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四十七章 †異なりし次元†

 † † †



 魔獄。

 "運命の遊戯ルアバ・アル・マシール"の終幕から一時間が経過した。

 マウトは屋敷の奥の部屋から出てくると、広間で休んでいた五人の仲間たちを見回す。

「くくっ……どうやら一時間の休憩は長すぎたやもしれぬのう」

「何?」

 壁に背を預けて座っていたレイボンは、静かに立ち上がって聞き返す。

「彼奴ら、すでにヴァリアール城に攻め込んどるぞ」

「!?」

 マウトが手のひらに出して見せた水晶には、魔族と戦闘するレヘンたちの姿が映っていた。

 ヴァリアール城──即ち魔族によって占拠された魔獄軍の本拠地に、レヘンたちはたった三人で乗り込んだのだ。

「滅茶苦茶ですね……無謀と言うべきか……」

 カイは苦笑を浮かべながら言う。

「そんだけ自信があるっちゅうことやろ。証拠に、あの涼しい顔見てみい。そこらの魔族じゃ足止めにもなっとらんわ。マウトが言うとったカガリより強いっちゅうんも、あながち間違いやないかもしれん」

 とリヴァスは冷静に水晶の中の映像を見つめる。

「私たちもこのまま攻めるか?私たちが敵じゃないと分かれば彼らと共闘する展開にも持ち込めるだろう」

「まあ慌てるでない」

 マウトはレイボンの提案を却下しつつ、中央のテーブルの椅子に腰掛けた。

 水晶をテーブルの上に持っていくと、その下に鳥類の脚のような、鋭い爪の四本指を模した台座が植物のようににょきりと生えてくる。

 台座に水晶をはめ、マウトがパチンと指を鳴らすと、直径十五センチ程度だった水晶は一メートルほどの大きさに変化し、より鮮明にレヘンたちの状況を映し出した。

「先ずはうぬらに見せておきたいのじゃ……彼奴らの次元レベルの戦いをの」



 † † †



 ヴァリアール王国・首都ヴァリオス北部──ヴァリアール城。

 その玉座に頬杖をついて座る魔獄王ライザーは、目の前で慌ただしく右往左往する魔人たちを見て、退屈そうに溜め息を吐いた。

 その傍らで七落閻(ドミネイトセヴン)の一角である老魔人ポンダーが申告する。

「人間の一団が北東よりこちらへ直進して来ております。数は三匹……対してこちらの被害は魔獣八千匹に魔人二十五名。かなりの手練れですじゃ。我々七落閻に匹敵するやもしれませぬ」

 そんな冷静な報告に、双魔統(ツインルーラー)・B2はメイド服のエプロンの裾を掴みながら怒りを露わにする。

「匹敵するやもしれませぬ……じゃないんですよポンダー!どうするんですか!七落閻ももう残り三人ですよ!?」

「いや、ダイザンも死んではいないとは言え行動不能に陥っている。ポンダーはここで戦況を把握する役割がある。実質、動けるのはバレットだけだ」

 と、同じく双魔統のダークファイアが隣から口を出した。

「もっとダメじゃないですかっ!」

 B2は牙を剥き出して怒声を上げる。


「……だったら俺が行きゃあいいんだろ」


 玉座の間の端で瓦礫に座っていたバレットが面倒そうに言い、立ち上がった。

「バレット!分かってるんですか!?お前が負けたら──」

「俺が負ける?誰に物言ってんだガキ」

 キーキーと喧しく喚くB2の台詞を遮って、バレットは睨め付ける。

 二メートルの長身から降り注ぐその鋭い眼力にB2は一瞬怯むも、直後。

「は、はあ〜!?でもお前腕斬り落とされたヤツに逃げられてんじゃん!!ダッサ!!説得力ねえんだよっ!!つうか見下してんじゃねえよバーカ!!」

 といつもの敬語も忘れてさらに険しい剣幕で捲し立てる。

「それを言い出したら貴様も"烈焔のカガリ"を取り逃がしただろう、B2」

「うっさいですよ!!どっちの味方ですか、ダークファイア!!」

「少なくとも貴様の味方でないことは確かだ」

「はああ!?別にこっちから願い下げだっつーのっ!!」

 結局バレットをそっちのけで双魔統の二人はいつものごとく言い合いを始めた。

「俺に行かせてください。二度とあんなヘマはしません」

 バレットはそんな双魔統を無視して、奥に座るライザーへ志願する。

 流石のバレットも魔獄王相手には双魔統にすら使わない敬語を使っているが、その言い方や眼差しから、そこに敬意はまるで感じられない。

 その瞳の奥にあるのは、ただ強い意志と覚悟だ。

「好きにしろ」

 ライザーは頬杖をついたまま答える。

 バレットの強い意志が伝わったのか、はたまた特に興味が無いのかは定かではないが。

「ありがとうございます」

 バレットは小さく頭を下げて、玉座の間を出た。

「……い、良いんですかライザー様!?また将を一人失うことになるかも──」

「戦わぬのならば価値は無い。これで負けるのならば、その程度の駒だ」

 喚くB2に、ライザーは静かに、且つ威圧的な声で告げた。


 † † †


 首都ヴァリオスの北東に隣接する中規模都市・カウテンツ。

 レヘンたちがカディ山麗樹海を出発してからおよそ十五時間──レヘンたちは乗り物など駆使することなくその身一つで走り抜けながら、ヴァリアール城より北東三キロメートル地点にまで差し掛かっていた。

