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五十一章 †立ち上がりし王†

 

 † † †


 ヴァリアール城・玉座の間。

「バレット様の魔力が完全に消失しました……敗死したものと思われます」

 魔力を感知して戦況を把握し、ポンダーは報告する。

「しかし敵ももはや虫の息……先程送り込んだ精鋭部隊で問題無く処理──……」

 が、突然その口が止まった。

「どうしました?ポンダー。早く言いなさい」

 B2は眉間に皺を寄せて言う。

 残る七落閻(ドミネイトセヴン)はポンダーのみ、自分と同じ双魔統(ツインルーラー)のダークファイアすらも戦場に駆り出されるという、予想だにしていなかった現状に苛立っているのだろう。

「こ……この魔力は……マリカ・マウト……!何故彼奴が……」

 ポンダーが感じ取っていたのは、ハクの元に現れたマウトの魔力だった。

「は?マウト?」

 とB2は怪訝な顔をする。

「せ、精鋭部隊が……蹂躙されております……他にもいくつかの魔力が同行しておりますが、どうやら魔人ではなく人間……一体何を企んでいるのか、私めには理解できかねますじゃ……」

 ポンダーはただただ困惑し、眉間に手を当てながら溜め息を吐く。

 玉座に座ってそれを見下ろしていたライザーは、三日前、マウトが念話で話していた言葉を思い出していた。


  ──じゃが、あまり気は抜かぬことじゃな。

 ──何?

