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異世界で釣りをしていたら魔王と釣り友達になった  作者: sillin
第二投目 魔王と勇者の釣り勝負
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8/26

8 海へ

 自宅から海までは近い。


 実はおれが釣りを始めたきっかけは、引っ越しだった。

 同じ市内を移動しただけなんだけど、中学の時に親が海辺の分譲地を買って、家を建てたのだ。

 50近い区画のある大型分譲地で、クラスのアイドルの女の子もそこへ引っ越すことになっていたからうれしかった――てのは別の話。


 とにかく、3分歩けば海に出て、そこから伸びる堤防の先端まで行っても10分あればポイントに着く。

 娯楽の少ない田舎だ。釣りをしないって選択肢の方が、逆になかったと言っていい。

 家から出て歩きながら、そんな話をする。

 ときおり近所の人とすれ違うけど、エルから毒電波でも出ているのか、異質な集団が人目を引いた様子もなかった。


「着いたぞ。勝負の会場はここでいい……よな?」


 海に到着。

 砂浜を背に振り返って、おれは確認する。

 正直に言ってきれいなところじゃない。古いコンクリが護岸を固めているし、砂浜は白いわけでもなくゴミが落ちているし、異世界で感動を受けたあの湖畔に比べたら、申し訳なくなるような場所だ。おまけに十日も釣れないと来た。

 だけどエルはうなずいた。


「うむ。ここで、大きな魚を釣った方が勝ちとする」


「よーし、やるぞぉ~!」


 ライカもわくわくしているようだ。本人たちがやる気ならいいか。


「じゃあ狙う魚種とルールの説明をする」審判を任されたおれは、今日の日のためにいろいろ考えてあった。


「まずここで釣れる大きな魚は、スズキとボラだ。特にボラは大きい奴がうじゃうじゃいて、たまに水面を埋め尽くすんじゃないかってくらい湧くこともある。だけどボラはだめだ。釣れてもノーカウント」


「えー、なんで?」ライカが口をとがらせる。


「今回はゲームフィッシング、つまりルアー釣りだからな。ボラはルアーをほとんど食わない。釣れるとしたら身体にたまたま引っかかる、スレ掛かりがほとんどなんだ。ゲームとして成立しないから、ノーカン」


「ボラがもし食ってきたらどうする」エルは腕を組んだ。


「うーん……まあ、釣れた魚の口に針が掛かってたらオッケーにしようか。ルアーを食ったのがわかるくらいに。でもそれを狙うくらいなら、別の魚を狙った方がいい」


「狙うはスズキとやらか」


「そうだ」おれは釣り雑誌の写真を切り抜いたものを見せる。「これがスズキ。ルアーで狙う時はシーバスって言い方をするから、これからそう呼ぶぞ」


 どこが似ているのか知らないが、ブラックバスに似ているから海のバス、シーバスと言われるようになったらしい。たぶんゲーム性が似ているんだろう。


「シーバスはいろんな種類のルアーで狙えるから、人気のある魚だ。そのせいでスレてしまってぜんぜん釣れない。おれなんて十日狙っても釣れない」


 言ってて哀しくなってきた。


「でも釣れた時は感動ものだ。すごく引くし、エラ洗いって言ってルアーをはずそうとジャンプしたりするし、釣り上げるまで気を抜けないんだ。だから今回の勝負、もしかすると一匹釣った方が勝ちになるかもしれない。そもそも、釣れない可能性の方が高い」


「釣れなかったら、日を改めて釣れるまで勝負は続ける」


 エルが釣りバカそのものの発言をする。

 まあそのくらいの心持でいたほうがいいだろう。おれもシーバス用の道具をそろえてから、実際に釣れるまで半年かかった。


「次に使用する道具だけど、釣り竿は自前のものでいいんだよな?」


「ああ。この世界のものの方が性能はいいんだが、借りたもので勝負するのもな。それにおまえも数を持ってないんだろう」


「自分で使う分しか、基本そろえてないからね……」


「ライカもそれでいいな」


「いいよ。道具より腕で勝負!」


 その考えも間違っちゃいないだろう。釣りがうまい人でも道具は関係ないって人はいる。


「じゃあ釣り竿は自分のを使うと。で、ルアーだけど、それはこれから釣具屋に行く。そこでひとつ、自分のルアーを買ってもらう。お金はマイケルが出すから」


「What!?」


 右から左に聞き流していたマイケルがここだけ反応した。


「おれはこの前竿買ってお金ないから。マイケル、ここは男をみせるところだ。きっとモテるぞ」


「……出さないとは言ってませーん。ヘイ、レディたち。ルアーはこのマイケルが買ってあげましょうー!」


 ちょろいやつ。

 仮にも魔王と一国の王女にはピンと来てないようだ。たとえ1000円でも、おれたち学生にとってどれほどの大金なのか……。

 やめよう、また哀しくなってきた。


「最後にポイントの説明だ。得点じゃなくて釣り場の話な。まずここは、河口とサーフが両方ある。見ての通り、堤防を境に左側が河、右側が砂浜だ。どこを釣り座にするか、一か所に絞るもよし、あちこち移動するもよし。堤防を奥に進むにつれ、右の砂浜は水深が深くなって普通の海になる。一方河の方はあまり変わらない。先端まで行ったら、淡水と海水が潮位によって入り混じって、潮の流れを読むのも大事になってくるんだ」


「で、シーバスはどっちで釣れるの?」ライカの疑問はもっともだ。


「どっちでも釣れる。おれがいままで釣ったシーバスの7割は河の方だ。だけど自己最高記録は海の方で釣った。ヒントはここまでだ。あとは勝負が始まってから、その時の潮や状況を見て判断してくれ」


 2人とも視線をそろえて海の方を見やった。

 そろそろ潮が上がってくる。もっと下見してもいいけど、釣具屋に行くならもう時間だ。


「じゃあ、近くに行きつけの釣具屋があるから、そこへ行こう」


 名残惜しそうな2人を連れて、おれは海を後にした。


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