五十九章 †集いし星々†
ノウズと双子の魔人が情報の擦り合わせをしようと互いに歩み寄っていると。
「学園長!無事ですか!」
そこにウルマロとムレファが"召喚"で出現した。
双子は反射的に両手を構え、当然ウルマロたちも身構えるが。
「待ちなさい」
とノウズが双方の間に杖を挟んで制止した。
「……どういうこと?」
ムレファは冷静に尋ねる。
ノウズは先程の出来事を全て説明した。
「……ほ、本気ですか?」
話を聞いたウルマロの表情は、途轍もない拒絶反応を示していた。
「魔族が人類側に付くなんて聞いたこともありません……それに、学園に潜入してた暗殺者みたいな人に重大な被害を受けたばかりなんです。その魔人たちだっていつ裏切るか分からない……到底受け入れられません」
正体不明の殺人者ズアド・リー──近しい人物が人間の手で殺されたという初めての経験は、ウルマロを疑心暗鬼に陥らせるには充分すぎる出来事だった。
「ウルマロの言うことも尤もだ。魔人だからって全員殺せ、なんて思想は私には無いけど、だからって味方に引き入れるには危険すぎる」
と隣のムレファもウルマロに同意する。
「ふむ……確かにのう。儂らと魔人の間には大きな確執があるのもまた事実……そこでじゃ、二人にはこれを着けてもらう」
と、ノウズは二つのリングを取り出した。
「それは……"魔力吸収角輪"ですか……?」
主に"狂魔症"を発症し"魔人化"してしまった患者や、捕えた魔人に対して使われる、文字通りツノに装着した者の魔力を吸収するリングだが。
「いや、違う」
とムレファが否定する。
魔道具技師でもあるムレファは、一目でそのリングの正体に気付いていた。
「これは"友好の腕輪"だよ」
「……何だよそりゃ?」
ライティが怪訝な顔で尋ねる。
「文字通り、友好関係を築くための腕輪じゃ。これで儂と主らの間に契約を結ぶ」
ノウズは自身の腕に着けた腕輪を見せる。
「この腕輪は思考に直接作用し、契約相手には一切の攻撃ができなくなる。さらに相手が仲間だと認めている相手にも同様の効果が働く。要は人間には攻撃できなくなるわけじゃな」
「そんなもん、こっそり外しゃいいじゃねえか」
「一度両者が装着し魔力を接続した時点で刻印が手に浮かび上がり、契約は完了する。刻印が刻まれておる間は、腕輪を外しても効果が続くというわけじゃ」
「……その刻印さえ刻めば、邪魔な腕輪は外していいということか」
「うむ」
レフティの確認にノウズは頷く。
双子はお互いの意思を確認するように顔を見合わせた後、ノウズの方を向き直し。
「俺はそれでいいぜ。ライザーをブッ殺せるんならな」
「俺も構わない。だが、それ一つで二人ともお前と契約できるのか?」
レフティの問いにノウズは。
「鋭いな。契約を結べるのは一人につき一人だけじゃ」
ともう一つの腕輪を取り出し。
「ベルジェーン先生」
「……ああ」
ムレファに腕輪を手渡した。
「儂ら二人は現代において三人のみ存在する"刻銘魔導士"……この人界の歴史上でも僅かに二十人しか認められていない、最高ランクの魔導士じゃ。契約相手としては充分じゃろう」
ノウズに紹介されたムレファは得意げな顔をしながら、渡された腕輪を右手首に装着する。
「へえ、道理で強えわけだ。いいぜ。よこせよその腕輪」
ライティとレフティもノウズから腕輪を素直に受け取ると、見様見真似で右手首に装着した。
「これでいいのか?」
「うむ。では腕輪に魔力を込めてくれ」
その瞬間、四人の腕輪が青く淡い光を放つ。
放たれた光は線のように伸び、ライティはノウズの、レフティはムレファの腕輪と接続された。
やがて四人の手の甲に、薔薇の花弁のような形の赤い刻印が浮かび上がった。
「……これで契約は完了じゃ」
ノウズは安心したように微笑を浮かべて言う。
「コイツが刻印か。あんま俺の趣味じゃあねえな」
刻印を見たライティは片眉を上げつつ、腕輪はもう要らないと投げ捨てた。
「これこれ、ポイ捨てはいかん」
とノウズはその腕輪を"浮遊移動"にて回収し。
「……さて、それでは聞かせてもらおうかの。魔族の戦力、戦略……そして魔族が一体何を企んでおるのかを」
† † †
「間もなく惑星クロスに到着。星間跳躍を終了する」
宇宙。
惑星クロスと呼ばれるその青い星の大気圏外に、"星船"らしき光る円盤が現れた。
イラルギがオルデナ本部に要請していたという応援がようやく着いたのだろう。