 ──敵はどこに潜んでおるか分からぬ、ということじゃ。


「……そういうことか。フン、下らぬ」

 得心がいったように小さく呟く。

「はっ、何か仰られましたか?ライザー様」

 B2はその言葉を聞き逃してくるりと振り返るが。

「もう良い。貴様たちではあの女の相手はできまい」

 そう言ってライザーは、二十メートルを超えんとする巨躯をゆっくりと立ち上がらせた。


「我の邪魔となるならば、貴様とて潰すだけだ──マリカ・マウト」


 † † †


「死ねクソババアァ!!」

 マウトの一団が現れてから僅か数分──瞬く間に魔族は倒されていき、最後の一人となった魔人の男が特攻を仕掛けた。

 が、マウトはその男の拳をひらりとかわし、顔面を掴む。

「うぬらはつまらぬ」

 冷めた目でそう言うと、そのまま頭部を握り潰した。魔人は最期に何か捨て台詞でも吐こうとしていたようだが、その言葉を発する暇すらも与えずに。

 飛び散った鮮血は当然マウトにも降りかかるが、全て体表を覆う魔力の壁に阻まれて落ちていく。

「分かってはいましたが……強い……本当に……」

 カイは呟く。

 そのあまりに一方的な蹂躙を見ていた全員が、マウトの強さに圧倒されていた。

「ああ……敵も決して弱くはなかった。恐らく彼ら全員、私とリヴァスが戦ったパンチャーという魔人よりも格上だろう……」

 レイボンも戦慄した様子で言う。

 実際マウトによってその身に影響を受けたカイとレイボンですら、マウトの強さは全く測れていなかったのだ。

「何者なんだ、あんた……」

 ハクが尋ねる。

「妾はマリカ・マウト──魔人じゃ」

 右手にのみ付着した汚れを払い落としつつ、ハクの方へと歩きながらマウトは名乗った。

「魔人……?それがなんで俺を助けた……つうかそっちのあんたらは人間だろ……?」

 と横のレイボンたちに目を向けると。

「ああ。魔獄軍を倒すために彼女に協力している」

 レイボンは端的に答える。

「はあ?魔獄軍を倒す……?魔人がか……?あーもう訳分かんねえ」

「くく……そう複雑に考えずとも良い。うぬと同じじゃ。妾たちは楽しんでおるだけじゃ、この"ゲーム"をな」

「ゲームって……別に俺はそんなつもりねえよ」

「くくっ、あれだけ楽しそうに戦っておきながら、よく言う」

「見られてたのかよ……」

 ハクはバツの悪い顔で吐き捨てる。


 しかし突如、衝撃に目を見開いた。

 それはマウトも、他の全員も同様だった。

「……何だ……この魔力は……っ!?」

 ハクは全身から汗が噴き出すのを感じながら、魔力の元を探る。

「ケケッ……ヤベえのが来やがった」

 とサイガも苦笑を浮かべるが、やはりその魔力がどこから放たれているのかは分かっていないようだった。

 同じくカイも反射的に剣を構え、接近する敵を警戒する。

「これは……魔力の圧だと言うのか……?」

「レイボンも分かるんか……?何が起きてんねん……!」

「た……立っていられない……!」

 レイボンとリヴァス、そしてシガナも、その途轍もない力の奔流に押し潰されるように跪いた。

「くくっ……一般人にすらその力の圧を感じさせ、感知に長けた者ですら発生源を特定できぬほどの、莫大で濃密な魔力……そんなもの、彼奴に決まっておる……!」

 瞬間、マウトたちに巨大な影が落ちる。

 全員即座に上を見上げる。

「のう、ライザー……!」

 直後、轟音とともに地面にクレーターを作りながら、魔獄王ライザーはそこに降り立った。


「マウト……やはり貴様はあの時、消しておくべきだった」


「くはははは!頂上決戦といこうか、ライザー!」


 † † †


「馬鹿な……ライザー様が前線に……!?何をしているポンダー、B2……!」

 レヘン、ゲンマと交戦中のダークファイアは、その上空を通り過ぎたライザーの魔力を感じ取り狼狽していた。

「な、何今の……!とんでもない何かが……ハクさんの方に……!」

「でもハクさんのところにも誰かが助けに来てるみたいだし……気になるね」

 ライザーの魔力に気圧された様子のゲンマと、あくまで冷静に状況を見るレヘン。

 この三人の戦いは泥沼の様相を呈していた。

 レヘンたちが連携してダメージを与えても、ダークファイアの体は即座に再生してしまう。ダークファイアはレヘンたちを追い詰めこそするものの、あと一歩のところで"瞬間移動(ティレメタフォラ)"や霧の防御で逃げられる。

 相性もあるだろうが、力は完全に拮抗しているようだ。

「おっと!」

 ダークファイアがレヘンの背後から仕掛けた槍の刺突は、またしても瞬間移動でかわされた。

「チッ……」

 ──どうやら奴らの能力は、異様なまでに燃費が良い……子供の使っている"超能力"などという力はよく分からないが……サムライの方は恐らく、霧に魔力を融合させて自在に体から出し入れすることで、"魔力を消費する"という概念自体をほとんど無効化している。

 ダークファイアは苛立ちを露わにしつつも、頭では冷静に二人の力を分析していた。

 その時。

「"叢雲雨(むらくものあめ)"」

「!」

 ゲンマが上空に雲のごとく拡げた霧から、針のように細く尖らせた雨が降り注ぐ。

 翼を羽ばたかせて弾こうとするが、針はその翼ごと貫き、ダークファイアを地面に叩き落とした。

 さらに針の尻には返しが付いており、まるで昆虫標本のようにダークファイアを磔にする。

「小癪な……!こんな小細工をしたところで──」

「どーん!!」

 動きを封じられたダークファイアを見据えてレヘンが両手を合わせて握り込む動作を行うと、ダークファイアの体はぐしゃりと嫌な音を立ててボウリング玉ほどの大きさにまで圧縮された。

 が。

「無駄だと言うのが分からないのか」

 潰れたダークファイアの体は細かく散り散りになる。

 ダークファイアが変身したのは、スズメバチの大群だった。

 無論通常のスズメバチとは異なり、魔力推進による超スピードを手にしている。

 さらにゲンマへ意趣返しをするように、スズメバチはやがて空中で針へと変化する。

 どうせ推進で動かすのならば、より抵抗の少ないこの形状の方が速度も貫通力も上がると考えたのだろう。

 視認性も悪くなり、魔力で位置を把握するにしても、高速で飛び回る何万もの針の全てを常に警戒するのは、レヘンとゲンマを以てしても困難だった。

 レヘンたちは即座にそれぞれの能力で防御壁を作り出すが、その貫通力はこれまでの比ではない。

 一瞬にして壁は破られ、二人は針の餌食となった。

 余った針たちが空中の一箇所に集まり、ゆっくりとダークファイアの姿に戻っていく。

「……逃げたようだな」

 全身に針が刺さり針山のごとき状態となっていた二人の体は、白く霧散した。

 ゲンマの霧で二人分のダミーを作り出し、本体はレヘンの瞬間移動(ティレメタフォラ)でどこか違う場所へ飛んだのだろう。

 ──魔力は完全に消えたか……戻ってくる気配も……無い。この一瞬で私の感知範囲外に出るとは、やはり厄介な能力だ。しかし逃げるとは、思った以上に消耗していたらしい。

 静かに周囲の魔力を探りながら、ダークファイアは呼吸を整える。


「あっれあれ~?まさか逃したんですかぁ?あのダークファイア様ともあろう御方が~」


 そこに現れたのはB2だった。

 ニヤニヤと笑みを浮かべて煽りながら、ダークファイアと同じくその背に生やしたコウモリの羽のようなもので飛んでいる。

「B2……貴様何故城を離れた」

 ダークファイアの問いに、B2はすんと冷めた表情に変わり。

「馬鹿ですか。ライザー様が戦ってるんですよ。ボクたちも向かいます。今の三匹クラスの人間がホイホイ出てくるわけはないですし、城の守りはポンダー一人いれば充分でしょう」

「貴様……その驕りのせいで何人の幹部を失ったと──」

「大体」

 と、ダークファイアの説教を掻き消すように、B2は僅かに語気を強める。

「あんな城、どうだって良いでしょう。一時の拠点でしかない」

 そして再び不気味に笑みを浮かべ直した。

「ボクたちはこの後、天域を墜としに行くんですから」


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