも動かない。

「いっえ〜い!アダーちゃん大勝利〜!」

 とピースを掲げるアダー。

「技名、ハルクスに引っ張られてんじゃねえか」

 カガリが怪訝な顔でツッコむと。

「ププ、バレた?だってそんな急に名前思いつかなくってさ〜」

 アダーは照れ笑いしながら答えた。

 筋肉大膨張号Xスーパーパンプアップ・エックスに搭載された兵器、"筋肉大膨張砲スーパーパンプアップ・キャノン"の影響を大いに受けていることは明白であった。

「にしてもすっごいね~これ!めちゃくちゃ速く描けちゃった!」

 アダーの瞳も青く光り、"竜憑依(ルナ・ゴラド)"状態になっているようだ。

 それを聞いたクツミカは静かに微笑し。

「ンフフ…… 肉体派じゃないキミにはあまり効果がないと思っていたけど、案外相性が良いのかもしれないね。どうやら僕のこの力は、創造力をも加速させるようだ」

 と新たな発見を喜んだ。



 一方でフリーズと戦闘中のハルクスは。

「はあ……狡いわね本当。空飛ばれちゃ、私には何もできないじゃない……」

 氷塊に閉じ込められたメルトを抱えて、上空から放たれる魔法攻撃から逃げ回っていた。

「──……なーんて、言うと思ったかしらっ!?」

 と、急に足を止めると、フリーズの方を振り返り。

 氷塊を投げつけた。

 時速二百キロほどの速度でその氷塊は空中へ突き抜けたが、フリーズは浮遊移動(フロートムーヴ)で軽く横に移動して容易くかわす。

 そのまま誰もいない空の彼方へ飛んでいく氷塊──が、突如として砕け散った。

 メルトが内側から氷を破ったのだ。

 ──うふっ、やっぱりね♪

 ──向こうでクツミカちゃんが発動したのは"竜憑共鳴(ルナ・モタナー)!メルトちゃんの体もあの光を浴びた途端、氷の中で筋肉がびっくんびっくん再起動したのを感じたのよ!

 ──さあ、やっちゃってメルトちゃん!

 氷塊から現れたメルトに、まだフリーズは反応できていない。

 メルトは空中で魔力推進し、音もなくフリーズの背後へ高速で接近。

 起牙丸を構え──すれ違いざまに振り抜く。

 左肩から右腰に掛けて真っ二つに斬られたフリーズは、静かに落ちていった。

「へへっ……ハルにゃん、ナイスだぜ!」

 とメルトがハルクスを見て親指を立てると、ハルクスも応えるように親指を立て返した。



「……彼女、死んだのかい?魔力とやらで分かるんだろう?」

 クツミカはカガリに確認する。

「ああ。魔力は急激に消えていってる……コイツは死んだ時の反応そのものだ……だが……」

 カガリが目をやったのは、メルトたちの方だ。

死体操術(ネクロマンシー)が解けてねえ」

 そこに見えたのは、ガクガクと震えながらも立ち上がる首無しジールの姿だった。

 フリーズもまだ蠢いているが、体が切り離されているせいか立ち上がることもできないようだ。

「どういうことだい……?魔法というのは死後も続くものなのか?」

「んなわけねえだろ……魔力は生物の特権だぜ」

「つまり……どゆこと?」

 アダーは口元に指を当て、首を傾げる。

「まだいるのかもしれねえ……この死体たちを操ってる、本当の親玉が」


「いねえさ」


 と、答えたのは、黒焦げの死体となったパペティアだった。

 そして死体はゆっくりと、糸に吊られる人形のごとく立ち上がる。

「ほえぇ!?何この人!不死身なの!?」

 アダーはビビりながらクツミカの背に素早く隠れる。

「どうなってやがる……」

 カガリにもその仕掛けは分からないらしく、怪訝な表情で睨んだ。

「くくっ……足りねえ頭で考えてろよ!死ぬまでに答えが出せるんならなぁ!」

 パペティアは地面を蹴り飛び掛かる。

 気付けば先程カガリが吹き飛ばした三人の魔人も起き上がっており、パペティアと同時に攻撃を仕掛けていた。

 四方から接近する魔人たちの攻撃を、クツミカとカガリがそれぞれ二体ずつ受け止める。

「ひぃ~!」

 とその真ん中で頭を抱えて蹲るアダー。

「それだけのパワーアップ、長時間は続かねえだろ!くくっ、ソイツが切れたらてめえらに勝ち目はねえぞ!それまでにあたしらを殺し切れるか!?」

「うっせえよ!」

 カガリはパペティアの二の腕を両手で掴むと、即座に膝蹴りを叩き込んでへし折る。

 同じくクツミカも受け止めた魔人の腕と脚を手刀で切り裂いた。

「死なねえんなら動けねえようにすりゃあいい!」

 立ち上がることもできないフリーズの姿を見れば、それは一目瞭然の攻略方法だった──が。

「残念だったなぁ!!」

「!」

 切り離された手脚が浮かび上がり、一斉に襲い掛かった。

 カガリとクツミカはその攻撃も叩き落とすが、二人の顔には焦りが浮かび始める。

浮遊移動(フロートムーヴ)か……そりゃそうだ。魔導士ならこれくらい出来て当然だわな」

 カガリはすぐに攻撃の正体を察した。

「やれやれ……貫いても斬っても動いてくるんじゃあどうしようもないね」

「クツミカ、あんたがリヴァスを倒した時のヤツ、使えねえのか?」

 "運命の遊戯ルアバ・アル・マシール"の中で行われたクツミカとリヴァスの戦い──不死にも近い生命力を誇るリヴァスとの勝敗は、クツミカの放った"熱"による完全蒸発で決着した。

 あの技ならば、炎の効かないパペティアはともかく、他の魔人たちの死体は葬り去ることができると考えたのだろう。

「無理だね。あれは攻撃範囲が広すぎる。仮想空間だったから無遠慮に解放できたけど、こんな街中で使えるもんじゃあないよ」

「チッ、やっぱりか……あたしももう紅蓮拳は出せねえし……」

 叩き落としても叩き落としても浮き上がって攻撃してくる死体たちに、二人は疲弊する一方だ。

 ──パペティアは死んでる……それは間違いねえ。だが、動き出した途端にまた魔力が溢れてきやがった……この魔力はどこから来た……?"考えろ"と言うからにゃあ何かカラクリがあるはずだ。

 ──魔力の元を探れ……!

 カガリは攻撃を捌きつつ、魔力感知を研ぎ澄ます。


 と、その時。

「どわあっ!」

 カガリたちのすぐ横へ勢いよく転がってきたのは、メルトだった。

 顔面にジールの紅蓮拳を受けて吹き飛ばされたようだ。

「メルト!」

「大丈夫だ!そっちに集中してくれ!」

 カガリの呼び掛けにメルトは即答する。

 ──まずいな……メルトの魔力も限界だ。素のパワーじゃいくら五倍になってもアイツには敵わねえ……。

 ──向こうの魔力はほとんど減ってねえし、防壁無しで紅蓮拳をもろに受けたら死ぬぞ……いや、アイツのじゃなくて操ってるヤツの魔力か……。


 ──……待て。何でアイツの魔力を感じた……?


「……そういうことか。ようやく理解したぜ、あんたの技」

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