「いやぁ、久しぶりだなぁこの星に来るのも」
船内の壁面に映し出された星を見ながら、ツンツンと逆立った青髪のガルンビカイナ人はニコニコと笑みを浮かべて言う。
「呑気なものだなメルクリオ。今回の攻撃は今までの比ではないと本部からも忠告されただろう」
腕を組みながら眉を顰めて注意したのは、オレンジ色の長髪を編み込みポニーテールにした女性のガルンビカイナ人。
星船を操縦していたイラルギと同じように、頭部のヘッドホンのような機械を天井から伸びるケーブルに接続していることから、この女性が操縦者なのだろう。
「フピテルの言う通りだよ!みんな、気を引き締めていこう!」
と明るい声で音頭を取ったのは、他の乗組員よりも少しガタイの良い紫髪の男。
「うるせえよ。"極使八星"最弱のてめえが仕切ってんじゃねえぞ、ネプトゥーノ」
卓に座って脚を組み頬杖をつきながら口撃するのは、金髪のリーゼントを携えた男。その顔面には右上から左下にかけて大きな傷跡が残っている。
「ごめんアルティサル!」
「だから声がでけえっつってんだ馬鹿」
アルティサルと呼ばれた男は呆れたように溜め息を吐く。
「まあまあ、良いじゃん。そう怒るなよアルティサル。八星の序列なんて大昔に撤廃されたもんなんだからさぁ」
メルクリオと呼ばれた青髪はやはり笑みを浮かべながらアルティサルを宥め。
そしてもう一度、徐々に大きくなる青い星へと視線を戻した。
「いやぁ、それにしても嬉しいなぁ。ルッラやサトゥルノたちもこの星に向かってるんだろ?一体いつぶりだろうな、八星全員が揃うのなんて」
「てめえはどんだけ能天気なんだ。大体、全員は揃わねえよ……序列四位のマルテは、もう魔人に殺されたんだからな」
アルティサルの言葉で、船内は僅かな沈黙が訪れる。
沈黙を破ったのは、ネプトゥーノと呼ばれた紫髪の男だった。
「うおおおおおっ!!必ず仇は打つぞ!待ってろマルテ!」
涙を流しながら拳を握り締めて、誓いを立てるように言う。
「ああもう……この声量なんとかならねえのかコイツは……」
「はっはっは!それがネプトゥーノの良いところじゃないか。それに……気持ちはみんな同じだろ?」
メルクリオの問い掛けに、また少しの沈黙が訪れ。
「ああ」
と三人の返事が揃った。
それを聞いたメルクリオは力強く頷いて、拳を前に突き出す。
「魔族に見せつけてやろう、俺たちオルデナの力を」
ちぐはぐな四人に見えて、と言うより実際にちぐはぐだが、それでも結束は固いようだ。
「そろそろ大気圏に突入する。準備はいいな?」
操縦者の女──フピテルが声を掛ける。
「おう!」「ああ」「勿論だ!」
と他三人は自身の装備を確認しつつ、頷く。
次の瞬間、星船は大気圏に入り、真っ赤な炎に包まれた。
† † †
クリンゴ共和国・ワルチア。
やはりここにも魔族は再び出現していた──が、すでに大きく消耗していることは魔族側も分かっていたのだろう、他の主要都市などとは違い、現れた魔人は僅かに二人、残りは小型の魔獣ばかりだった。
そして事実、それでも今のワルチアにとっては致命的な攻撃だった。
「ぐっ……!ちくしょう……こんなのどうすりゃいいってんだよ!」
目の前で魔人に蹂躙されていく軍隊を見ながら、娑卍那組の生き残りであるチワワ獣人チウスは小鬼型の魔獣に噛み付かれながら、自分の無力さを痛感していた。
ただでさえチウスの身体能力では小型の魔獣にも歯が立たないというのに、休む間も無く再侵攻が始まったため、体力もとうに限界を超えている。
「はあああっ!!」
と、黒ネコ獣人クロスがその横から全力でタックルし、噛み付いた魔獣を弾き飛ばした。
しかしその程度では魔獣は死なず、すぐに起き上がってくる。
「クソッ……こんな魔獣すら倒せないとは……」
クロスも同じく自分の弱さを痛感していた。
無論、この二人に限った話ではない。
ごく一部の強者を除けば、人類は通常の魔獣にも生身では対抗できない。そうでなければこれほどまでの被害が出るはずもない。
「助かったぜクロス……しかしどうする……」
「もはや魔力貫通弾どころか通常の弾薬すら底を突いた……仮に魔獣を倒せたとしても、レオザークさんも十勇の末裔もいない今、魔人には太刀打ちできない……打つ手無し……ですね……」
戦力差は絶望的だった。
その時。
「教えようか?"力"の使い方」
二人の横から何者かが口を挟んだ。