 距離にしておよそ二千五百キロメートル。単純計算で時速百六十六キロ以上の速度を出していることになる。

 ただし途中で出遭った敵は全て殲滅しており、さらに休憩時間なども加味すれば、実際の移動速度はそれをゆうに上回るだろう。

「ここまで本拠地に近付くと、流石に魔獣も魔人も増えてきたな……お前ら大丈夫か?城に乗り込む前に休憩取ってもいいぜ」

 ハクは両手を後ろに伸ばし、紅蓮拳の炎をジェットエンジンのように放って移動しながら、レヘンたちに声を掛けた。

「ん、ボクは問題ないよ」

 と空中を一直線に高速飛行するレヘンが答える。恐らく超能力で自分自身を浮かせているのだ。

「僕も大丈夫です。この霧はほとんど体力を消耗しないので」

 同じくゲンマは自身の特殊能力である"霧"を足元に展開し、それに乗って飛行している。

「……良いなお前ら……紅蓮拳ずっと出してると魔力食うから割と疲れてんだけど、俺……」

 二人の涼しい顔を見て、ハクは羨ましげにぼやいた。

「じゃあ休もっか」

「おう、そうしてもらえると助かるぜ……この辺にどっか休める店とかあるかね」

「今は難しいんじゃないですか?流石に。どの店も閉まってますよ」

 三人は話しながら徐々にスピードを緩め、街中に降り立った。

 キョロキョロと辺りを見回して休憩場所を探すが、店どころか人っこ一人見当たらず、半ゴーストタウンと化している。

 建物も多くが損壊し、路上には大量の瓦礫やガラス片が散乱する他、そこかしこに血痕のようなものも残っている。

 今でこそ物静かな状態だが、ここは間違いなく戦場だったのだろう。

「おーい!誰かいないのかー!?いるなら出て来いよ!魔族ならもうこの辺にゃいねえぞ!もし出てきても俺らが追っ払ってやっから!」

 どこかで息を潜めているであろう住民へ向けて、ハクは大声で呼び掛けるが、返答は無い。

「もういないのかなぁ?どこかに捕まってるとか?」

 レヘンは首を傾げて言うが。

「いや、人の魔力は感じるぜ。誰も残ってねえわけじゃなさそうだが……ビビってんだろうな。まあこの状況じゃ無理もねえ」

 とハク。


「──それに……やっぱ休んでる暇は無さそうだぜ」


 突如、その目付きが変わる。

「とんでもねえ魔力が近付いてやがる。幹部格か……?」

 南西方向──すなわちヴァリアール城の方向から向かってくる何者かを警戒して臨戦体勢をとるハク。

 それに倣ってレヘンとゲンマもそれぞれ手と刀を構えた。

 その魔力反応は瞬く間に距離を詰め。

 次の瞬間。

 鈍い金属音とともに、ハクの紅蓮拳とバレットの拳がぶつかり合った。

「よう人間!殺しに来てやったぜ!」

「おいおい……随分強そうじゃねえか……!」

 二人は同時に、歓喜の笑みを浮かべる。

 お互いがお互いの実力をその一撃で感じ取り、悟ったのだろう──この男は、自分を満足させるに足る強者だということを。

「オラァッ!!」

 ハクは掛け声とともに拳の炎を一気に増大させ、さらに炎の色を白く変化させた。

 バレットは飛び退いて炎をかわす。

「レヘン!ゲンマ!お前ら先行ってろ!コイツとは一対一(サシ)()りてえ!」

 バレットと対峙したまま、ハクは二人に指示する。

「大丈夫?凄い強そうだよ?」

「だからだよ!」

「……心配だなぁ」

「ハッ、いつから俺の心配できるほど強くなったんだ?レヘン」

「ふふっ、冗談!それじゃあここは任せるね、ハクさん!」

「おう!」

 そんなやり取りを交わした後、レヘンとゲンマは再びそれぞれの能力によって浮かび上がり、ヴァリアール城へと向かった。


「本当に大丈夫なの?三人でかかれば問題なく勝てる相手だと思うけど……」

 飛行しながらゲンマが尋ねると。

「大丈夫!ハクさんは最強だよ!」

 屈託の無い笑顔でレヘンは答えた。

「いや強いのは分かってるよ。そういう心配してるんじゃなくてさ……三人ならもっと早く終わるんじゃない?ってこと」

「え?何言ってるのゲンマさん。折角強敵に出会えたのに、三対一なんて勿体ないよ。ハクさんはずっと対等に戦える相手を捜してたんだよ?」

 心の底から理解できないといった表情でゲンマに戸惑いの視線を送るレヘン。

「いやいや、この戦いって世界の命運とか懸かってるんだよね……?君たちがそれ教えてくれたわけなんだけども……」

 まるで遊び感覚で戦いに臨むレヘンたちに、ゲンマの胸中には困惑と呆れが同時に押し寄せる。

 先行き不安に感じて大きな溜め息を落としつつも、前方にはっきりと見えてきたヴァリアール城を前に、ゲンマは覚悟を決めた。

「……まあいいや。ハクさんはともかく、レヘンくんは協力してよね」

「勿論!」

 やはり屈託の無い笑顔でレヘンは答える。

 コロコロと表情が変わり胸中が全く読めないレヘンに、ゲンマは苦笑で返すしかなかった。

 

 † † †


「バレット殿が会敵したようですじゃ。三匹のうち二匹は依然としてこちらへ向かっております」

 ヴァリアール城・玉座の間で、ポンダーが報告する。

「はあ~!?結局逃がしてんじゃん、あのバカ!!」

 B2はキレた。

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